育種学雑誌
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キャベツにおける品種間接木キメラ形成
平田 豊柳下 登杉本 充山本 浩一朗
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1990 年 40 巻 4 号 p. 419-428

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抄録

接木キメラ組織間の物質的相互作用を明らかにするとともに,その育種的利用の可能性を追究する目的で,緑色の「葉深カンラン」と紫色の「紫カンラン」のキャベツ二品種を用いて作出した接木キメラに関して組織学的,遺伝学的解析を行った. 外部形態的に紫色の卓越するキメラ植物は,緑色卓越型キメラや「深葉カンラン」に比べて開花期が遅くて「紫カンラン」の開花期に近く,花の形も,両品種の中間的性質を持っていた.また,キメラ植物組織では,アントシアニン色素を発現している細胞と発現していない細胞が複雑なモザイク状態を呈していた. これと平行して,キメラ植物の生殖細胞層の遺伝子型の存在状態を調べるために,キメラ植物の諸部位に着く花の柱頭に,アントシアニンを発現しない劣性ホモ型の「葉深カンラン」および優性親の「紫カンラン」とを交配して,各莢から得られたF1植物のアントシアニン色素の発現状態よつ,キメラ植物における生殖細胞層の遺伝子型を推定した.その結果,ほとんどの場合に生殖細胞は,一つの花の中では,「葉深カンラン」型もしくは「紫カンラン」型のみで安定しておつ,生殖細胞層のキメラ性は認められなかった.しかし,キメラ当代植物V0の緑色部位に「紫カンラン」を交配した場合に,その同一莢に由来する種子世代B1で,薄紫色と紫色植物への分離が2例認められた.また,V1植物の隣花受粉の場合にも2莢に由来する種子世代において薄紫色と紫色植物への分離が認められた.これらのことは,きわめて低い頻度(1.4%=4/288)ではあるが,一つの花の中の生殖細胞層の遺伝子型が,キメラ性を持つことを示している. この原因には,キメラ植物の生殖細胞層そのものが形成過程でキメラとなっているか,キメラ組織間の遺伝子の移動による形質転換による可能性が考えられる。

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