育種学雑誌
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エゴマ(Perilla frutescens)における果実の色と硬さの遺伝
本多 義昭肥塚 靖彦田端 守
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1990 年 40 巻 4 号 p. 469-474

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抄録

シソの果実は通常褐色で,通常の取り扱いで壊れることはない.しかし,エゴマのなかには褐色と白色のものとがあり,容易に破砕されうる果実をつける系統があって,これらの形質の相違がシソとエゴマとを区別する際の一つの指標とされることがある.そこで,これらの形質が異なる二変種間の交配実験を行った. 果実の色調の違いは肉眼によつ判定し,硬・軟は果実に荷重を加えて破砕される重量を測定し,硬さの指標とした. 果実の色調の遺伝については,エゴマ(No.11,白色)を母親に,シソ(No.32,63,褐色)を父親として交配実験をおこなった.その結果F1は両交雑とも両親の中間色の果実をつけ,No.11×No.32のF2においては,白色:中間色:褐色=13:16:12に分離した(期待比,1:2:1,p0.3).またこの交雑のF2世代が白色,中間色,褐色であった個体について,それぞれ一例ずつ後代(F3)の分離を検討したが,白色,褐色の後代では他型の分離はなく,中間色のF3のみ6:13:3(期待比,1:2;1,p0,4)の分離が観察された.以上の結果は,白色果実生成に関与する不完全優性の遺伝子Wを仮定すれば容易に説明されうる. 硬・歎の遺伝様式については,エゴマ(No.8,軟実)を母親に,シソ(No.16,70,75,79,いずれも硬実)を父親として交配実験をおこなった.その結果,F1はいずれも硬実で,F2においてはNo.8×No.16,70,79の場合にはそれぞれ24:2(p0.7),3112(pO,9),40:1(p0.3)といずれも硬:軟=!5:1の期待比と矛盾しない分離を示したが,No.8×No.75では硬:軟=37:9(p0,3)と3:.1に適合する分離であった. この結果は,果実の硬さを支配する2個の完全優性遺伝子T1とT2を仮定し,エゴマ(No.8)の遺伝子型をt1t1T2t2,シソのNo.16,70,79をT1T1T2T2, No.75をT1T1t2t2あるいはt1t1T2T2であると仮定すれば矛盾なく説明される. 今回遺伝解析した果実の色調の相違と硬・軟は,独立した小数の遺伝子支配によるものであることが明らかとなった.また比較剖見によつ,W,T1,T2のいずれもが機械組織の発達と関連していることが明らとなった.すなわち,褐色果実は中果皮に蓄積されている色素成分によるものであるが,白色果実では果皮の上面表皮細胞が厚膜化して,これが内果皮の色を遮断するために白く見える.また,通常のシソやエゴマでは内果皮の厚膜組織が発達(厚さ44-55μm)するが,軟実系統ではこの組織が未発達(厚さ13-24μm)であり・硬さとこの厚膜組織層の厚さとの間には高い相関性(r=0.84,pO.01)が認められた.

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