抄録
北海道のイネ品種において穂ばらみ期耐冷性(以下耐冷性と略記)の程度が異なる7品種間の総当たり交雑(相反交雑を除く)による21組合せのF2世代および1組合せのF3世代について長期冷水掛け流し法に基づく低温処理により耐冷性の遺伝分析を行った.その結果,これらの品種の間では耐冷性は主に2つの遺伝子座によって支配されていることが明らかとなったI耐冷性極強品種「はやゆき」はこれら2個の耐冷性遺伝子をもち,そのうち1個は優性遺伝子で他の1個は不完全優性遺伝子である.耐冷性強~中品種の「そらち」,「はやこがね」,「イシカリ」および「ユーカラ」はそのうちの1個の不完全優性遺伝子をもち,耐冷性やや弱~弱品種の「農林20号」および「豊光」はこれらの耐冷性遺伝子をもたないことが示唆された.また「そらち」,「イシカリ」および「ユーカラ」は同一の耐冷性遺伝子をもち,「はやこがね」はこれら3品種が有する遺伝子と複対立関係にある遺伝子をもつものと推定された.これらの結果から,耐冷性に関与する遺伝子は,従来考えられていたほど多数ではなく,少数の主働遺伝子でその大部分の説明が可能ではないかと考えられ,今後,寒地イネの耐冷性育種効率が著しく向上することが期待される.