抄録
5-メチルトリプトファン(5MT)耐性細胞株をイネ(品種,ササニシキ)の系弓培養由来の懸濁培養細胞から,50ppmの5MTを含む液体培地及び寒天培地で選抜したところ,3系統の細胞株(SAR-1,2,3)が得られた.この耐性株の出現頻度は,およそ5×10-7であった.これらのうち2系統(SAR-1,3)は安定した耐性を示したが,1系統(SAR-2)は,二ヶ月間,5MTを含まない培地で培養したところ耐性を消失した.安定した耐性を示したSAR-3の遊離アミノ酸含量を分析したところ,トリプトファンが5MTで選抜しなかった親株より,50倍増加していることがわかった.このSAR-3株からの植物再分化を試みたが,成功せず,それ故,この株は,長期培養のため,再分化能力を失ったものと推定した. SAR-3株の5MT耐性形質を植物体に導入するため,再分化能力があり,5MT感受性の細胞株(ハナヒカリ)との細胞融合を行った.両プラトブラストをデキストラン溶液中で混合し,融合処理を行った.コロニーの直径が200μmぐらいになるまで5MT無添加培地で培養した.その後,5MT25ppmを含む選抜培地で2週間培養し,盛んに増殖してきたコロニーを選び,再分化培地で培養したところ,およそ2×105個のプロトプラストから,3個のアルビノ植物が得られた.これらの植物からカルスを作出し,5MT耐性を調査したところ,SAR-3とハナヒカリの中間型を示した.本実験の対照として用いたSAR-3は再分化せず,ハナヒカリにおいては,細胞分裂はほとんど観察されず,コロニー形成には到らなかったので,得られたアルビノ個体は雑種であると推定された. 本実験の結果は他植物(Nicotiana,Dacus,Sinapis)で報告されているように,5MT耐性と再分化能のマーカーがイネの細胞融合においても有効であることを示している.