抄録
栽培ギク(Chrysanthemum morifolium)は2n=6×=54の染色体数を示す高次倍数体であり,自家不和合性や雄性不稔性の発現などにより明確な遺伝子分析は困難であるとされてきた.また,キクの花色の発現に関与する主な色素は花弁の構成細胞中の色素体に存在するカロチノイド色素および向軸・背軸側の表皮細胞のみの液胞中に存在するアントシアニン色素の2種類であり,これらの色素の存否および量的な組合せにより様々な花色を発現しているものと考えられる.本研究ではキクの花色に関する遺伝的な背景を明らかにするために自殖および交雑後代の色素,特にカロチノイド類色素の存否について分離比を調査した.調査にあったっては,多数の個体を扱う必要があるためにSHIBATA(1958)により開発されたOpal glass transmission methodにより生花弁の吸収スペクトルを計測し,そのパターンによりカロチノイドの存否を検定した、供試した材料は名古屋大学農学部で保存中の,自殖や交雑によつ比較的種子の得やすい,野生のノジギク(Chrtsanthemumjaponese)を含む8品種・系統である.これらの品種・系統の開花時に,頭状花序から舌状花を切除し,交雑を行う場合には,自家不和合性や雄性不稔性を示す品種においても除雄を行い交雑種子のみを得るために万全を期し,自殖の場合には除雄することなく同一花序内で人工受粉を行なった.このようにして得られた種子を常法にしたがって播種し,植木鉢に移植し栽培した.これらの各個体の開花時に1個体当り数枚の花弁(舌状花)を採取し分光光度計により吸収スペクトルを測定した.吸収スペクトルのうち450nm付近の特徴的な3つのピークの有無を調査することによりカロチノイドの存否を判定した