育種学雑誌
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40 巻, 2 号
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  • 蔡 国海
    1990 年 40 巻 2 号 p. 133-146
    発行日: 1990/06/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,水稲品種台中65号の同質遺伝子系統を交配したときその後代に出現した異常個体について,その遺伝支配の原則を求めることである.出穂を早める遺伝子Ef-1などをもつ同質遺伝子系統の戻し交雑と自殖の後代に出穂期が親と異なる変異体が出現することがある.本実験の初期には,その出現頻度は1%以下であり,複合遺伝子座内の組み換えにより種々のアイソアレルが生まれると考えた(TSAI1976).その後,変異体の出現頻度が5%を越す場合も見出され,その後代には出穂性だけでなく草丈なども親と異なる変異体が分離し,また葉緑素が減少し殆ど分けつしない弱勢個体が出現する場合もあった. 実験1では,異なる一回親を用いた反覆戻し交雑から得られた台中65号と同様の表現型を示す2系統間の交雑後代に出現した種々の異常分離個体の遺伝を調べた.その系図は図1のようであり,種々の早生系統と共に台中65号より約15日晩生の系統も得られた.この晩生系統と台中65号に誘発された晩生遺伝子ef-2をもつ系統との交雑から,両者の晩生遺伝子は同一座にあることが判った.しかし,このF。には台中65号よりやや早生の1個体が出現し,その自殖後代では弱勢個体が1/4の頻度で出現した. 実験2では,誘発早生遺伝子Ef-1xをもつ系統に台中65号の戻し交雑を9回行って得た台中65号型個体の自殖(5回)系統に出現した弱勢個体の異常分離をとり上げた.交配実験の結果,弱勢型は単一の劣性遺伝子に支配されるが,その自殖後代には少数の正常型が出現すること,また正常型の自殖後代には再び弱勢型が分離することが判明した.そのとき,正常な生育を示す晩生型も分離した.この晩生を支配する遺伝子は意外にもef-2と同一座位にあった.さらに,弱勢個体から分離した正常型と晩生型の自殖後代系統には草丈の低下が認められた. 以上のような出穂性と生育に関する変異の発生とそれらの複雑な遺伝は1つの自律型トランスポゾンの介入を仮定することによって説明できる部分が多かった.遺伝子座内(相同染色体間)および異なる座位間のその転移によって生じる配偶子系列の頻度を予測するモデルを作り,変異の発生率からトランスポゾン転移率を推定した.変異個体が最初に発現した世代では転移卒が低く(例えば約O.3%)次代以後にはもっと高くなる(例えば5.5%)傾向があった.現在,分子生物学的にトランポゾンの存在を実証する研究も計画中である.
  • 丹羽 克昌, 大田 正次, 阪本 寧男
    1990 年 40 巻 2 号 p. 147-152
    発行日: 1990/06/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    トルコ東部は最も有力な栽培型ライムギの起源地のひとつと考えられている.従ってこれらの地域におけるライムギ属植物の細胞学的変異を調査することは重要である.にもかかわらずトルコ産のライムギを用いてその細胞学的変異を調査した報告はほとんどない.そこで本実験では多集団のトルコ産Secale cereale L. と S. montanum Guss.を用いてこの地域におけるB染色体を持つ個体の出現頻度とB染色体の細胞遺伝学的特性を調査した. S. cereale に関してはトルコの15集団,合計861個体を細胞学的に観察した.その結果2集団のみにB染色体を持つ6個体が見いだされ,他の集団にはB染色体を持つ個体は見いだされなかった(第1表と第1図).6個体とも2本のB染色体を持っていた.B染色体を含む集団でのB染色体を持つ個体の出現頻度は2.2%(5個体/226個体,系統16)と1.5%(1個体/67個体,系統23)であった.このことからトルコにおいてはB染色体を持つ個体の出現頻度は低いことが明らかになった.この結果はMUNTZING(1950)およびSAKAMOTO and AKITA(1982)の結果とほぼ一致している.本実験で見いだされたB染色体は常染色体とは対合しなかった(第2図aとb).また,不分離を起こし,標準型B染色体である(第2図cとd)と考えられた.この特徴は世界各地のcerealeのB染色体に共通したものであり,cerealeのB染色体が一元的に起源したことを示唆している. 次に, S. montanumに関してはトルコの4集団,合計45個体を細胞学的に観察した.B染色体を帯つ個体は見いだされなかった(第2表).
  • 伊佐 隆, 小笠原 健, 金子 浩子
    1990 年 40 巻 2 号 p. 153-157
    発行日: 1990/06/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    アルギン酸カルシウムゲル包埋の技術は,従来,細胞の固定化とそれに引き続くバイオリアクターとしての利用が主であった.しかし最近,植物のプロトプラストをこれに包埋して培養することによりプロトプラストの培養に成功した例が報告された.我々は,先にサフランの培養系を確立したが未だプロトプラスト培養系の確立には至っていなかった.今後,サフランを用いた細胞工学的育種及び研究を行うに際して,プロトプラストの培養系確立は非常に重要である.そこで,アルギン酸カルシウムゲル包埋の技術を用いてサフランプロトプラストの培養を試みた. サフランカルスの誘導は前報(伊佐ら1988)の方法に従った.誘導後の継代が3~4代目のカルスもしくは液体培養細胞を5~10グラム用意し,これを次の方法でプロトプラスト化した.MS基本培地にセルラーゼオノズカRS1.0%,ドリセラーゼ1.0%,ペクトリアーゼY-230.1%を加え,マンニトールで浸透圧を0.3Mに調製した酵素液に細胞を加えた.25℃でゆるやかに約1時間振藍し,検鏡しながらプロトプラスト化の確認をした.単離調製したプロトプラストは,別に準備したアルギン酸溶液(2%)に所定の密度で懸濁した後,塩化カルシウム溶液(1%)に順次滴下した.そのまま20分放置してゲルを形成させた後,培養液(MS基本培地に2,4-D 0.3mg/lとゼアチンを0.2mg/l,及びマンニトール0.3M添加)で2回洗浄し液交換した.このゲルを,同じ組成の培地で一方はそのまま,他方は高密度の液体培養細胞で保護培養した.浸透圧を順次下げつつ,7~10日間隔で数回培養液交換を行いながら培養した. その結果,ゲル包埋せずにそのまま液体培養したプロトプラストは全く分裂に至らなかったが,ゲル包埋を行い,かつ保護培養した場合には,ゲル包埋のみで保護培養しなかったものに比べて,より旺盛な細胞分裂とカルス形成が認められた(Table 1.).前報の方法に従い,形成されたカルスを再分化培地に移植した結果,カルス当たり80%の頻度で植物体が再生した(Fig.1.).以上のように,従来の普通の培養方法では全く培養できなかったサフランプロトプラストを,アルギン酸ゲル包埋と保護培養によって,かなり高率に分裂および再生させることに成功した.
  • 塩谷 格, 吉田 鎮夫, 川瀬 恒男
    1990 年 40 巻 2 号 p. 159-174
    発行日: 1990/06/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    サツマイモ(2n=6x=90)に近縁な野生二倍体種(2n=2x=30)の分類学的同定は,日本とアメリカの研究者によりそれぞれ異なった見解の下になされてきた.本研究では,京都大学の寺村貞・西山市三や三重大学の塩谷格がIpomoea triloba L.,I.lacunosa L.,I.trifida(H.B.K.)D0N.としてきた系統ならびにジョージア大学のA.JONESがI.triloba.I.triloba CH0ISY,I.lacunosa L., I.cordatotriloba DENN. (syn.I.trichocarpa ELL.)としてきた系統,全部で51系統を同一環境で育てて比較し,多変量分析による再分類を検討した(Table1). 加重変数群法によるクラスタ分析では,葉や茎についての10形質,花序の8形質,花冠の10形質,がく片の6形質,およびさく果と種子についての7形質,計41形質をもちいた.また,これらの41形質からIpomoea種の分類のため選んだ24形質に一つの根部形質を加えた25形質をもちいて,同じ51系統の主成分分析を行なった.
  • 小松 敏憲, 杉信 賢一, 鈴木 信治
    1990 年 40 巻 2 号 p. 175-181
    発行日: 1990/06/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    寒地型イネ科牧草のイタリアンライグラス(Lolium multiflorum LAM.)とトールフェスク(Festuca arundinacea SCHREB.)との属間交雑育種を効果的に推進するために,両種の交雑親和性に関する3通りの実験を行った. 最初の実験では,イタリアンライグラス3品種とトールフェスク12品種・系統間で2か年(1980.1983)にわたって交雑を行った.その結果,交雑親和性(雑種個体数/穂)は2か年とも交雑組合せ間で大きな変異が認められ,1980年には16.4~103.7,1983年には17.3~145.0であった.また,トールフェスクの中に,両年とも高い交雑親和性を示す品種が認められた. 第二の実験では,交雑親和性に及ぼすイタリアンライグラスの遺伝子型の影響をみるために,イタリアンライグラス4クローン(遺伝子型)とトールフェスク6クーロン(遺伝子型)との交雑を実施した.交雑親和性は,母親のイタリアンライグラスの遺伝子型によって有意に異なったが,トールフェスクの遺伝子型では有意な差は認められなかった. 第三の実験では,イタリアンライグラスの品種ワセアオバのW-2クローンは交雑親和性が非常に高かったので,その遺伝性をみるために,W-2クローンの自殖次代植物(W-2/S)とトールフェスクのクローンとの間で交雑を行った.その結果,14個体のW-2自殖次代植物とトールフェスククローンとの稔実卒は平均84.5%,範囲62-96%で,大部分の個体が高い交雑親和性を示した.
  • 小川 紹文, 山元 剛, KHUSH Gurdev S., 苗 東花
    1990 年 40 巻 2 号 p. 183-192
    発行日: 1990/06/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    イネ白葉枯病レースの国際判別品種を設定するため,抵抗性遺伝子を一つずつもつ準同質遺伝子系統の育成が日本農林水産省とIRRI(国際稲研究所)との共同研究として行われた.その準同質遺伝子系統を育成する前提として,日本とIRRIの判別品種をフィリピン産および日本産白葉枯病菌レースを用いて分析する必要があった.そのため,抵抗性母種ZenithとCempo Selakの遺伝を,フィリピン産および日本産白葉枯病レースを用いて分析した.イネ品種Zenithは,IRRIの研究者によって抵抗性遺伝子Xa-6を所有していると報告されている.しかし,日本・IRRI判別品種にはXa-6を持つ品種は含まれていない.現在同定されている金ての抵抗性遺伝子を,準同質遺伝子系統に組み込むためには,Xa-6を持つ系統も育成する必要があった.イネ品種Cempo Selakは最近までIRRIの判別品種に加えられていたが,その所有遺伝子は明らかでなかった.一方,日本産およびフィリピン産白葉枯病菌レースを用いて,この両品種に予備的に接種検定したところ,その反応はXa-3を持つ中国45号やジャワNo.14とよく似ていた.すなわち,ZenithとCempo Selakはフィリピン産の4つのレースおよび日本産のIからIIIのレースに抵抗性を示すと共に病斑の周囲が褐変化した.このことから,Zenith及びCempo Selakと中国45号およびジャワNo.14との抵抗性遺伝子の対立性検定を行うこととした.
  • 山口 誠之, 四方田 淳, 日向 康吉
    1990 年 40 巻 2 号 p. 193-198
    発行日: 1990/06/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    イネ葯培養における低温処理の効果を,カルス形成率に対する、葯の温度反応の観点から検討した.花粉形成期の低温抵抗性.の違いによって選んだ7品種を実験に供試した(Table1).低温処理は,3通りの温度区(5,10,15℃),5通りの処理日数区(8,16,24,32,40)を設定して与えた.葉耳間長2~5cmの時に,幼穂を含んだ葉鞘をビニール袋に入れて低温処理をした.処理後,数個の穎花を取り出して1核期の花粉であることを確認してから,葯をN6カルス形成培地(2,4-D2mg/1,ショ糖30g/l,寒天10g/lを添加)に置床した.各処理区ごとに約200個の葯を使用した.培養は,25℃,照度12.5w/m2,日長14時間の条件で行った.カルス形成率(置床葯当たりのカルス形成葯数の割合)は,全品種,全処理区で8日目から32日目までほぼ直線的に上昇した(Fig.1).そこで,置床後32日目のカルス形成率について,以下の検討を行った.
  • 日高 哲志, 大村 三男, 宇垣 正志, 富山 雅光, 加藤 明, 大島 正弘, 本吉 総男
    1990 年 40 巻 2 号 p. 199-207
    発行日: 1990/06/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    材料には,`ワシントン'ネーブルオレンジ,`太田'ポンカン,`カラ'マンダリンの胚及び`トロビタ'オレンジの花粉起源胚様体から作出したカルスを用いた.それらのカルスは,カイネチン5×10-5M,蔗糖0.2Mを含むMSの寒天培地で継代し,実験2ヵ月前から同様の組成の液体培地で2週間ごとに継代培養を行った後,実験に用いた. Agrobaclerium tumefaciensはLBA 4404起源の2系統を用いた.A415株は,binary vector systemとしてカナマイシン耐性遺伝子(P5S/nptII/Ttml)を持ったpTRA415とpAL4404を持ち,また,もうひとつの系統,GV3010株はハイクロマイシン耐性遺伝子(P35S/htp/Tnos)を持ったpGV 3850-Hygを持ったものである. 継代培養7日目に,これら2系統のA.tumefaciensとカンキツカルスを,カルス継代培地と同様の組成のMS液体培地で3~7日間共存培養した.その後,これらのカルスをMS培地に蔗糖O.2Mを含むカルス形成培地,あるいは,MS培地にガラクトースとソルビトールそれぞれ0.1Mずつ含む胚様体形成培地(寒天0.8%)に置床した.除菌にはカルベニシリン500μg/mlを用いた.形質転換細胞の選択のために,培地にはそれぞれカナマイシン100μg/ml,あるいはハイグロマイシン20μg/mlを加えた.
  • 稲垣 正典, TAHIR Muhammad
    1990 年 40 巻 2 号 p. 209-216
    発行日: 1990/06/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    属間交雑を利用したコムギの半数体作出法の開発を目的として,コムギ5品種を母親に,オオムギ野生種Hordeum bulbosumおよびトウモロコシを花粉親として属間交雑を実施した.授粉直後に濃度100ppmの2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)水溶液をコムギの稈に注入して,胚形成に及ぼす効果を調べた.得られたコムギ未熟胚を無菌的に人工培養し,植物体に再生させ,その染色体数を調べた.さらに,西アジアおよび北アフリカのコムギ20品種についても属間交雑による半数体作出の頻度を調べた. 供試したコムギ5品種のうち2品種のみが,2,4-D処理の有無に関係なく,H.bulbosum(4系統の混合花粉)との交雑で胚を形成した.他方,トウモロコシ(系統Black Mexican Sweet)との交雑においては,2,4-Dを処理しなかった場合には5品種はいずれも胚を形成しなかったが,2,4-Dを処理した場合にはすべての品種で胚が形成され,その平均頻度は22.1%であった.2,4-Dを処理した場合のコムギ4品種とトウモロコシ8系統の交雑胚形成率を調査したところ,コムギ品種間で8.3%~21.1%およびトウモロコシ系統間で11.0%~21.8%の差異がみられた.統計分析した結果,コムギ品種間差異のみが有意であった.H. bulbosumおよびトウモロコシとの交雑により得られたコムギ未熟胚を人工培地で培養した結果,平均頻度43.1%で植物体に再生した.調査した再生植物体すべては,21本の染色体を有するコムギの正半数体であった.他の研究報告(LAURIEおよびBENNETT 1986.1987)では,コムギとトウモロコシとの間の受精およびトウモロコシ染色体の消失がすでに確認されているので,コムギに対する2,4-D処理には,コムギの受精卵がトウモロコシ染色体を消失しつつコムギの半数1生肝に発育するのを促進する効果があると推察された.コムギ20品種を供試して,H. bulbosum(4系統の混合花粉)およびトウモロコシ(8系統の混合花粉)との属間交雑によるコムギ半数体の作出頻度を比較すると,H. bulbosumとの交雑では,3品種が極めて低率の交雑和合性を示したのみで,わずか0.2%の作出頻度が得られたのに対し,トウモロコシとの交雑においては,すべての品種が高率の交雑和合性を示し,9.5%の作出頻度となった. 以上から,コムギに対するトウモロコシ花粉の授粉および2,4-D処理を組み合わせた属間交雑の手法の開発により,より広範なコムギ遺伝子型から半数体を容易に作出しうることを明らかにした.
  • 岸谷 幸枝, 今野 昇
    1990 年 40 巻 2 号 p. 217-222
    発行日: 1990/06/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    ミトコンドリアの内膜で起こっているシアン耐性呼吸の阻害剤によつ雄性不稔が誘発された.ブロッコリー(Brassica oleracea L. cv. De Cicco)の花芽分化後の蕾に,主要な阻害剤;SHAM(salicylhydroxamic acid),Propyl gallate, Disulfiram,をそれぞれ,1-10mM,0.1-1mM,0.1-1mMの濃度で7-10日間処理した.処理方法は蕾の下部の茎に糸を通して,吸収させる方法を採った.いずれの阻害剤も適当な濃度で雄性不稔を誘発したが,Disulfiramは花弁が開きにくい等の影響がみられたので,主にSHAMとPropylgallateを用いた.花器を観察すると,正常型と比べて,誘発された不稔花は花弁の大きさが小さくなり,葯の柱頭に対する相対佐渡も低くなるなど,細胞質雄性不稔ブロッコリーとよく似た形態を示した(Figs,1,2).1花当りの総花粉数と稔性花粉の割合(%)はともに大きく低下しており,葯の大きさもやや小さくなり,開花時に菊が裂開しない点でも,対照の細胞質雄性不稔系統と類似していた(Table!). 阻害剤の処理方法として,種子に処理した場合には,約18%の割合で雄性不稔個体が出現した. 阻害剤により誘発された雄性不稔花に正常な花粉を交配したところ,細胞質雄性不稔系統と比較して,種子稔性が0-30%に低下したことから,これら阻害剤は同時に雌ずいにも異常を引き起こしているようである.しかしながら,濃度等の処理条件をさらに検討することによつ,雄性不稔性は維持しつつ,雌ずいへの影響を最低限にとどめる方法が見いだせるかも知れない.
  • 福岡 忠彦, 福井 希一
    1990 年 40 巻 2 号 p. 223-232
    発行日: 1990/06/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    肉眼観察によっている食用大麦の精麦品質の評価方法を客観化するために,画像解析法による数量化を試みた.そのために,M.G.染色法によって染色された精麦粒の胚乳部(桃色)とそれ以外の縦溝,果種皮,糊粉層,胚芽部(青~黒色)とを区分し,全粒面積に対する青~黒色に染色される部分の割合を精麦程度評価の尺度とした.染色部位の区分は,画像解析法によって画像の濃淡を計測して行った.画像解析法による計測条件として,背景(白)から精麦粒を抽出する濃度値範囲を0-150,胚乳部以外の青~黒色に染色される部分を抽出する濃度値範囲を0-50,一画面上に取り込む粒数を60粒とすれば適切であることがわかった.この条件で,精麦程度評価基準サンプルの画像解析法による評価を行った結果,基準サンプルの階級と画像解析法による評価とはよく対応し,精麦程度を数量的に評価することが可能であることがわかった.さらに既に肉眼判定済みのサンプルについて画像解析法による評価を試みた結果,肉眼判定は必ずしも基準サンプルに忠実に基づいたものではないことがわかった.
  • 谷本 忠芳
    1990 年 40 巻 2 号 p. 233-243
    発行日: 1990/06/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    わが国の南西地域および台湾で,野生状態で生育するサトイモ29系統を採集した.そして,それらをわが国の最も古い栽培品種である`えぐいも([エグ]芋)'とともに栽培して,栄養体および花序の形態を調査した.採集系統はいずれも小川,水田の中またはその周囲および路傍など人間の活動の影響の大きな所に生育していたものである.これらのうち,わが国の本州,九州および八丈島の系統は3倍体(2n=42),その他の系統は2倍体(2n=28)であった.各系統内には形態的変異はほとんどなく,系統間には草丈,葉形指数および葉柄色に大きな変異が認められた.また,側枝の形態については,3倍体が倒卵形体またはこん棒状の芋であったのに対し,2倍体はランナー状で先端に幼植物ができた.栽培条件下で全系統が開花した.花序の各部位の長さは系統間で大きく異なった.栄養体および花序の形態をもとに各系統をわが国の5群,および台湾の3群にそれぞれ分類できた.ただし,台湾の1系統はわが国の1群に入った.これらのうち,わが国の2群は熊沢ら(1956)が分類した2品種群に一致したが,台湾の群を含む他の群は熊沢らの品種群のいずれとも全く異なった.
  • 山口 聰, 小林 正芳, B. ロイ, 奥田 生世
    1990 年 40 巻 2 号 p. 245-248
    発行日: 1990/06/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    カトマンズ郊外,プルチョキ山(標高2650m)の急傾斜草原にて採集したウコンユリ(Lilium nepalense)について,染色体核型の確認を行った.本種の核型報告は従来なされておらず,今回の新知見は系統関係の把握に有用と思われる.ウコンユリの体細胞染色体は2n=24であり,核型式は2n=24=4V+2v+18J,あるいは2n=24=2Mst+2M+2m+2STst+4ST+12Tとして示せた.長腕の中央部分,あるいは短腕の中央部分に二次狭窄のある染色体はユリ属内では特徴的であり,いずれの染色体をも含んだ核型を示すユリは比較的少数に限られている.その点から見てウコンユリの核型は,Lilium callosum, L. concolor, L. pumilum,などのグループのそれに近似し,C0MBER(1949)の分類による系統関係によく適合していた.
  • 小松田 隆夫, 柯 淑娩
    1990 年 40 巻 2 号 p. 249-251
    発行日: 1990/06/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    筆者らは,半野生ダイズ(Glycine gracilis)の数系統が,比較的高い不定胚形成能を示す事をすでに報告している.しかし,G.gracilisの系統が多くの不良な農業形質もあわせもつことは,育種上の問題点である.そこで,栽培ダイズ(G.max)の中から不定形胚形成能の高い系統を見い出す目的でスクリーニングをおこなった.農業生物資源研究所,植物遺伝資源配布目録から品種を無作為に選択し圃場に播種し,7-9月に着夾した栽培ダイズ290品種及び標準としての半野生ダイズ5系統の未熟胚を3%sucrose,10mg/INAAを含むMSB固形培地(pH7.0)へ置床した.培養開始6週間後,不定胚形成数を調査した。 供試した品種・系統のうち,不定胚形成を示さないものは28品種,また未熟胚当り2.O以上の不定胚を形成したものが22品種・系統であった.最高の値を示した品種は,南アフリカから導入されたBrownie DL/64/177であった.この品種は供試したG.gracilis系統の中で最高の値を示した秣食豆(公502)よりも高い値を示した唯一の品種であった.Brownieは形態的に栽培ダイズの範=に入ると判断しえた.
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