育種学雑誌
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40 巻, 4 号
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  • 中井 弘和, 桑原 定明, 千賀 茂政
    1990 年 40 巻 4 号 p. 397-409
    発行日: 1990/12/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    イネ白葉枯病に感受性の水稲品種晴々を原品種とする,白葉枯病菌系II,III,IVに対して量的抵抗性を,また菌系I,Vに対しては質的抵抗性を示す誘発突然変異体(M57)の遺伝分析を行なった.晴々とM57の交面己F1およびF2実験の結果から,M57の菌糸II,III,IVに対する量的抵抗性はポリジーンあるいは微動遺伝子によって,また,薗系I,Vに対する質的抵抗性は1対の主働遺伝子により支配されていることが明らかにされた.しかしこの質的抵抗性の遺伝子は対立性検定の結果,黄玉群の品種が持つ抵抗性遺伝子Xa-1,Xa-12とそれぞれ類似しており,M1植物養成中の花粉コンタミによることが疑われた.菌系I~Vに量的抵抗性を示したF2個体に由来するF3系統に対する接種試験において,明らかに菌系I~Vのすべてに抵抗性を示す系統がいくらか選抜された.このことから,Mutagen処理によって菌系II,III,IVのみならず菌系I,Vに対しても量的抵抗性を現す突然変異が誘発されたことが示唆された.また,それら選抜されたF3系統のほとんどは,M57の矮性の欠点をもたず,したがってイネの白葉枯病抵抗性育種における貴重な交配材料となると考えられた.
  • 古庄 雅彦, 浜地 勇次, 吉田 智彦
    1990 年 40 巻 4 号 p. 411-417
    発行日: 1990/12/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    栽培二条オオムギの半数体を作るため,日本の二条オオムギ6品種と3組合せのF1を1988年(試験I)に,また二条オオムギ13品種と3組合せのF1を1989年(試験II)に,野生オオムギ(Hordeum bulbosum clone,Cb2920,2n=14)と交雑し,野生オオムギとの交雑能力の品種間差異をみた.全頴化数に対する幼胚着生率および半数体作出率で交雑能力を推定した.二条オオムギ品種の幼胚着生率および半数体作出率は,試験Iにおいてはそれぞれ11.1~59.8%,3.4~29.5%,試験IIにおいてはそれぞれ1.7~72.7%,0.6~26.5%であり,品種間差があった.両試験ともに関東二条25号は他の品種と比較して有意に高い交雑能力を示した(Table 1).F1での幼胚着生率および半数体作出率は,試験Iにおいてはそれぞれ46.6~57.3%,14.1~23.8%,試験IIではそれぞれ34.8~54.8%,12.1~23.9%で,関東二条25号を片親にしたF1はそれを片親に持たないF1よりも有意に高く,その値は関東二条25号に近かった(Table2). 供試した6つのFlはいずれも片親にオオムギうどんこ病抵抗性品種(関東二条25号,吉系15およびニシノチカラ)を持っており,これらのF1から作出した半数体にオオムギうどんこ病菌(レースIX)を接種したところ,抵抗個体と罹病個体に分離した.吉系15およびニシノチカラを片親としたF1から得た半数体では,抵抗個体と罹病個体の分離比が1:1となったが,関東二条25号を片親としたF1から得た半数体では,分離が抵抗性の方へ偏った(Table3).なお,関東二条25号のうどんこ病抵抗性は1個の遺伝子により支配されていた(Table4).
  • 平田 豊, 柳下 登, 杉本 充, 山本 浩一朗
    1990 年 40 巻 4 号 p. 419-428
    発行日: 1990/12/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    接木キメラ組織間の物質的相互作用を明らかにするとともに,その育種的利用の可能性を追究する目的で,緑色の「葉深カンラン」と紫色の「紫カンラン」のキャベツ二品種を用いて作出した接木キメラに関して組織学的,遺伝学的解析を行った. 外部形態的に紫色の卓越するキメラ植物は,緑色卓越型キメラや「深葉カンラン」に比べて開花期が遅くて「紫カンラン」の開花期に近く,花の形も,両品種の中間的性質を持っていた.また,キメラ植物組織では,アントシアニン色素を発現している細胞と発現していない細胞が複雑なモザイク状態を呈していた. これと平行して,キメラ植物の生殖細胞層の遺伝子型の存在状態を調べるために,キメラ植物の諸部位に着く花の柱頭に,アントシアニンを発現しない劣性ホモ型の「葉深カンラン」および優性親の「紫カンラン」とを交配して,各莢から得られたF1植物のアントシアニン色素の発現状態よつ,キメラ植物における生殖細胞層の遺伝子型を推定した.その結果,ほとんどの場合に生殖細胞は,一つの花の中では,「葉深カンラン」型もしくは「紫カンラン」型のみで安定しておつ,生殖細胞層のキメラ性は認められなかった.しかし,キメラ当代植物V0の緑色部位に「紫カンラン」を交配した場合に,その同一莢に由来する種子世代B1で,薄紫色と紫色植物への分離が2例認められた.また,V1植物の隣花受粉の場合にも2莢に由来する種子世代において薄紫色と紫色植物への分離が認められた.これらのことは,きわめて低い頻度(1.4%=4/288)ではあるが,一つの花の中の生殖細胞層の遺伝子型が,キメラ性を持つことを示している. この原因には,キメラ植物の生殖細胞層そのものが形成過程でキメラとなっているか,キメラ組織間の遺伝子の移動による形質転換による可能性が考えられる。
  • 亀谷 寿昭, 宮沢 登, 土岐 精一
    1990 年 40 巻 4 号 p. 429-434
    発行日: 1990/12/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    栽培ナス(Solanum melongena)に青枯病抵抗性を導入するため,白ナス(S. melongena L.)とヒラナス(S. integrifolium .Poir.)との細胞融合を試みた.培養細胞由来の白ナスプロトブラストを1.0mMヨードアセトアマイト溶液に5℃,15分間浸漬した後,ヒラナスの葉肉プロトプラストとデキストランで融合処理した.その後,6-BAP(1mg/l),NAA(1mg/l),グルコース(50g/l)を含むMurashigeSkoog(1962)の培地で培養したところ,およそ8週間後に,4コロニーが得られ,さらに2-3週間後にそれぞれのコロニーから植物個体が分化した.これらの個体は,植物体,葉,花,果実の形態および酸性フォスファターゼのアイソザイムパターンから体細胞雑種であると判断された.これらのうち,一系統(RW-4)の自殖種子を発芽させ,青枯病菌(Pseudomonas solanacearum)の入った水耕液で培養し,その後の生存率を調査し,抵抗性の強弱を判定したところ,これらの中には両親のものより強い個体が存在していることが判明した. 以上の結果から,ヨードアセトアマイト処理と片親の細胞分裂能を組合せることによって雑種が効率よく選抜できること,細胞融合によって栽培ナスに青枯病抵抗性が導入できることがわかった.
  • 小川 紹文, 山元 剛, KHUSH Gurdev S., 苗 東花
    1990 年 40 巻 4 号 p. 435-447
    発行日: 1990/12/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    イネ白葉枯病菌レースの国際判別品種を設定するため,抵抗性遺伝子を一つずつもつ準同質遺伝子系統の育成を日本農林水産省とIRRI(国際稲研究所)との共同研究として行った.その準同質遺伝子系統を育成する前提として,日本とIRRIの判別品種をフィリピン産及び日本産白葉枯病菌レースを用いて分析した.今回は,IRRI判別品種IR20をフィリピン産及び日本産白葉枯病菌レースを用いて分析した.また,IR20の持つ白葉枯病抵抗性遺伝子Xa-4と複対立である遺伝子Xa-4bを持つと報告された最初のイネ品種Semora Manggaについてもフィリピン産白葉枯病菌レースを用いて分析した.フィリッピン産白葉枯病菌の4つのレースを用いて,IR24/IR20のF2を分析した結果,IR20の白葉枯病抵抗性遺伝子Xa-4は,レース1に抵抗性を示し,レース4には中程度の抵抗性を,示すことが明らかになった.フィリピン産及び日本産白葉枯病菌レースを用いて,上記のF3を分析した結果,IR20の白葉枯病抵抗性遺伝子Xa-4は日本産白葉枯病菌レースに対しても有効であることが明らかであった.また,IR20が日本産白葉枯病菌レースIA,IB,Vに対して高度抵抗性を示したことから,黄玉/IR20のF2を日本産白葉枯病菌レースを用いて分析した結果,IR20は黄玉の持つXa-1及びXa-12を所有していることがわかった.従って,IRRI判別品種IR20は,フィリピン産及び日本産白葉枯病菌レースに対して,抵抗性遺伝子Xa-1,Xa-4及びXa-12を持つと結論した.
  • 長峰 司, 中川原 捷洋
    1990 年 40 巻 4 号 p. 449-455
    発行日: 1990/12/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    育苗中に低温に遭遇したイネ幼植物が枯死する低温枯死症状の発生は,育苗の安定化にとって大きな障害であり,この抵抗性は,穂孕期や出穂開花期の低温ま氏抗性と同様に重要な形質である.栽培稲における低温枯死症状の遺伝変異を明らかにするため,人工気象室を用いた検定方法を検討した.35品種を用いて1,5,8,12,15℃の処理温度と2,4,7日間の処理期間との組合せによる低温処理を行なった.12日苗を用いた場合,1℃・2日間,1℃・4日間,5℃・4日間,5℃・7日間,8℃・7日間処理は反応の品種間変異が大きかったが,このうち,低温、に対する反応を最も良く検出できる方法は5℃・4日間処理であった(Table 1). アジアを中心に世界各地から収集・導入した2,151品種の在来稲について,5℃・4日間の低温処理に対する反応を処理後6日に調査したところ,地理的変異に明らかな特徴を認めた(Table 2).日本,ヨーロッパ,米国,ソ連など高緯度原産の品種は低温処理に対して抵抗性のものが多く,一方,インドやネパールのように低緯度原産の品種は感受性であった.しかし,低緯度であってもインドネシアやフィリピン原産の品種は比較的抵抗性が高かった.インドのカシミール地方の品種のように比較的低緯度であるが,高標高地帯の品種は抵抗性を示した.ラオス,タイ,ミヤンマー(旧ビルマ),中国南西部の一部品種は山岳地帯原産であり,抵抗性であった.中国南西部,ミャンマー,ラオス,タイ,ブータン,マレーシア産の品種は抵抗性から感受性まで幅広い変異を示した(Fig.2). 以上のように,低温枯死抵抗性は,高度,緯度すなわち温度環境と対応して明確な地理的傾斜を示している.一方,多様性の中心地域は中国南西部,ミャンマー,ラオス,タイ,ブータン,マレーシアであり,これらの地域はこの形質にとっての遺伝資源の供給地として重要であると考える.
  • / 蓬原 雄三, Yuzo FUTSUHARA
    1990 年 40 巻 4 号 p. 457-467
    発行日: 1990/12/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    リョクトウにおける組織培養による植物体再分化の条件を明らかにするため種々の外植体および品種を用いて一連の培養実験を行った.その結果,組織培養による植物体再分化が,茎片,茎頂を取り除いた上胚軸および子葉片で達成されたが,葉片からはシュートのみが形成された.各外植片は,植物体再分化にさいしてMSあるいはB5基本培地に含まれるホルモンの要求性を異にした.すなわち,茎片,葉片および茎頂を取り除いた上胚軸片では,シュート形成には0.2mg/lNAAと1-2mg/lのカイネチンあるいは6-BAの添加が適量として認められたが,一方,子葉片では1-2mg/l6-BAあるいは100mg/l酵母抽出物の添加により最も効率的な再分化が得られ,オーキシンの添加は不必要であった. リョクトウ6品種を用いて6種の培地で子葉片からの植物体再分化を比較したところ顕著な品種間差異が認められ,品種×培地の相互作用も有意であった.このことは品種により植物体再分化の条件が異なることを示す.一定のホルモン条件下において,現れるカルスや再分化個体の形態と遺伝子型との間に密接な関連が認められた.また組織培養により体細胞変異の誘起が認められたが,カルスからの植物体再分化は初代培養においてのみ成功し,継代培養によっては達成されなかった.
  • 本多 義昭, 肥塚 靖彦, 田端 守
    1990 年 40 巻 4 号 p. 469-474
    発行日: 1990/12/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    シソの果実は通常褐色で,通常の取り扱いで壊れることはない.しかし,エゴマのなかには褐色と白色のものとがあり,容易に破砕されうる果実をつける系統があって,これらの形質の相違がシソとエゴマとを区別する際の一つの指標とされることがある.そこで,これらの形質が異なる二変種間の交配実験を行った. 果実の色調の違いは肉眼によつ判定し,硬・軟は果実に荷重を加えて破砕される重量を測定し,硬さの指標とした. 果実の色調の遺伝については,エゴマ(No.11,白色)を母親に,シソ(No.32,63,褐色)を父親として交配実験をおこなった.その結果F1は両交雑とも両親の中間色の果実をつけ,No.11×No.32のF2においては,白色:中間色:褐色=13:16:12に分離した(期待比,1:2:1,p0.3).またこの交雑のF2世代が白色,中間色,褐色であった個体について,それぞれ一例ずつ後代(F3)の分離を検討したが,白色,褐色の後代では他型の分離はなく,中間色のF3のみ6:13:3(期待比,1:2;1,p0,4)の分離が観察された.以上の結果は,白色果実生成に関与する不完全優性の遺伝子Wを仮定すれば容易に説明されうる. 硬・歎の遺伝様式については,エゴマ(No.8,軟実)を母親に,シソ(No.16,70,75,79,いずれも硬実)を父親として交配実験をおこなった.その結果,F1はいずれも硬実で,F2においてはNo.8×No.16,70,79の場合にはそれぞれ24:2(p0.7),3112(pO,9),40:1(p0.3)といずれも硬:軟=!5:1の期待比と矛盾しない分離を示したが,No.8×No.75では硬:軟=37:9(p0,3)と3:.1に適合する分離であった. この結果は,果実の硬さを支配する2個の完全優性遺伝子T1とT2を仮定し,エゴマ(No.8)の遺伝子型をt1t1T2t2,シソのNo.16,70,79をT1T1T2T2, No.75をT1T1t2t2あるいはt1t1T2T2であると仮定すれば矛盾なく説明される. 今回遺伝解析した果実の色調の相違と硬・軟は,独立した小数の遺伝子支配によるものであることが明らかとなった.また比較剖見によつ,W,T1,T2のいずれもが機械組織の発達と関連していることが明らとなった.すなわち,褐色果実は中果皮に蓄積されている色素成分によるものであるが,白色果実では果皮の上面表皮細胞が厚膜化して,これが内果皮の色を遮断するために白く見える.また,通常のシソやエゴマでは内果皮の厚膜組織が発達(厚さ44-55μm)するが,軟実系統ではこの組織が未発達(厚さ13-24μm)であり・硬さとこの厚膜組織層の厚さとの間には高い相関性(r=0.84,pO.01)が認められた.
  • 加藤 正弘, 上堂 秀一郎, 田中 孝
    1990 年 40 巻 4 号 p. 475-484
    発行日: 1990/12/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    自然複二倍体のアビシニアガラシ(Brassica carinata BRAUN 2n=34)にブロッコリー(B.oleracea L.var.italica PLENCK 2n=18)を連続戻し交配して,B2世代においてB. carinata細胞質を持つ2n=18を作出した.このB. carinata細胞質を持つB2個体と正常細胞質のブロッコリーとの間で正逆交雑を行い,B. carinata細胞質がブロッコリーに及ぼす影響を調査した.連続戻し交配過程における種子稔性は,染色体数が2n=18に近づくにつれ指数関数的に高くなった.またその過程に現われた花形の変化および雄性不稔性はブロッコリーとの正逆交雑からBrassica carinata細胞質の影響と推定された.両細胞質系統を比較した結果,B. carinata細胞質の個体は正常細胞質の個体よつ,光合成速度,クロロフィル含量などが低下していることが確認された.さらに,寒波による低温(-5~-6℃,約8時間)に遭遇し,甚だしい寒害が認められ,Cゲノム種がもつ耐寒性の核内遺伝子は異質細胞質のもとでは充分機能し得ないことが分かった.
  • 中村 洋, 佐々木 宏, 平野 久, 山下 淳
    1990 年 40 巻 4 号 p. 485-494
    発行日: 1990/12/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    コムギ(Triticum aestivum L.)の日本および外国品種計376品種について,種子貯蔵蛋白質をドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミトゲル電気泳動法によって分離した.その結果,外国品種には全く見られないグルテニンの高分子量145kDサブユニットが,日本品種に高頻度で認められた.このサブユニットは,電気泳動における移動度から,PAYNE et al.(1983)が報告したグルテニン2.2バンドと同一の蛋白質と推察された.コムギ農林登録131品種(コムギ農林1号~農林131号)では,約1/3の品種がこのサブユニットを有することが明らかとなった.また,グルテニン145kDサブユニットは,硬質・準硬質の品種に全く存在しないこと,中間質・軟質の品種では,高頻度で認められることがわかった.このことからこのサブユニットがコムギの硬軟質性と関連していると考えられた.また,遺伝分析の結果,グルテニン145kDサブユニットは,単一の遺伝子に支配されていることも明らかとなった.北海道・東北・北陸・長野など北日本の育成地で育成された品種の多くにこのサブユニットが存在せず,四国・九州など西日本で育成された品種の約3分の2がこの145kDサブユニットを保有していた.この地理的分布に関連して,九州及び北海道での品種の育成過程を見ると九州育成品種では,145kDサブユニットを持つ品種と持たない品種の交雑の後代において,145kDサブユニットを持つ個体を選抜する場合が多く,逆に北海道育成品種では,このサブユニットを選抜しない傾向が例えた.
  • 佐藤 洋一郎, 藤原 宏志, 宇田津 徹朗
    1990 年 40 巻 4 号 p. 495-504
    発行日: 1990/12/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    土中から発掘される植物由来のケイ酸体(プラントオパール)によって過去の植生や栽培種の種類や量を推定するプラントオパール分析をイネのindicaおよびjaponicaの起源や伝播経路の研究に応用するための基礎として,ケイ酸体の形および葉中の密度の品種間変異を調査した.実験にはアジア各地の栽培イネ品種96を供試し,機動細胞ケイ酸体の形状および密度の品種間変異を調査した.機動細胞ケイ酸体の形状の変異は,縦長,横長,側長(厚み)および尖りの具合いを示すパラメーターの4形質を組合せることによってよく表現された.典型的なindica品種は,丸く,薄く,小型のケイ酸体(α型ケイ酸体)を,また典型的なjappnica品種はこれとは逆の尖った,厚い,大型のケイ酸体(β型ケイ酸体)をもつ傾向を示した.判別分析によって求めた機動細胞ケイ酸体の形状を表わすスコア(Z1)値と,indica-jappnicaの変異を表わすスコア(Z3)の間には有意な負の相関関係が認められた.Z 1値について中間型と思われる.24品種(-0.5≦Z 1≦0.5,25%)の判定を保留すると,Z1-0.5のα型ケイ酸体をもつ39品種のうち36品種(92%)はindica,またZO.5のβ型ケイ酸体をもつ33品種のうち31品種(94%)はjappnicaであった.jappnicaの2品種群である温帯型jappnicaと熱帯型jappnicaの機動細胞ケイ酸体の形状にはわずかながら差異が認められた.これらの結果を利用すればイネ由来のプラントオパールの形状によってそれがjappnica由来のものかindica由来のものかが推定できよう.またjappnica由来のものならば,典型的な形状を示すものについては温帯jappnica由来か熱帯jappnica由来かの推定も可能となるかも知れない.将来この原理を応用して,indicaおよびjappnicaの起源や伝播経路を,今までより正確に推定できることが期待される.
  • 細井 徳夫
    1990 年 40 巻 4 号 p. 505-520
    発行日: 1990/12/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    人工光環境調節装置内で水耕法により養成したイネ品種フジミノリを供試し,出稿始めから標準日射恒温・標準日射変温・弱日射恒温・弱日射変温条件下で完全米比率80%の稔実を維持できる期間(稔実能力維持期間)を求めた.10℃~15℃の温度域での不稔の発生は,日射量の多少,最高・最低および日平均気温の高低よりも冷温期間の長さに強く影響を受け,稔実能力維持期間は6~8日間であった.出穂開花期冷害が発生しない限界温度(稔実下限温度)を異にする15品種を供試し,弱日射6恒温条件で検定したところ,15℃では稔実能力維持期間に0~8日間の品種間差異が認められた.そこで,日本のイネ77品種について弱日射15℃恒温条件での稔実能力維持期間を調査した結果,北海道と東北の品種は4~8日,東海近畿,中国四国および九州の品種は0~4日で,寒冷地品種は暖地品種よりも稔実能力維持期間は長かった.稔笑下眼温度の低い品種は稔実能力維持期間が長い傾向にあるが,必ずしも一致しないので,品種の出穂開花期耐冷性は両特性を考慮して判定する必要がある.
  • 丹羽 勝
    1990 年 40 巻 4 号 p. 521-529
    発行日: 1990/12/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    日本及び南米低緯度地方に栽培されるダイズ8品種を用いて,齢の異なる植物に短日処理を行い,開花まで日数,主茎本葉数の増加を観察し,その品種間差異を調べ,以下の結果を得た.(1)播種後13~33日の植物を12時間30分の日長で処理したところ,植物齢の増大とともに開花まで日数及び処理後に分化した本葉の数は減少し,減少の程度には品種間で差がみられた.(2)播種後13~33日の植物を上位展開葉2枚を残して摘葉し,摘葉しなかった植物とともに,12時間及び12時間30分の日長で処理したところ,開花まで日数は齢,日長により変化したが,摘葉の有無に関わらず植物はほぼ同時に開花した.(3)初生葉(対生葉)の葉腋から2本の枝を伸長させた植物の一方の枝に,播種後7日目の植物を割っ接ぎし,穂木または台木の葉を残した植物を12時間日長で処理したところ,穂木は台木とほぼ同時またはより早く開花した.(4)播種後13日及び33日の植物を,11時間から12時間30分の日長で処理したところ,最小開花まで日数とその齢による差によって,供試品種は3群に分類された.以上の結果から,これまでの報告されていたように,ダイズ植物における短日による花成誘導の大きさは齢とともに増大することが確認された.また,この齢による差異は上位にある葉の短日に対する感応性のちがいによつ決定されること,及び,低緯度地方に栽培される品種には,短日による花成誘導の効果の齢による差が大きいものがあつ,これは品種の適応性にとって意味を持つことが推定された.
  • 野村 幸雄, 大澤 勝次
    1990 年 40 巻 4 号 p. 531-535
    発行日: 1990/12/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    栽培ラッキョウ(Allium chiuense)には種子稔性がなく,これまで卒雑による育種は行われていなかったが,ヤマラッキョウ(A. thunbergii)を花粉親として交配すると,'わずかながら種子を形成することが報告された(西谷1986,吉武1988).筆者らはその組合せで胚珠一胚培養を試みることにより雑種獲得率を向上させることができたので報告する. 材料はラッキョウ(ラクダ系福井在来)と,ヤマラッキョウNo.15(熊本県阿蘇産)を主に用いた.実験遂行のため,事前にラッキョウの受粉様式や胚の発育について調査した.ラッキョウの雌ずいは開花後約1週間で完全に成熟し,典型的な雄性先熟であり他家受粉の性質を備えていた(Table1).受精胚の発育は交配6日後に球状胚が観察され,10日後には卵~シリンダー状胚,15日後にはすべてシリンダー状胚に成育した(Fig.1).胚培養をしない場合,種内交雑で交配化数の41.7%,種間交雑で0~2.3%しか種子を得ることができなかったが(Table2),MS培地(3%ショ糖,O,8%寒天,pH5.8)に受精胚を置床し,25℃,2000 lux,16時間日長条件で培養することによって,ラッキョウ×ヤマラッキョウNo.15の場合10.2%に雑種獲得率が向上した.さらに,胚珠培養後の胚を摘出し,同様に培養することによって16.7%にまで高めることができた(Table3,Fig.2).
  • 鈴木 守
    1990 年 40 巻 4 号 p. 537-547
    発行日: 1990/12/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
  • 山田 実, 長谷川 寿保
    1990 年 40 巻 4 号 p. 549-554
    発行日: 1990/12/01
    公開日: 2008/04/18
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