育種学雑誌
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オオムギと野生種 Hordeum bulbosum L. 間の種間雑種の分裂組織由来のカルスにおける染色体安定性
野田 和彦高山 美奈子
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1986 年 36 巻 2 号 p. 91-99

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抄録

オオムギと野生種尻H.bulbosum L.間の種間雑種では,bulbosumの染色体が特異的に消失することが知られている.染色体の消失は,雑種胚あるいは胚乳の初期発生時に起こる(KASHA 1974).これを利用して,オオムギとH.bulbosum間の種間交雑は,オオムギの半数体作出法として使用されている。この種間交配直後の胚あるいは胚乳発達時に起こる染色体消失は,また稀に得られる雑種植物の一部の細胞分裂組織でも観察される(N0DA and KASHA 1981 a,b).このことより,染色体消失と細胞分化との関係を明らかにするため,高い染色体消失を示す穂原基細胞からカルスを誘導し,カルスという脱分化状態にした時の染色体消失をしらべた.今回用いた,オオムギ(2x=14)とH.bulbosum(4x=28)間の3倍体雑種(3x=21)においても,穂原基細胞では,小核をもつ細胞頻度カミ平均7.8%あり,26.2%の細胞が3x=21より少ない染色体数をもっており,高い染色体の消失が起っていた(Table4,6).レかし,同じ植物の他の分裂組織である根端細胞では,小核をもつ細胞頻度は平均0.1%,3x=21より少たい染色体数をもつ細胞はわずか4.0%と,染色体の消失は殆ど観察されなかった(Table5,6).このように染色体消失は,組織依存性を示した.染色体消失が,特定の組織で高いことは,細胞の生理的状態と染色体消失が関係していることを示唆している.染色体消失が高い発生初期の胚,胚乳そして穂原基は,染色体消失の低い根端分裂組織より,細胞分化のための高い生理活性状態にあると推定される.

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