抄録
自殖性作物であるイネで,F1種子の大量採種を可能とするには,種子親となる雄性不稔系統の自然交雑率を飛躍的に高める必要がある.そこで自然交雑率に関係する花器形質について温帯日本型の日本型育成品種,在来品種,ならびにOKA(1958)とOKA and CHANG(1962)の分類による熱帯日本型を対象に調査を行った.また,農林水産省生殖質保存管理室の種子保存目録の中の品種名のあとに(Majiri品種)と記載されている日本型在来品衝に着目した.種子親の花器形質として頴花あたり露出柱頭数(2本ある柱頭について開頴時の露出柱頭数),花粉親の花器形質として穎花から抽出した直後の葯の花粉残存数を調査した,各花器形質について有意な品種間差が見られた.穎花あたり露出柱頭数は,熱帯日本型は平均0.52本で最も多く,1.0本以上の品種も見られた.一方,温帯日本型では値の小さい品種がほとんどであるが。(Majiri)の記載がある在来品種の平均値は(Majiri)の記載がない品種より大きく,さらに前者には水口濡(N0.72)のように0.5本以上の欠きた値を示す品種がいくつかあった.したがって,穎花あたり露出柱頭数が自然交雑率と深くかかわっていることが示唆された.また,葯抽出時の花粉残存数は,熱帯日本型のManggarsi I(No.129)が最高で葯あたり1,736粒であり,温帯日本型の日本在来品種でも1,000粒を越える品種が多数みられた.以上,温帯日本型でも形質に分離が生ずる雑駁な品種には自然交雑率を高め得る花器形質が存在するので,これらの品種を利用すれば花器形質の改良が可能である.自然交雑率をさらに高めるためには,交雑不稔を生じるなどの問題はあるが,熱帯日本型の有用花器特性を遺伝子給源として利用できると思われる.