育種学雑誌
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41 巻, 1 号
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  • 服部 一三
    1991 年 41 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    栽培ギク(Chrysanthemum morifolium)は2n=6×=54の染色体数を示す高次倍数体であり,自家不和合性や雄性不稔性の発現などにより明確な遺伝子分析は困難であるとされてきた.また,キクの花色の発現に関与する主な色素は花弁の構成細胞中の色素体に存在するカロチノイド色素および向軸・背軸側の表皮細胞のみの液胞中に存在するアントシアニン色素の2種類であり,これらの色素の存否および量的な組合せにより様々な花色を発現しているものと考えられる.本研究ではキクの花色に関する遺伝的な背景を明らかにするために自殖および交雑後代の色素,特にカロチノイド類色素の存否について分離比を調査した.調査にあったっては,多数の個体を扱う必要があるためにSHIBATA(1958)により開発されたOpal glass transmission methodにより生花弁の吸収スペクトルを計測し,そのパターンによりカロチノイドの存否を検定した、供試した材料は名古屋大学農学部で保存中の,自殖や交雑によつ比較的種子の得やすい,野生のノジギク(Chrtsanthemumjaponese)を含む8品種・系統である.これらの品種・系統の開花時に,頭状花序から舌状花を切除し,交雑を行う場合には,自家不和合性や雄性不稔性を示す品種においても除雄を行い交雑種子のみを得るために万全を期し,自殖の場合には除雄することなく同一花序内で人工受粉を行なった.このようにして得られた種子を常法にしたがって播種し,植木鉢に移植し栽培した.これらの各個体の開花時に1個体当り数枚の花弁(舌状花)を採取し分光光度計により吸収スペクトルを測定した.吸収スペクトルのうち450nm付近の特徴的な3つのピークの有無を調査することによりカロチノイドの存否を判定した
  • 内田 煌二, 津村 義彦, 大庭 喜八郎
    1991 年 41 巻 1 号 p. 11-24
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    平板ポリアクリルアミトゲル垂直電気泳動法を用いてヒノキ葉組織のアイソザイムの遺伝子扮析を行った.標識遺伝子を検出するために10家系の交配家系を用いて12酵素種のアイソザイムを調べた結果,10酵素種(シキミ酸脱水素酵素,6-ホスホグルコン酸脱水素酵素,グルコース-6-リン酸脱水素酵,ジアボラーゼ,パーオキシターゼ,アスパラギン酸アミノ転移酵素,グルコキナーゼ,ホスホグルコムターゼ,エステラーゼ,ロイシンアミノペプチダーゼ)で遺伝変異がみられた.これらは少なくとも14の遺伝子座に支配されていることが明らかになった(Fig.2).このうち2遺伝子座(Pod,Got)は白石・上中(1983),白石ら(1986)の報告のものと同じであった.またこれらの・遺伝子をマーカーとして2つの天然林の3集団について遺伝変異の澗査を行った.その結果,多型遺伝子座の割合は平均56,4%,1遺伝子産当りの平均対立遺伝子数は2,0,そして平均ヘテロザイコシティーは, .228であった.また遺伝的分化の程度を表すGSTは1.6%で,3集団の遺伝距離の平均は0,8%であった.遺伝変異及び遺伝距離等の結果から,これらの集団はほとんど分化しておらず,類似した集団であることが明らかになった.Shiraishi et al.(1987)がPod,Gotの2遺伝子座を用いて全国6集団を調査した結果と比較すると本研究での3集団は中部日本の集団と類似した結果となった.
  • 丹野 礼子, 長尾 エジナ, 今村 順
    1991 年 41 巻 1 号 p. 25-33
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    ニンジンのぺ夕ロイド型細胞質雄性不稔(CMS)を非対称細胞融合を用いて,可稔系統に導入する実験を行った.融合には,X線を照射したニンジンのCMS系統,31Aを細胞質供与体として,ヨードアセトアミド処理した5つの可稔系統をその受容体として用いた.この融合実験から58個体が再分化したが,ぺタロイドの花をもつ個体は全く得られなかった(Table1).すなわち,すべての再分化個体は,可稔または褐変化した菊をもつ雄性不稔であった.そこで,ぺタロイド型の花をもつサイブリッドを作出するために,31Aと可稔系統K5の間の融合処理によって得られた褐変化した霜をもつZ1を細胞質受容体に用いて,X線を照射をした31Aのプロトプラストと融合した.この非対称細胞融合により41の再分化個体が得られ,花を着けた.このうちの39個体はペタロイド型の雄蕊をもつCMSで,2個体は褐変化した菊をもつ雄性不稔だった(Fig.1).染色体の核型とミトコンドリアDNAの制限酵素分析結果(Fig.2,Fig.3,Fig.4)から,得られた再分化個体はすべて,Z1に由来した核をもち,又両親とは異なる再編成した形のミトコンドリアをもつことが分かった.これらの融合産物に見られるぺタロイド型の雄性不樹生は,K5を含む可稔系統との交配の後F1及びF1B1世代に母性遺伝した.以上の結果は,ペタロイド型CMSが2段階の非対称細胞融合を使うことによって,他のニンジンの系統に効率良く導入することが可能であることを示す.
  • 長峰 司
    1991 年 41 巻 1 号 p. 35-40
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    前報において著者らは人工気象室を用いてイネ幼植物の低温枯死症状(chilling injury)の検定方法を検討した.その結果,5℃4日間の処理が選抜のための最適温度処理条件であること,世界各地から収集した2,151品種の在来稲の低温枯死症状の変異を調査したところ,高緯度原産の品種は抵抗性であり,低緯度原産の品種は感受性であることなど,明らかな地理的傾斜が存在することを報告した.本報では,5℃4日間の低温処理によって発現するイネ幼植物の低温枯死抵抗性の遺伝を調べた.低温枯死症状のスクリーニングの結果から選定した抵抗性品種間および感受性品種間の組合せにおけるF1植物は,それぞれ抵抗性,感受性を示した.それらのF2雑種集団では表現型に分離は観察できなかった(Table 1).一方,抵抗性品種と感受性品種間の組合せにおけるF1植物はすべて抵抗性であり,F2集団では抵抗性と感受性とが3:1に分離し,単遺伝子分離の期待頻度によく適合した(Table 2).F2個体の自殖により得たF3系統を分析したところ,抵抗性ホモ,抵抗性・感受性分離,感受性ホモの3系統がそれぞれ1:2:1に分離し,F2世代で得た結果を確認した(Table 3).したがって,5℃4日間の低温処理に対する低温枯死抵抗性は単一の優性遺伝子によって支配されると結論した.イネ幼植物時の低温ストレスとして他に低温クロロシス症状が知られている.低温枯死症状と低温クロロシス症状が同一の遺伝子によって支配されているか否かを明らかにするため,同一のF2雑種集団を用いて低温枯死症状と低温クロロシス症状の分離を調べた.低温枯死症状に関して抵抗性と感受性とが3:1に分離し,一方,低温クロロシスに関しても正常とクロロシス個体が3:1に分離したが,両者は独立であった(Table 4).以上から,イネ幼植物時の低温ストレス抵抗性に関して少なくとも複数の異なる遺伝子座が存在することが明らかとなった.
  • 四方円 淳, 日向 康吉
    1991 年 41 巻 1 号 p. 41-47
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    イネガルスの再分化に対する高濃度炭酸ガス施用の効果を,葯由来カルスと種子由来カルスについて調べた.品種,染分を材料として,その騎由来カルスの再分化培養試験管をアルミホイルで栓をし,培養チャンバーの炭酸ガス濃度が明期14時間中最高で5%になるようにドライアイスを用いて調節する実験を行った(Fig.1).炭酸ガスの施用によってカルスの褐変が抑制され,再分化率は約50%向上した(Table 1).しかし,緑色植物体と同様に,アルビノ植物体の再分化率も高くなった.ササニシキと農林21号の種子由来カルスを再分化培地に移植し,明期に炭酸ガス濃度を3%に設定した25℃のチャンバー内で培養した.その際,通気性のよいミリラップ(日本ミリボア)栓を使用した場合とアルミホイル使用との比較も行った.なお,ミリラップを使用した場合には培地の乾燥を防ぐために,チャンバー内の湿度を常に90%に維持した.ミリラップを使用したものでは,カルスが培地に接した部分の褐変化が少なかった.炭酸ガス施用区では施用後まもなくカルスが緑色化する傾向にあった.これは,換気や炭酸ガス施用がカルスの代謝やクロロプラストの分化にも影響していることを示唆するものである.ミリラップの使用により再分化率が向上し,通気あるいは乾燥が植物体再分化に効果的であることが示唆された.炭酸ガスを施用することによって再分化率はさらに高くなった(Table 2).
  • / 重永 昌二, Shoji SHIGENAGA
    1991 年 41 巻 1 号 p. 49-59
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    Rゲノム染色体構成,細胞質,及び播性等が異なる六倍体ライコムギ11品種(Tab1e1)を用いて,小量麦芽製造法により麦芽品質を比較した.Rゲノム染色体が全部揃っている完金型ライコムギは,同染色体の一部がDゲノムの同和染色体で置換されている置換型ライコムギよりも,ジァスターゼ力,麦芽エキス及びエキス収量が高かった(Table3).供試品種のうち2対以上のRゲノム染色体がDゲノム染色体によって置換されている品種はすべてT.aestivum細胞質をもつ品種であったが,これらはジァスターゼ力とエキス収量が比較的低かった(Table1,2,3).T.turgidum細胞質をもつ脂質はT.asetivum細胞質をもつ品種よりもジァスターゼ力が高く,麦芽エキスおよびエキス収量が低い傾向がみられた(Table3).冬型ライコムギ品種`Lasko'は,ジァスターゼ力,麦芽エキス,エキス収量及び発芽力において春型ライコムギ品種よりも高い値を示した(Tab1e2).一般にRゲノム染色体が完全型でasetivum細胞質をもつ品種は,Rゲノム染色体が置換型でtursidum細胞質をもつ品種よつも麦芽エキス,エキス収量及びコールバッハ数が高く,総窒素含量は低い傾向にあると言える.
  • 古屋 義方, 池橋 宏
    1991 年 41 巻 1 号 p. 61-71
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    Brassica capestrisの育種上有効な標識となるアイソザイム遺伝子座を同定することを目的とし,自殖系統及びその交配によって得られたF1およびF2集団を用い,第2本葉展開時の植物体の子葉及び本葉からの摘出液を各々ポリアクリルアミトゲル薄層電気泳動(PAGE)に供試した.酸性フォスファターゼ(ACP)とエステラーゼ(EST)について活性染色を行なった結果,ACPでは子葉,本葉の泳動像共に6つのゾーンが認められた.これらのゾーンに陽極側から番号をつけてACP-1,ACP-2などと表示したとき,最も陽極寄りのACP-1と最も陰極寄りのACP-6で多型性が認められた(Fig.1).また,陽極寄りのACP-2でも本葉の泳動像のみで多型性が認められた.ESTでは,子葉,本葉の泳動像共に多くのバンドが認められ,8から9のゾーンが認められた.ACPと同様に各ゾーンに番号をつけると,陽極寄りのEST-2とEST-3(本葉の泳動像のみ)で多型性が認められた(Fig.2,3).多型性の認められた各ゾーンのバンドのF2後代での分離比を調査した結果,これら5つのゾーンのアイソザイムは,各々1遺伝子座に支配されていることが明らかになった.これらの遺伝子座をAcp-3,Acp-4,Acp-5,Est-3およびEst-4と命名した(Table2).遺伝子座の命名においては,MATSUURAおよびFUJ1TA(1989)により,ACPおよびESTについてそれぞれ2個の座位が等電点泳動法によって同定・命名されているため,ここではPAGEで検出したACPおよびESTのアイソザイム遺伝子座位については,それぞれ第3番目から命名した.同定された5遺伝子座から理論的には10対の独立性の検定が可能であるが,F2集団におけるバンドの分離結果より5組のアイソザイム遺伝子座について,独立性の検定ができた.その結果,調査した組合わせについては,いずれも独立であった(Table3).
  • 小島 昭夫, 長戸 康郎, 日向 康吉
    1991 年 41 巻 1 号 p. 73-83
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    アポミクシス(無融合種子形成)はヘテロシスの固定を可能にするという点で育種学的に興味深い現象であるが,その遺伝様式の解明のためにはアポミクシス率の検定方法を確立しておく必要がある.アポミクシス率は次代集団に占めるアポミクシス由来個体の割合として定義され,次代検定によって求められる.従来,次代個体の由来は外部形態の観察に基づいて推定されることが多かった.しかしアポミクトにおいては遺伝様式の明らかな標識形質がほとんどなく,従って外部形態による方法ではできるだけ多くの形質を観察する必要があつ,またそのために次代集団を長期間栽培しなければならない.これに代わる方法として本研究では同位酵素の等電点電気泳動像を利崩し,ニラのアポミクシス率を次代幼苗期に検定することを試みた.酵素種としては,バンド数が多く品種間差異の認められたエステラーゼを選んだ(図1).等電点電気泳動は以下に述べる方法により行なった.十分に展開した葉の一部を生重10mg当り100μlの50mMトリスー塩酸緩衝液(pH7.5)中で腐砕し,10,000gで15分問遠心分離した後その上清15μlをサンプルとして用いた.泳動担体には5%アクリルアミド,0.15%N,N'-メチレンビスアクリルアミド,17%グリセリン,0.04%過硫酸アンモニウム,及び両性電解質として「LKB Ampholine,pH5-8」を6%含む240×115×0.5mmのポリアクリルアミトゲルを用いた.泳動終了後,TANKSLEY and RICK(1980)の方法に従ってエステラーゼ活性染色を行なった.品種間のエステラーゼザイモグラムの差異及び開花期の一致を考慮して,6品種(表1)の問で適当な組合せを10通り選び,交配を行なって採種し,播種後2-4ヵ月の幼苗について検定を行なった.いずれの組合わせにおいても次代幼苗の90%以上が母親型のザイモグラムを示した.即ち,アポミクシス率はいずれの品種についても90%以上と推定された.(表3,図2,3).
  • 明石 良, 足立 泰二
    1991 年 41 巻 1 号 p. 85-93
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    一般にアポミクシス草種と言われているギニアグラス(Panicum maximum Jacq.)は,系統及びその遺伝子型によってアポミクシ又の程度を異にする.本報ではギニアグラスの未熟胚カルスから,高頻度に体細胞不定月三(SE)を形成した結果を示す.また,供試した品種および系統間に差異が認められ,アポミクシスとの関連についても検討を加えた.本実験で用いたギニアグラスは,農業生物資源研究所植物分類評価研究チーム囲場(宮崎市霧島)で保存中のもので,3保存品種及び9系統の計12genotypeを使用した(Table 1).滅菌した豊熟巾の種子から,O.5~1.0mmの未熟胚を摘出し1Omg・1-1,4-D,10%CW,O.8%Agarを添加したMS培地により25℃暗黒条件下で培養した(Fig 2).培養30~40日後,カルスの上部に形成されたSEは解剖顕微鏡下で切り離し,さらにMS培地(1mg・1-12,4-D,5%CW,0.2%Gelrite)で継代培養を行なった.またSEの発育促進のために1.0mg・1-1Kinetinと1,Omg・1-1GA3及び5%CW添加のMS培地に置床した(Fig.3).カルスは,培養後3~5日目頃,胚の中央部分から形成され,その多くは透明なやわらかいカルスであった.しかし,その後,培養15日目頃には摘出胚の胚盤または中央部に相当する部分から白色でコンパクトなカルスが出現し始め,40日目には,カルスの.上部一面に形成された.さらに培養を重ねるにつれて,それらは突起状の不定胚構造を呈した(Fig 1).品種Petrie及ぴGattonでは,SEの形成卒が他の未熟胚よりも高かったのに対し,S67及びN68/96-8-o 1Oでは低く,N68/84-1-o 8では全く得られなかった(Table1).これらのSEを個別に分離して上述の発芽促進培地に置床したところ,Petrie,Gatton及びNatsuyutakaの3品種からは高頻度で植物体を誘導することができ,SEの形成卒と植物体再分化との間には品種及び系統間で顕著な差が認められた.そこでSE形成卒とアポミクシス程度との関係について調査を行なった(Fig.4).これによると本実験で供試したギニアグラスはSEの形成卒とアポミクシス程度によって3つのグループに分けることができ,その中でもPetrie及びGattonはSE形成卒が高く,さらにはアポミクシスの程度も商い値を示していることが判明した.
  • 長谷川 博, 矢頭 治, 片桐 豊雅, 一井 真比古
    1991 年 41 巻 1 号 p. 95-101
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    農業生物資源研究所放射線育種場において選抜され,維持されているイネ突然変異系統(原品種,農一林8号)を用いて,塩素酸カリウム抵抗性指標とした硝酸還元酵素(NR)欠失突然変異体のスクリーニングを試みた.各系統の種子を播種時より0,10-1`,および10-3Mの塩素酸カリウム溶液で生育させた.播種後14日目における幼植物の草丈抑制程度ならびに葉の褐変斑の大きさにより可視的に塩素酸カリウム抵抗性、の評価を行い,抵抗性程度をR(抵抗性),R'(弱い抵抗性),S(感受性)ならびにR/S(抵抗性個体が系統内に分離)に分類した.その結果,調査した437系統のうち,M819,M821,M1004ならびにM1009の4系統が塩素酸カリウム抵抗性(R)と認められた.またR'として15系統が,R/Sとして6系統が認められた(Table1).次に塩素酸カリウム抵抗性4系統と農林8号の幼植物を0~10-3Mの塩素酸カリウム溶液で生育させ,抵抗性の程度を再度調査した.M819とM821は草丈の抑制程度と葉の褐変斑の大きさの双方の基準から明瞭な'塩素酸カリウム抵抗性を示した.一方,MlO04は草丈からは最も抵抗性を示したが葉には禍変斑.が認められた.またM1009はM819,M821と農林8号のほぼ中間の草丈抑制程度であった(Fig.1,Fig.2).播種後20日目の幼植物の葉におけるin vitroNR活性を調べたところ,M819とM821のNR活性は原品種の30%以下であり,両系統は低NR活性突然変異体であると判定された.一方,M1009のNR活性は原品種の約80%てあり,M1004では原品種と同程皮であることが明らかになった(Table 2).塩素酸カリウム抵抗性は硝酸吸収欠損突然変異の指標としても有効である.4系統の硝酸吸収は農林8号と同程度あるいはそれ以上であり,吸収欠損突然変異体ではなかった.(Table 3).NRは植物の硝酸代謝において最も重要な役割をはたす酵素であり,その機能ならびに遺伝子支酉己の解明は,効率的な硝酸代謝を行なう作物育成の基礎として重要である.この解決にはNRにかかわる多様な突然変異の利用が有効であるので,本実験で明らかになった系統についてNRの遺伝生化学的調査を行なっている.
  • 劉 慶昌, 國分 禎二, 佐藤 宗治
    1991 年 41 巻 1 号 p. 103-108
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    Ipomoea 属 batatas節植物はサツマイモ(I.batatas(L.)LAM.)との交雑親和性によって二つの群に分けられる.第II群に属する近縁野生種はサツマイモと交雑木可能なためにサツマイモ育種へ利用されていない.この交雑不親和性を克服するために体細胞融合法を利用する場合,プロトプラストからの植物体再生条件を確立しておくことは極めて重要である.これまで第I群植物のプロトプラストからの植物体再生条件は報告されているが,第II群植物のプロトプラストからの植物体再生はまだ報告されていない.本研究では,第II群に属する2倍体の近縁野生種I.triloba L.のプロトプラストからの植物体再生に成功した.I.triloba L.の無菌植物を供試材料とした.培養3週目の無菌植物の若い茎及び葉柄(約1g生重)を細切し,0.2%マセロザイムR-10, 0.4%セルラーゼオノヅカR-10, 0.6MD-マンニトール,0.5%CaCl2・2H20及び5.0mMMESを含む10ml酵素液(pH5.8)で,27℃,暗黒下で16時間処理した.処理後0.4mm網目のステンレス筋でろ過し,20%ショ糖液上に懸濁し,350xg,10分間遠心をかけた.精製したプロトプラストをWs液で2回,その後プロトプラスト培養培地で1回,200xg,4分問遠心をかけて洗浄した.(Fig.1A).プロトプラストの培養は,1-2×104個/mlの密度で,50.0mg/lカゼイン,0.6MD-マンニトール,1.0%ショ糖,0.5mg/l2,4-D及び1,0mg/lkinetinを含む修正MS液体培地(pH5.8)で,27℃,暗黒下で行った.培養3-4日目に最初の細胞分裂が見られた(Fig.1B).
  • 小川 紹文, / , / 遠藤 昇 /, Gabriel.O. ROMERO, Noboru ENDO, Gurdev.S. KHUSH
    1991 年 41 巻 1 号 p. 109-119
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    IRRIの植物病理部がフィリピン産白菜枯病菌レースを接種して3,000余の抵抗性品種をスクリーニングしていた.これらの抵抗性品種のうち,比較的高度の抵抗性を示していた1,441品種について,新しい白葉枯病抵抗性遺伝子を探索する目的でフィリピン産自葉枯病菌4レースの接種検定を行った.その接種検定の過程で,イネ品種はフィリピン産白菜枯病菌4レースに対する反応型により類別でき,イネの生態型と類似している傾向があったので,まず,既存の自棄枯病抵抗性遺伝子をもつ品種の反応と比較しながら,イネ品種をフィリピン産白菜枯病菌4レースに対する反応型により類別した.その結果,イネ品種の接種検定からまず5反応群を類別した.(1)JAVA14群:4レース全てに抵抗性を示し,病斑の周縁部が褐色化し,Xa-3をもつJAVA14の反応型によく類似している.(2)TKM6群:レース1に抵抗性,レース4に中度抵抗性を示すが,レース2と3には感受性で,Xa-4をもつIR20に類似した反応を示す.IR20はその抵抗性がTKM6に由来していることから,この群をTKM6群となずけた.(3)DZ192群:レース1から3に抵抗性を示し,レース4に対しては,中度抵抗性ないし中度感受性を示すが,病斑の周縁部が褐色化することはない.この反応型はxa-5をもつIR1545-339によく類似している.IR1545-339の抵抗性はDZ192に由来するので,この群をDZ192群とした.レース4に対しても抵抗性を示すが,病斑の周縁部が褐色化しない品種もこの群に含めた.(4)CAS209群:レース2に対して高度抵抗性を示すが,レース1,3及び4に対しては感受性を示す.この反応型はXa-10をもつCAS209とよく類似したものである.(5)MondxBa群:レース2に対して高度抵抗性を示し,レース1に対して抵抗性,レース4に対して中度抵抗性を示すが,レース3に対しては感受性を示す.その反応型はXa-4とXa-10双方を持つMond Baによく類似している.(Table2)
  • 佐藤 洋一郎
    1991 年 41 巻 1 号 p. 121-134
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    アジア各地から集めた在来イネ625品種を岡(1953)の方法によるインド型,熱帯日本型および温帯日本型に,また松尾(1952)の方法によるa型,b型および。型(籾形)品種群に分類し,各品種群の地理的分布を比較するなどして両者の分類の視点を検討するとともに,C型=インド型のような対応関係の有無を調べた。2つの分類の合致の程度(一致指数)は供試した品種全体では0,582で両者の分類が完全に独立とは言えないものの,松尾(1952)のc型=岡(1953)のインド型,のような図式が成立しないことが指摘された。一致指数は地域によって異なった。一致指数はマレーシアからヒマラヤ山麓にいたる地域では0,414ないし0,553で,インド型一日本型と松尾の切型との間の組合せの傾向は弱かった。日本,朝鮮半島および北中国では,一致指数はO.7を越える高い値を示し,インド型でC型,温帯日本型でa型のような品種がなんらかの選抜によって成立してきたと考えられた。一致指数は供試品種全体では必ずしも高くなかったことから,両者の分類はイネの分化の異なる側面を反映したものと考えられる。
  • 奥本 裕, 谷坂 隆俊, 山縣 弘忠
    1991 年 41 巻 1 号 p. 135-152
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    既知の3晩生遺伝子E1,E2およびE3に関して遺伝子型を異にする7系統(7EG系統)を検定系統に用い,我が国の栽培品種を主対象として出穂期に関与する遺伝子の解明に渚手した.本報はその第1報として,我が国西南暖地の代表的品種を対象とし,早生2品種(マンリョウ,日本晴),中生5品種(農林6号,農林8号,農林22号,金南風,中生新千本),および晩生4品種(瑞豊,アケボノ,シラヌイ,ホウヨク)の計11品種を7EG系統と交雑し,F2およびF3を用いて出穂日の分離分析を行ったものである.分析の結果,両早生品種はE1を,また中生5品種のうち3品種(農林6号,農林8号,農林22号)はE1とE2を,さらに他の中生2品種と晩生4品種はいずれもE1とE3を持つことが判明した.ただし,金南風および中生新千本は,E1,E3の外に,E1の作用を変更する1個の早生遺伝子を持つと推定された.このように,供試品種がすべてE1を有していたことから,E1は西南暖地品種にとって適応上不可欠の遺伝子であると考えられた.また,どの交雑組合せにおいても,E1,E2,E3および上記早生遺伝子以外の主働遺伝子による分離が認められなかったことから,西南暖地品種間にみられる早晩性の変異はE2,E3および1早生遺伝子によってほぼ説明できると結論された.
  • 藺牟田 泉, 菊池 文雄, 生井 兵治, 鵜飼 保雄
    1991 年 41 巻 1 号 p. 153-162
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    イネの葯培養におけるカルス形成率の遺伝様式を調べるために,形成率の異なる日本型,インド型の水稲ならびに陸稲の計6品種の総当たり交雑を行い,雑種F1の葯のカルス形成率のダイアレル分析を行った.カルス形成率は,水・陸稲とも日本型水稲品種が高く,インド型品種がかなり低かった。カルス形成率の遺伝的変異は、主として遺伝子の相加的効果によることが推測された.その平均優性度(√H1/D)はO.39であった.カルス形成率の高いほうが劣性であった.カルスをほとんど形成しない I Kong Pao は完全優性親カルス形成率の高い北陸100号は完全劣性親と推察された.その他の現品種については優性遺伝子と劣性遺伝子を併有していると考えられた.分散分析の結果,親聞及び特定組合せの優性効果に有意差が認められた.優性効果発現には,カルス形成率の低いインド型陸稲品種赤米dがとくに関与しており,この品種を除いた副ダイアレル表の分析では,親間および特定組合せ間優性効果が有意でなくなり,平均優性度も0.19と減少した.正逆交雑に差は認められず,細胞質または母体効果はカルス形成率に影響していないと考えられた.
  • 稲垣 正典, Muhammad TAHIR
    1991 年 41 巻 1 号 p. 163-167
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    コムギの品種間F1雑種(農林50号×フクホコムギ)からHoedeum bulbosum L. との属間交雑を利用して作出した30の半数体倍加系統を供試し,半矮性遺伝子Rht1およびRht2の収量に及ぼす効果を調べた.まず,これらの遺伝子の有無を幼苗のジベレリンに対する感受性により識別した.すなわち,半数体倍加系統および検定系統にそれらの両親を交雑して得たF2個体についてジベレリンに対する反応を調べた結果,1)農林50号およびフクホコムギの遺伝子型を,それぞれrht1・Rht2まおよびRht1・rht2と同定し,2)30の半数体倍加系統を,異なる4種類の遺伝子型rht1・rht2,Rht1・rht2,rht1・Rht2およびRht1・Rht2の,それぞれ7,10,6および7系統に分けることができた.さらに,これらの遺伝子型ごとに,つくば市において調査した稈長および子実収量を比較した結果,1)半矮性遺伝子Rht1およびRht2は稈長を相加的に減少させること,2)いずれか一方の遺伝子を有する半優性系統は長稈の系統と同じ子実収量を示したが,両方の遺伝子を有する矮性系統の子実収量は著しく低いことが明らかとなり,3)同じ遺伝子型の系統間においても稈長および子実収量に変異がみられたので,調査した半優性遺伝子以外の遺伝的要因もこれらの形質に作用していると推察された.
  • 貝守 昇, 石原 愛也
    1991 年 41 巻 1 号 p. 169-173
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    人参カルスをMURASHIGEとSK00Gの寒天培地で約3ヵ月間継代培養し,エンブリオジェニック・カルス(embryogenic calli,EC)とノンエンブリオジェニック・カルス(nonembryogenic calli,NEC)を可視的に選抜した.3週間培養した後,それぞれのカルスを,6時間で約3%の乾燥平衡状態まで乾燥させた.乾燥処理及び乾燥無処理のすべてのECは,多数の不定胚や幼植物体を分化させた(Table 1,Fig.1, Fig.3A).乾燥無処理のすべてのNECは活発に成長した.これらの約半数のカルスは,多数の不定胚や幼植物体を分化させた.乾燥処理をしたNECは,ほとんどが枯死したが,ECと思われる一部は生存し,幼植物体を分化させた(Table1,Fig2,Fig.3B).これらの結果は,乾燥によってECを選抜できる可能性を示している.
  • 古庄 雅彦, 末永 一博, 中島 皐介
    1991 年 41 巻 1 号 p. 175-179
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    トウモロコシおよびイタリアンライグラスの花粉を利用した属間交雑を行い,オオムギ半数体を作出した。2種類の属間交雑とも,授粉直後に2,4-Dを穂首節間に注入することによって,半数体を作出することができた。また,トウモロコシとの交雑において75ppmの2,4-Dは幼胚着生率および半数体作出卒を高めるために最も効率的であった。二条オオムギ14品種とトウモロコシとの交雑における幼胚渚生率および半数体作出率はそれぞれ0.0~19.6%,0.0~6.9%であった。二条オオムギ3品種とイタりアシライグラスとの交雑では0.0~16.7%および0.0~10.4%であった。いずれの交雑においても筑系7565が最も高い半数体作出率を示した。以上のように,2種類の属間交雑によってオオムギ半数体が得られることが明らかとなった。今後,属間交雑と半数体作出によく使用されているH.bulbosumによる方法を適宜使い分けることによって,半数体育種の適用範囲を拡大し,効率をさらに高めることが可能と考えられる。
  • 小柳.敦史 , 佐藤 暁子, 和田 道宏, 山田 利昭
    1991 年 41 巻 1 号 p. 181-184
    発行日: 1991/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    コムギ種子根の寒天培地での重力屈性反応に関する遺伝解析を行った.種子根の伸長角度が大きい農林58号と小さいChinese Springを交配し,得られたF1及びF2個体の種子根の伸長角度を測定した.発芽種子を初生種子根の出現角度が寒天面と平行になるように置床し,暗黒下,20℃で2~3日間培養した後,初生種子根の伸長角度を測定した.寒天面からの伏角は農林58号が68±21°(平均値±標準偏差),ChineseSpringが16±14°(同),F1個体が15±21°(同)であった.2回の繰り返し実験の結果,F2個体の種子根の伸長角度は0~50°(伸長角度小)と60~90°(伸長角度大)の各々にモードを持つ2頂分布を示し,伸長角度小1大の分離比は3:1に適合した.また,F1は発芽が遅く測定値がばらついたが,伸長角度の平均値はChinese Springと同様に小さかった.これらのことから,コムギ種子根の伸長角度が小さくなる性質,すなわち弱い重力屈性反応は1個の優性主働遺伝子によって支酉己されていると考えられた.
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