育種学雑誌
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オオムギ野生種Hordeum bulbosum L.およびトウモロコシと属間交雑したコムギ品種における半数体の作出頻度の比較
稲垣 正典TAHIR Muhammad
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1990 年 40 巻 2 号 p. 209-216

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抄録

属間交雑を利用したコムギの半数体作出法の開発を目的として,コムギ5品種を母親に,オオムギ野生種Hordeum bulbosumおよびトウモロコシを花粉親として属間交雑を実施した.授粉直後に濃度100ppmの2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)水溶液をコムギの稈に注入して,胚形成に及ぼす効果を調べた.得られたコムギ未熟胚を無菌的に人工培養し,植物体に再生させ,その染色体数を調べた.さらに,西アジアおよび北アフリカのコムギ20品種についても属間交雑による半数体作出の頻度を調べた. 供試したコムギ5品種のうち2品種のみが,2,4-D処理の有無に関係なく,H.bulbosum(4系統の混合花粉)との交雑で胚を形成した.他方,トウモロコシ(系統Black Mexican Sweet)との交雑においては,2,4-Dを処理しなかった場合には5品種はいずれも胚を形成しなかったが,2,4-Dを処理した場合にはすべての品種で胚が形成され,その平均頻度は22.1%であった.2,4-Dを処理した場合のコムギ4品種とトウモロコシ8系統の交雑胚形成率を調査したところ,コムギ品種間で8.3%~21.1%およびトウモロコシ系統間で11.0%~21.8%の差異がみられた.統計分析した結果,コムギ品種間差異のみが有意であった.H. bulbosumおよびトウモロコシとの交雑により得られたコムギ未熟胚を人工培地で培養した結果,平均頻度43.1%で植物体に再生した.調査した再生植物体すべては,21本の染色体を有するコムギの正半数体であった.他の研究報告(LAURIEおよびBENNETT 1986.1987)では,コムギとトウモロコシとの間の受精およびトウモロコシ染色体の消失がすでに確認されているので,コムギに対する2,4-D処理には,コムギの受精卵がトウモロコシ染色体を消失しつつコムギの半数1生肝に発育するのを促進する効果があると推察された.コムギ20品種を供試して,H. bulbosum(4系統の混合花粉)およびトウモロコシ(8系統の混合花粉)との属間交雑によるコムギ半数体の作出頻度を比較すると,H. bulbosumとの交雑では,3品種が極めて低率の交雑和合性を示したのみで,わずか0.2%の作出頻度が得られたのに対し,トウモロコシとの交雑においては,すべての品種が高率の交雑和合性を示し,9.5%の作出頻度となった. 以上から,コムギに対するトウモロコシ花粉の授粉および2,4-D処理を組み合わせた属間交雑の手法の開発により,より広範なコムギ遺伝子型から半数体を容易に作出しうることを明らかにした.

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