育種学雑誌
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サイトカイニンを添加した液体培地でのF1種子(Nicotiana suaveolens×N.tabacum)の培養による雑種致死克服の効率化
井上 栄一丸橋 亘丹羽 勝
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1997 年 47 巻 3 号 p. 211-216

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抄録

雑種致死は遠縁交雑の育種への利用を妨げる大きな障害である。Nicotina suaveolensとN. tabacumの種間交雑では雑種実生に致死性が現れ,成熟個体が得られない。本致死性は,雑種実生をサイトカイニン添加培地で培養することにより,致死性を発現しない植物体を再分化させて克服することが可能であった。本論文では,この致死克服法の改良を目的として,サイトカイニンを添加した液体培地でF1種子を回転培養した。サイトカイニンには,プリン型のカイネチン,BAPそしてゼアチンと,強い活性をもつウレア型のTDZおよびCPPUを用いた。各サイトカイニンO.01-1Omg/lとショ糖3%を添加した無機塩のみ1/2濃度のMS液体培地(pH 5.8)にGA3で前処理したF1種子を播種し,28℃,終日照明の恒温器内で,回転数2rpmで回転培養した。培養開始後,約10日間でほぼ全ての種子が発芽し,さらに2-3日後には全ての実生に雑種致死の症状である胚軸の褐変が生じた。培地にサイトカイニンを添加しなかった対照区では,そのまま全ての実生が枯死した。一方,サイトカイニンを添加した処理区では,発芽後,約1週間で,実生の胚軸および根に多数の不定芽様構造物が形成された。これらは致死性を示すことなく成育し,培養を開始してから約4週間後には多くが不定芽に成長した。なかでもO.2mg/l以上のサイトカイニンを処理した区では,冬芽体が形成された。これらの不定芽は2mg/lのオーキシンを含む培地上で容易に発根し,温室で旺盛に成育し開花した。開花植物体は両親の形態的特徴を兼ね備えており根端の染色体数も両親の半数の和であったので雑種と推定された。このように,サイトカイニンを添加した培地でF1種子を培養することにより,効率的に致死性を克服できた。

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