育種学雑誌
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液体回転培養による形質転換カルスの選抜と形質転換キュウリの獲得
田部井 豊西尾 剛栗原 一徳菅野 紹雄
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1994 年 44 巻 1 号 p. 47-51

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抄録
これまで形質転換体の作出に,カナマイシンが最も広く用いられている.著者らも,キュウリの種子子葉部を外植片とし,カナマイシンの選抜による形質転換体の獲得を試みたが,カナマイシンを含む再分化培地で,多くの非形質転換体が誘導された.そこで,選抜に適した抗生物質の種類と濃度および培養法を検討することにより,確実な形質転換カルスの選抜法を確立するとともに,形質転換体の作出を試みた.形質転換体を選抜する抗生物質の種類と濃度を選定するために,カナマイシン(100,200,400mg/l),G418(20,40,80mg/l),ハイクロマイシン(20,40,80mg/l)のそれぞれを含む不定牙誘導培地(MS寒天培地,1mglNAA,0.5mgllBA)に,形質転換無処理の種子子葉部を置床し,カルス形成,外植片の緑化などを確実に阻害する抗生物質の種類と濃度を検討した.その結果,G418とハイクロマイシンが,効果的にカルス形成や外植片の緑化を阻害することが明らかとなり(Table1),特に寒天培地と接している部位での阻害効果は顕著であった.従って,確実な選抜を行うためには,外植片が常に抗生物質と接していることが必要と考えられた.そこで液体回転培養と各種の抗生物質とを組み合わせて,その効果を検討した.その結果,G418とハイクロマイシンが,カルス形成と外植片の緑化を阻害し,特に液体回転培養を用いることにより,極めて効果的にカルス形成を抑制することが明らかとなった.次にG418またはハイクロマイシン抵抗性遺伝子の導入処理を行った外植片を,それぞれの抗生物質を用いて液体回転培養したところ,40mg/lおよび80mg/lG418で選抜を行った区ではカルス形成が完全に抑制され,20mg/l添加区のカルス形成率は45%と,形質転換無処理の外植片を用いた結果より低率となった.ハイクロマイシンで選抜を行った全ての濃度区おいて,80~85%のカルス形成率を示し(Table3),高率かつ安定してハイクロマイシン抵抗性カルスが誘導された.20mg/lハイクロマイシンで選抜された抵抗性カルスを,500mg/lカルベニシリンと20mg/1ハイクロマイシンを含む不定胚誘導培地(Ms寒天培地,20mg/lNAA,0.5mg/lBA)に置床し,不定胚の誘導を試みた.誘導された不定胚は,20mg/lハイクロマイシンを含むMS寒天培地に移植し不定胚の生育と発汗を促したところ,6個体の再分化植物が得られた.それら再分化植物より核DNAを抽出し,カリフラワー35Sプロモーターとノバリン合成酵素のターミネータより作成したプライマーを用いて,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法による導入遺伝子の検出を行った.その結果,再分化した全てのハイクロマイシン抵抗性植物とその自殖後代に遺伝子の導入を証明する特異的なバンドが検出されたことから,20mg/lハイクロマイシンでカルスの選抜および不定胚誘導を行うことで,非形質転換体の再分化を確実に抑制できることが明らかとなった
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