育種学雑誌
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ヒエ属雑草のすみわけに関与する耐乾燥性
山末 祐二中村 明巧植木 邦和草薙 得一
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1989 年 39 巻 3 号 p. 337-343

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抄録

水田に自生するヒエ属雑草(Echinochloa weeds)が畑地など乾燥地に侵入しない生理的要因を明らかにするために,水田および畑地ヒエ属雑草をポットで育成し排水後の葉水ポテンシャル,蒸散速度,気孔抵抗および葉伸長速度を測定することによって,それらの耐乾燥性を比較した.水口ヨ雑草タイヌビエ(E. oryzicola)およびヒメダイヌビエ(E. crus-galli var. formosensis)と畑地雑草ヒメイヌビエ(E. crus-galli var. praticola)の間に,いずれの測定値においても,耐乾燥性差異が認められた(Fig.1).水田,畑地にまたがる広い生育地を持つイヌビエ(E. crus-galli var. crus-galli)は両者の中間の位置を占めた.全ての供試雑草の葉水ポテンシャルは排水後の土壌乾燥にともない同様な傾向で低下したが,水田雑草のそれは排水6日後一23barsに達したのに対して畑地雑草のそれは一15barsにとどまった(Fig.1-A).葉水ポテンシャルが -15barsである時点で比較すると,畑地雑草は水田雑草に比べて,気孔抵抗において10倍大きく(Fig.2),蒸散速度において7倍小さく(Fig.3),また,葉伸長速度において5倍大きかった(Fig.4).さらに,排水5日後,畑地雑草の光合成/蒸散比は他の雑草に比べ著しく大であった(Table1).これらの実験結果から,ヒエ属雑草を相互比較した場合,水田,畑地雑草はそれぞれ水消費型(“Water users"),本節約型(“Water saver")と考えられた.したがって,ヒエ属水田雑草は葉水ポテンシャル低下に対する気孔反応が鈍いため蒸散速度の低下が少なく耐乾燥性が小さい.このことが水分が競合要因となる畑地など乾燥地にヒエ属水田雑草が侵入できない生理的要因の一つであると考えられた.

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