JSBi Bioinformatics Review
Online ISSN : 2435-7022
総説
非モデル真核生物 de novo ドラフトゲノム構築における代表的手法
中川 恒河野 暢明
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2026 年 7 巻 1 号 p. 42-57

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Abstract

非モデル生物研究は、多様な生命現象を一般化して理解することや、種や系統特異的な現象を分子レベルで説明する観点で重要だが、その前提として参照ゲノムの整備が欠かせない。ロングリード技術の普及やアセンブラの発展により、反復配列や高ヘテロ接合を含む非モデル真核生物でも研究室単位でde novoゲノムアセンブリが現実的となった。本総説は、ロングリードおよびショートリードからドラフトゲノムを構築する実務手順と代表的ツールを整理する。さらにクモ類ゲノムを用いたアセンブリ実例を示し、ゲノム特性と計算資源に基づく設計指針を議論する。

1 ロングリード技術の進展による非モデル真核生物ゲノム解析の転換

真核生物ゲノムは反復配列やトランスポソンを含み[1, 2]、ショートリードによるde novoゲノムアセンブリでは長い連続配列を得ることが困難であった[3]。この問題はIlluminaショートリード技術の普及時期に顕著で、複雑な真核生物ゲノム全域を連続的に配列決定することは困難とされてきた[4, 5]。しかし2010年代後半にOxford Nanopore Technologies社(ONT)によるナノポアシーケンスや、Pacific Biosciences社(PacBio)のHiFiシーケンスが登場したことでゲノムアセンブリの連続性が大きく改善した[6]。

PacBio RS II/Sequelなどのシステムでは数十kbp程度、MinIONなどのナノポアシーケンサーでは条件によっては数百kbpから数Mbpに及ぶロングリードが取得可能である[7]。このように数十kbp規模の領域を1本のリードとして読み取ることができるロングリードシーケンスは、ショートリードでは跨ぐことが困難な反復配列をカバーできるため、ゲノムアセンブリの連続性向上に大きく貢献する[8, 9]。このため、高ヘテロ接合や高反復、巨大ゲノムサイズといった理由からショートリードのみではアセンブルが困難であった非モデル真核生物ゲノム[10, 11, 12]についても、ロングリードを用いたアセンブルが可能となった。ロングリードは精度が悪いという考えもかなり古くなった。PacBioのCLR(Continuous Long Reads)やONTリードの登場当初はエラー率が10~15%と高く、Illuminaリードのエラー率0.3%程度と比較すると目劣りした[9, 13]。しかし近年ロングリードシーケンシングの精度は大幅に向上している。シーケンシングの精度は塩基の読み取り精度を表すクオリティスコア(Qスコア)を指標として評価されることが多い。Qスコアが高いほどエラー率は低く、例えばQ30は1000塩基に1塩基程度のエラー率、すなわち99.9%の精度に相当する。PacBioでは、同一分子を繰り返し読み取るCCS(circular consensus sequencing)により得られるHiFiリードで、Qスコアの中央値がQ30に達することが報告されている[14]。また、ONTでは改良型ナノポアであるR10.4.1ポアと改良された試薬Kit14 chemistryを用い、同一DNA分子の両鎖情報を統合するduplex解析によって、中央値は約Q30に達することが報告されている[15]。加えてバイオインフォマティクスによるソフト側の改善もある。自己補正によりあらかじめエラーを除去するアルゴリズムが開発され[13]、こうした流れの中でCanu[16]などのロングリード向けアセンブラが発展した。また、あらかじめ自己補正を行うのではなく、リード間の重なりに基づく関係を表すグラフを利用してアセンブリを進めるアルゴリズムも開発され[17]、その代表例としてFlye[18]などのロングリード向けアセンブラが発展し、非モデル真核生物でも高品質なドラフトゲノム整備が現実的になった。これにより、研究対象種のゲノム報告を待つことなく、各研究室が自らの研究課題に応じて主体的にゲノムを整備できる時代が到来した[19, 20]。

2 巨大ゲノム解析の実務的課題

真核生物のゲノムサイズは系統や種によって大きな幅がある[21]。動物では、ミナミネグサレセンチュウPratylenchus coffeaeの約19.7 Mbp[22]や、アフリカ産肺魚Protopterus aethiopicusの約130 Gbp[23]を例にとると、場合によっては約6,000倍以上の開きがあることがわかる(図1)。また、植物では、シダ植物Tmesipteris oblanceolataの160 Gbp[23]が報告され、真核生物ゲノムの広範さが窺える(図1)。非モデル真核生物の中でも数百Mbp級の比較的小型・中型ゲノムでは解析上の負荷は限定的である。このようなゲノムでは、限られた計算資源でも高速に動作するアセンブリ手法を複数試行でき、パラメータ最適化やツール比較を通じた試行錯誤が可能となる。しかし数Gbpに及ぶ大型ゲノムを対象とする場合、ロングリードをベースにしても、ドラフトゲノム構築の各過程においてRAM要求や計算時間の増大が必至で、解析工程の選択肢は物理的制約により実務上限定される[24, 25]。また、アセンブリ品質はゲノムサイズ、ヘテロ接合度、および計算資源などに大きく依存するため[26, 27]、あらかじめ代表的なツールの特性や計算要求を把握することが重要である。

図1:各種生物の分類群別ゲノムサイズ比較

様々な生物種のゲノムサイズを系統分類ごとに示した棒グラフ。横軸はハプロイドゲノムサイズを対数スケールで示しており、縦軸は生物種を配置している。ゲノムサイズは報告されたアセンブリサイズ、またはC-valueの報告を基に換算したゲノムサイズ[68]をプロットしている[1, 22, 23, 40, 67, 78, 85, 86, 87, 88, 89, 90, 91, 92, 93, 94, 95, 96, 97, 98, 99, 100, 101, 102, 103, 104, 105, 106, 107, 108, 109, 110, 111, 112, 113, 114, 115, 116, 117, 118, 119, 120, 121, 122, 123, 124, 125, 126, 127, 128, 129, 130, 131, 132, 133, 134, 135, 136, 137, 138, 139, 140, 141, 142, 143, 144, 145, 146, 147, 148, 149, 150, 151, 152, 153, 154, 155, 156, 157, 158, 159, 160, 161, 162, 163, 164, 165, 166, 167]。背景の色帯はゲノムサイズ規模を便宜的に300 Mbpおよび1 Gbpで区切ることで小型、中型、大型を規定し、視覚的に区分したものである。原核生物である真正細菌は小型ゲノムを維持しているが、真核生物ではゲノムサイズが数万倍ものスケールで多様化・肥大化し、種によっては中型から大型ゲノムを持つことがわかる。

本総説では、第3節においてドラフトゲノム構築手順や代表的ツールを紹介するとともに、代表的なアセンブラの特性や選択指針を第4節でまとめる。加えて、大型ゲノムアセンブリの例として鋏角類に属するクモ類を用いた実例を第5節で提供する。

3 de novoゲノムアセンブリの実務手順

シーケンスによって得られる個々のDNA断片の配列をリードと呼ぶ。本節では、PacBio CLRまたはONTロングリードとIlluminaショートリードが手元にある状況を中心に、初期アセンブリから始まり、より高品質なゲノムへと改善していく実務上の手順を代表的ツールとともに段階的に整理する(図2)。

図2:de novoゲノムアセンブリフローチャート

PacBio CLR、およびONTリードなどのロングリードと、Illuminaショートリードを用いてde novoゲノムアセンブリを行う際の一般的手順をまとめた。アセンブリ、ポリッシング、スキャフォールディングは、本総説第3節をGemini 3.1 Proに入力しNano Bananaにより画像生成した模式図を使用した。

3.1 アセンブリによるコンティグの構築

アセンブリでは、シーケンスで得られたリード間の重なり(オーバーラップ)を検出し、それらを連結することでより長い配列を再構築する(図2)。これによって得られる連続した配列断片をコンティグと呼ぶ。ロングリードを入力してアセンブルする方法に加え、Illuminaショートリードとロングリードを同時に入力するハイブリッドアセンブリという選択肢もある(図2)。ロングリードアセンブリでは、PacBio CLRまたはONTロングリードを用いてコンティグを構築する。代表的ツールとしてCanu[16]、FALCON[10]、NextDenovo[28]、PECAT[29]、Flye[18]、wtdbg2[30]、Raven[31]、およびMiniasm[32]などが挙げられる。ハイブリッドアセンブリでは、ショートリードの高い精度とロングリードの高い連続性を活かしてコンティグを構築する。代表的ツールとしてMaSuRCA[33, 34]、WENGAN[35]、およびHASLR[36]が挙げられる。各ツールは内部アルゴリズムや計算資源要求が異なり、対象とするゲノムや計算環境によって最適な選択肢は変わってくるため、各アセンブラの特徴や選択指針について第4節で整理する。

なお、アセンブリ後にリードを再マッピングして塩基置換やインデルなどのエラーを補正する工程をポリッシングと呼ぶ。本工程の詳細は3.3小節で後述する。ポリッシングは塩基レベルの精度向上に有効であるが、コンティグの構造的な誤り、すなわち本来連続していない配列同士が誤って連結される誤連結や、本来とは逆向きに配列が連結されるようなミスアセンブリを修正することはできない。したがって、初期アセンブリにより構築されるコンティグの構造的正確性が最終的なゲノムの品質上限を規定する。

3.2 品質評価

アセンブリの品質評価では、まずSeqkit-stats[37]などのツールによって、アセンブリの連続性を示すN50、最長コンティグ長、および総アセンブリサイズと推定ゲノムサイズとの整合といった基本統計量を確認する。N50は、全アセンブリ長の50%を占めるコンティグ長を示す指標であり、断片化の程度を反映する[38]。なお、推定ゲノムサイズを基準に算出するNG50も広く用いられる[39]。例えばゲノムサイズが約1 Gbpと推定される生物を想定すると、Vertebrate Genomes ProjectではコンティグNG50を1 Mbp以上とすることを最低目標として掲げており、10 Mbp以上であればより高い連続性を示す目安となる[40]。

加えて、BUSCO[41, 42]で保存的遺伝子群の検出率を指標として完全性を評価し、QUAST[43]でアセンブリ統計やアセンブリに関するエラーを集計すると良い。BUSCOは、対象の系統ごとに用意された、単一コピーとして保存されていることが期待される遺伝子群を基準として、ゲノムアセンブリの完全性を評価する指標である[41, 42]。結果はC: Complete、F: Fragmented、およびM: Missingに分類され、このうちCはS: Single-copyとD: Duplicatedから構成される。実務的指針としてCが95%以上かつMが5%未満を目指すと良い[41, 42]。QUASTでは、工程間で未確定塩基Nの割合やコンティグ数の推移を比較し、参照配列がある場合はミスマッチやインデルの減少とミスアセンブリの増加がないことを確認する[43]。

さらに、参照ゲノムを用いない精度評価として、k-merベースの指標を併用すると良い。k-merとは、塩基配列を長さkの短い部分配列に分けたときの各配列断片を指し、シーケンスデータの特徴把握やアセンブリ品質の評価に用いられる[44]。Merqury[45]は、ショートリードから作成したk-mer集合を基準とし、アセンブリ中にそれらのk-merがどの程度含まれているかを比較することで、アセンブリの精度をQVとして推定するとともに、k-mer完全性を算出する[45]。QVは、塩基のエラー率を対数スケールで表す指標であり、Q30は約99.9%、Q40は約99.99%の精度に相当する[45]。k-mer完全性とは、基準としたk-mer集合のうちアセンブリに含まれる割合を示す指標である[45]。ショートリードデータが利用可能な場合には、これらの指標を用いて精度の改善をより定量的に把握できる。

これらの指標は、アセンブリ各工程前後の品質評価に使用する。特にN50やBUSCO Cの改善を追跡することで品質変化を評価することが望ましい[46]。BUSCOはCの改善を追跡するだけでなく、ポリッシングでは特にFとMの減少、ハプロティグ除去ではDの減少を追跡することが有用である。

3.3 ロングリードポリッシング

複数のリードをコンティグにマッピングし、各位置に対応したリード情報を基に最も妥当な塩基を決定して得られる配列をコンセンサス配列と呼ぶ。ポリッシングでは、ロングリードを用いてコンセンサス配列を更新することで、塩基置換やインデルを補正する(図2)。ロングリード単独アセンブリで得たドラフトでは本工程を必須とし、ハイブリッドアセンブリで精度が十分に高い場合は、品質指標に応じて省略または回数を減らすことを検討する。代表的ツールとして、Racon[47]やMedaka[48]が挙げられる。Racon[47]は、コンセンサスステップを含まないアセンブリ手法によって生成されたコンティグを補正するよう設計されており、PacBioおよびONT両方のデータに対応する[47]。一方、Medaka[48]はONTデータに特化したニューラルネットワークベースのコンセンサスツールである[48]。ツール実行前後でN50やBUSCOによる品質評価を確認し、品質評価の改善が収束するまで、複数回適用される運用が一般的である[49]。ここではN50などの連続性指標が維持されていることを確認しつつ、BUSCO Cの改善を追跡すると良い。

3.4 ハプロティグ除去

ヘテロ接合とは、同一ゲノム内の相同染色体間に配列差異が存在する状態を指す。二倍体ゲノムのアセンブリでは、ヘテロ接合性の高い領域が別コンティグとして残ることがあり、このように本来は同じ領域に由来する配列が別コンティグとして分離されたものをハプロティグと呼ぶ。ハプロティグはアセンブリの冗長化を招き、スキャフォールディングや遺伝子アノテーションの解釈を損なう要因になり得る[50, 51]。ハプロティグを除去する代表的ツールとしてpurge_dups[51]が挙げられ、アセンブリおよびminimap2[52]によるリード深度情報とアセンブリの自己アライメントに基づいて、ハプロティグおよびコンティグ重複を自動的に同定・除去する[51]。このような重複はBUSCO Dの増加として現れる場合があり、ハプロティグ除去の前後でDの減少を確認することが有用である[41, 42]。

3.5 ショートリードポリッシング

ロングリードポリッシング後のコンティグに対し、Illuminaショートリードをマッピングしてコンセンサス配列の精度をさらに向上させる(図2)。ハイブリッドアセンブラは比較的計算負荷が大きくなる場合があるため、迅速にドラフトアセンブリを得る目的で、まずロングリードのみでアセンブリを行うこともある。そのような場合でも、ショートリードデータが利用可能であれば、本工程はアセンブリ精度向上に有効である。ハイブリッドアセンブリを行った場合でも、残存する局所エラーの補正を目的として適用を検討する。Pilon[46]は、ショートリードをアセンブリにマッピングした結果を解析し、リードとアセンブリ間の不一致を検出することで、一塩基置換、インデル、およびより大きなブロック置換やギャップ充填を行うツールである。このようなショートリードポリッシングにより、同一塩基の連続配列に多発するロングリード特有のエラーが効果的に補正されることが期待される[53]。品質指標の改善が収束するまで、二回程度反復適用される運用が一般的である[49]。ここではN50を確認しつつ、BUSCO Cの改善、FとMの減少を追跡すると良い。ショートリードポリッシングではインデル補正によりフレームシフトが減少しやすいため、BUSCO FとMの低下が確認できると期待される[41, 42, 46]。

3.6 コンタミネーション除去

最終的なアセンブリに対し、非標的DNAのコンタミネーションを検出し、必要に応じて除去する。BlobToolKit[54]は、各コンティグについて被覆深度、塩基組成、相同性検索に基づく分類情報を統合して可視化し、非標的生物や共生生物由来の配列候補を特定するためのツールキットである。ここでいう被覆深度とは、各コンティグがどの程度の数のリードで支持されているかを示す。一般に、対象生物由来コンティグは被覆深度とGC含量が一定のクラスターを形成するため、これから大きく外れ、かつ細菌や真菌などに分類される配列はコンタミネーション候補と判断できる[54]。

加えて、参照ゲノムを用いない補助的なコンタミネーション評価として、k-merベースの解析も有用である。例えばKAT[55]は、リード由来k-merとアセンブリ由来k-merの頻度分布を比較し、コンタミネーションの可能性を評価できる。また、メタゲノム解析においてk-merに基づいて配列の分類群を推定するKraken2[56]を用いることで、リードやコンティグを分類群に割り当て、非標的分類群の割合を定量的に把握できる。これらのk-merベースの解析はBlobToolKitによる可視化と独立な根拠を与えるため、併用する意義がある。

3.7 HiFiリードベースアセンブリや染色体レベルスキャフォールディング

ここまでは、PacBio CLRまたはONTロングリードをベースとしたドラフトゲノム構築を中心にまとめた。一方、Circular Consensus Sequencingにより高精度化されたPacBio HiFiリードを前提とした設計については、Vertebrate Genomes Project(VGP)[40]を参照されたい。VGPは脊椎動物の参照レベルのゲノムアセンブリを系統的に構築するプロジェクトであり、パイプライン設計としてはk-mer頻度分布に基づくゲノム特性推定、HiFiリードベースのコンティグアセンブリ、ハプロティグ除去、スキャフォールディング、およびコンタミネーション除去といった手順が提唱されている[40]。HiFiリードに特化したアセンブラとしてはhifiasm[57]やVerkko[58]が挙げられる。また、HiFiリードの高い精度によりショートリードポリッシングの必要性は減少するとされる[59]。

染色体レベルスキャフォールディングとは、コンティグを染色体スケールのスキャフォールドへ順序付けと方向付けを行い、コンティグのみでは復元が困難なゲノム全体の構造を再構成する処理を指す。この工程では、Hi-Cにより得られる近接ライゲーション由来の接触頻度情報を利用することで、ゲノム上で近い領域ほど高頻度に観測されるという性質に基づき、コンティグを染色体スケールで配置できる[60](図2)。Hi-Cを用いた代表的スキャフォールディング手法として、3D-DNA[61]、SALSA2[62]、およびYaHS[63]が挙げられる。

4 代表的アセンブラとその特徴

各アセンブラはアルゴリズム設計、計算資源要求が異なるため、対象ゲノムの特性とデータ条件に応じた柔軟な選択が重要である。本節では、代表的ロングリードアセンブラとハイブリッドアセンブラを対象に、設計思想や実務上の選択指針を整理する。

4.1 ロングリードアセンブラ

PacBio CLRおよび初期世代ONTリードのようなエラー率が比較的高いロングリードを入力とするアセンブラは、エラー補正をどの段階で行うかに基づき、correct-then-assemble型とassemble-then-correct型の二つに分類される[28, 64]。

correct-then-assemble型は、ロングリード解析の初期に確立された階層的アセンブリ(Hierarchical Genome Assembly Process, HGAP)という考え方に従い、アセンブリ前にリードの自己補正を行う[13]。補正済みリードを用いることで、その後のオーバーラップ検出や、リード間の関係を表現するアセンブリグラフの構築を安定化し、複雑な反復領域の解決を有利に進める狙いがある[13]。一方で、補正段階の計算コストが比較的大きくなるため、大型ゲノムでは計算時間が増大し得る[18, 28]。代表例として、ロングリード解析の初期から広く用いられてきたFALCON[10]やCanu[16]のほか、計算効率を改善したNextDenovo[28]やPECAT[29]が挙げられる。

Canu[16]は、比較的エラー率の高いロングリード向けのアセンブラとして開発され、反復配列のアセンブリとハプロタイプの扱いが課題であることを背景として述べている[16]。そのような課題を解決した一方で、計算資源と実行時間の負担が大きくなり得ることは指摘されている[16, 65]。NextDenovo[28]は、効率的なエラー補正によって、Canuと比較して少ない計算資源で同等以上の連続性を達成するとされ、巨大ゲノムを現実的な計算時間で処理したい場面での適用が想定される[28]。ただし、親の情報を使わない条件では、父由来と母由来の配列を分けて組み立てる用途は想定していない旨が述べられている[28]。FALCON[10]は、非近交系などヘテロな二倍体ゲノムのアセンブリが困難であることを背景に、父由来と母由来のSNPも反映した配列を得るアセンブラとして開発された[10]。PECAT[29]は、父由来と母由来のSNPを保ちつつ、両者が誤って結合されることを抑える方針で開発された[29]。ただし、父由来と母由来の配列の違いが少ない領域では、シーケンスエラーとの区別が難しくなり得ることが指摘されている[29]。

一方、assemble-then-correct型は、生リードを事前補正なしに用いてオーバーラップを検出し、それに基づいてアセンブリグラフを構築してコンティグを得た後、ポリッシングによって精度を改善する。リードにエラーが存在しても、リード間のオーバーラップを統計的に検出できることに着目したFlye[18]、wtdbg2[30]、およびRaven[31]や、精度改善を外部ポリッシャーに任せる設計のMiniasm[32]などで採用されている。事前のエラー補正を省略することにより計算時間が短縮される一方、アセンブリ後のポリッシング品質がゲノムの精度を左右するとされる[49]。

Flye[18]は、エラーを含むロングリードでも反復配列を扱えるように工夫された手法として提示されており、反復配列が多い真核生物ゲノムでも組み立てが大きく崩れにくいことが強調されている[18]。wtdbg2[30]は、32 Gbp級の大型ゲノムでも比較的高速に動作するとされる[30]。Raven[31]は、リード間のオーバーラップ探索やアセンブリの効率化を図り、計算時間とメモリ使用量を抑えるよう開発された[31]。Miniasm[32]は、内部でエラー補正を行わないことで高速化する方針が示されており、得られたアセンブリは別工程で精度を上げることが前提とされる[32]。

4.2 ハイブリッドアセンブラ

前述したロングリードベースの戦略に加え、ショートリードの高い精度をアセンブリ段階から組み込むことで、精度と連続性の高いコンティグ生成を目指すハイブリッドアセンブリという戦略もある。MaSuRCA[33, 34]、WENGAN[35]、HASLR[36]などが代表例であり、場合によっては、アセンブリ実行後に行うポリッシング工程の必要回数が減少することが見込まれる。

MaSuRCA[33, 34]は、多数のショートリードから少数のより長いリード(スーパーリード)を生成し、そこへロングリードを組み合わせて長くて精度の高い配列を得る[33, 34]。4.3 GbpのAegilops tauschiiゲノムアセンブリ実例が示されているほか、22 GbpのPinus taedaゲノムといった巨大ゲノムにも適用可能であるとされている[34]。

WENGAN[35]は、ロングリード同士の全対全比較を回避する設計のハイブリッドアセンブラである[35]。15×という低深度ロングリード条件でも高い連続性が報告されている一方、4 Gbpを超えるゲノムを扱うことは想定されていない[35]。HASLR[36]でも、ロングリード同士の全対全比較を回避する設計がなされ、他ハイブリッドアセンブラやCanu、wtdbg2といったロングリードアセンブラと比較して高速であることや誤接合数が少なかったことが示されている[36]。しかし、大型・複雑なゲノムではCanuに比べてgenome fractionが低くなる傾向があることや、内蔵ポリッシングを持たないためインデル率が高く、別途ポリッシングが必要とされる欠点も挙げられる[36]。これらハイブリッドアセンブラは総じて、ショートリード由来の高精度な配列情報を基盤に、ロングリードは連結情報として補助的に利用することで、ロングリードアセンブラと比較して少ないロングリード入力と計算負荷で連続性の改善を狙う設計といえる[33, 35, 36]。

4.3 アセンブラ選択の指針

アセンブラの選択に関しては、いくつかのベンチマーク研究が指針を提供している。真核生物ゲノムを対象とした比較では、PacBio CLRおよびONTリードに対してFlyeが連続性・完全性・速度のバランスにおいて総合的に優れた性能を示すことが報告されている[65]。一方で、数百Mbp級ゲノムを持つトラフグ(Takifugu rubripes)では、Canuが連続性・配列一致性・遺伝子同定の点でFlyeを上回る場合があることが示されている[65]。ただし、Canuはゲノムによる性能変動が比較的大きく、計算資源の負担も大きくなりやすいとされる[65]。参考までに、原核生物ゲノムを対象としたベンチマークでは、参照ゲノム配列からin silicoで人工ロングリードを用意し、読取り深度、読取り長、およびエラー率などの条件をばらつかせた500セットを作成して頑健性を評価した報告がある[66]。このシミュレーションでは低リード深度条件でFlyeやCanuが約10×までアセンブリを完遂できること、Ravenが低メモリ消費で高速に完遂することが報告されている[66]。とはいえ実際のシーケンスデータは最低40×で評価されており、このようなシミュレーション結果は実データで一般化できるとは限らない[66]。また、単一のアセンブラがすべての評価指標で最良となることは少なく[65]、ゲノムの複雑性、シーケンスデータの種類と深度、利用可能な計算資源を総合的に考慮した実務的選択が求められる。

5 クモ類ゲノムを用いたドラフトゲノムアセンブリ実例

クモ類はC-value測定では0.74 pgから5.7 pgと報告され[67]、これは概ね0.72 Gbpから5.6 Gbpに相当する[68]。このことは、クモがヒトゲノムに匹敵するかそれを上回る大型ゲノムを持つ系統であることを示す(図1)。そのため、アセンブリでは計算資源の増大や解析上の負荷が技術的な課題となる。また、クモゲノムは反復配列を大量に含み[69, 70]、ロングリードベースのゲノムアセンブリを議論するのに適している。

まずは、PacBio CLRリードおよびIlluminaショートリードを用いた、約2.69 Gbpの大型ゲノムを有するクモのドラフトゲノム構築例を紹介する。ここではクモAと仮称する。本種のIlluminaショートリードデータを用いたk-mer解析(GenomeScope v1.0[71]k=21)により、ハプロイドゲノムサイズは約2.69 Gbpと推定された。推定ヘテロ接合率は約0.20%であり、反復配列は約1.21 Gbpで全ゲノムの約45%を占めると推定された。

HASLR[36]、WENGAN[35]によるハイブリッドアセンブリ、Raven[31]、Flye[18]によるロングリードアセンブリ、およびRacon[47]、Pilon[46]によるポリッシング結果をまとめた(表1)。アセンブリの完全性はBUSCOを用い、arachnida_odb10データセットに基づいて評価した。クモAゲノムは約2.69 Gbpと推定され比較的大きいが、ヘテロ接合率は0.20%と低く比較的アセンブルしやすいことが窺える。ハイブリッドのHASLRはロング98×とショート52×の入力でBUSCO C が95.3%を示し、Pilonで95.7%へ改善した。一方、ロング単独ではRavenが20×で総長1.31 Gbpと不足した。Flyeは20×で総長3.16 Gbpと過大で、Racon追加でもBUSCOは低下したが、Pilonで93.3%まで回復した。このゲノムでは、HASLR+Pilonが最も堅実な構成であったことが窺える(表1)。

表1:クモAのドラフトゲノム構築実例

ToolTool versionLong reads inputShort reads input実行時間aScaffolds総長 (Gbp)最長 (Mbp)N50 (kbp)BUSCO
C (%)
HASLR0.8a198x (262.5 Gb)52x (139.6 Gb)2日8,2512.6655.83815.095.3
HASLR + Raconv1.4.1749x (131.3 Gb)52x (139.6 Gb)5時間7,9052.6475.80811.494.5
HASLR + Pilon1.23-13x (34.9 Gb)5日8,2512.6425.78808.095.7
HASLR + Pilon×21.23-13x (34.9 Gb)1日8,2512.6375.78807.495.7
WENGAN0.220x (52.5 Gb)52x (139.6 Gb)32時間14,2752.4323.15465.993.7
WENGAN + Raconv1.4.1752x (139.6 Gb)-1時間13,7672.4323.19471.782.4
WENGAN + Pilon1.23-13x (34.9 Gb)24時間14,2752.4013.15462.493.7
Raven1.7.020x (52.5 Gb)-38時間12,2771.3080.61127.2-
Raven1.7.098x (262.5 Gb)-swap-----
Flye2.9-b176820x (52.5 Gb)-55時間15,8423.1633.63503.785.9
Flye + Raconv1.4.1720x (52.5 Gb)-3時間14,3953.1853.66503.983.2
Flye + Racon×2v1.4.1720x (52.5 Gb)-3時間14,2463.1853.68507.982.8
Flye + Pilon1.23-13x (34.9 Gb)24時間15,8423.1513.81501.893.3

a実行環境:Intel Xeon E5-2667 v2 3.30GHz、8cores、16threads、250GiB RAM

加えて、PacBio CLRリードおよびIlluminaショートリードを用いた、より大きなゲノムを持つクモのドラフトゲノム構築例を紹介する。ここではクモBと仮称する。Illuminaショートリードデータを用いたk-mer解析(GenomeScope v2.0[72]k=21)により、ハプロイドゲノムサイズは約4.27 Gbpと推定された。推定ヘテロ接合率は約2.90%であり、反復配列は約2.24 Gbpで全ゲノムの約53%を占めると推定された。

Flye[18]、miniasm[32]、wtdbg2[30]、NextDenovo[28]といったロングリードアセンブラでの初期アセンブリ、Racon[47]によるポリッシング、purge_haplotigs[50]による重複除去のデータをまとめた(表2)。アセンブリの完全性はBUSCOを用い、arachnida_odb10データセットに基づいて評価した。Flye[18]は30×でも総長が8.82〜8.89 Gbpと推定4.27 Gbpの約2倍で、BUSCO Cは92%程度と高い一方、Dが16.9%と大きい。Racon 2回およびpurge_haplotigs処理でDは12.0%まで低下したものの、総長は7.99 Gbpと依然過大である。miniasmでは連結性は高いが完全性が低く、wtdbg2では50×の入力では計算資源不足となり、30×の入力では断片化が目立つ結果となった。NextDenovoは実行に22日以上を要し、実用的な時間内に完了しなかった。これらの結果は、推定約2.90%という高いヘテロ接合率を有するクモBゲノムが、ロングリード単独では冗長化を招きやすくアセンブリ難易度が高かったことを示している(表2)。

表2:クモBのドラフトゲノム構築実例

ToolTool versionLong reads input実行時間bScaffolds総長 (Gbp)最長 (Mbp)N50 (kbp)BUSCO
C (%)
BUSCO
D (%)
Flye2.9.530x (129.1 Gb)18日78,9128.823.96204.992.716.9
Flye + Racon×21.5.030x (129.1 Gb)7日73,4308.893.97208.392.514.1
Flye + Racon×2 + purge_haplotigs1.1.330x (129.1 Gb)3日61,7447.993.97215.792.212.0
miniasm0.3-r17950x (215.0 Gb)minimap2: 6日
miniasm: 1時間
27,9589.647.81544.645.84.8
wtdbg22.550x (215.0 Gb)swap-----
wtdbg22.530x (129.1 Gb)9時間124,8817.232.92139.883.24.6
NextDenovo2.5.250x (215.0 Gb)22日以上-----

b実行環境:Intel Xeon E5-2690 2.90GHz、16cores、32threads、377GiB RAM

今回はクモゲノムを対象に、N50やBUSCOスコアを指標としてアセンブリ品質を追跡した実例を示したが、手元のデータや計算資源に応じて最適な手法やツール選択は変わってくるため、真核生物を対象としたロングリードアセンブラ比較研究[65]や、ポリッシングの比較評価を含むベンチマーク研究[26]も併せて参照されたい。

6 まとめ

本稿では、非モデル真核生物のde novoドラフトゲノム構築を、技術背景の概説から実務手順、ツール選択指針、クモゲノムを用いた実例として整理した。ロングリードシーケンスは、外部受託などでPacBio HiFiを利用でき、エラー率が低いためアセンブリ後のエラー修正を簡略化しやすい。一方でPacBioのハイスループット機はRevioのUS$779,000のように装置価格が高額になりやすく[73]、設備の導入ハードルは高く、外部受託でデータ取得する運用が現実的と考えられる。これに対しONTは、MinION Mk1D PackはUS$5,150、フローセルR10.4.1は1枚US$840で[74]、装置導入のハードルが比較的低い。このことは、非モデル真核生物におけるde novoドラフトゲノム構築を研究室単位で完結できる段階に至ったことを示す。

とはいえ真核生物ゲノムは巨大サイズや反復も多く、ヘテロ接合やハプロティグ由来の冗長化も相まって高エラーロングリードをベースにしたアセンブリは難易度が高いこともある。特にゲノムサイズと手元の計算資源によっては、実用的とはいえない計算時間がかかることや、アセンブリが完了しないことが想定される。そのため、ゲノム特性と計算資源を見積もったうえで工程とツールを選ぶ視点が欠かせないが、計算資源の制約が大きい場合は、遺伝研DDBJなどが提供する国内の共用スパコンの利用も選択肢に入れると良い[75]。

遺伝研DDBJスパコンには、1ノードあたり合計192コアとRAM 6.144TB級の大容量メモリノードが用意されており、数Gb級ゲノムでメモリが厳しい場合の現実的な選択肢になる[75]。さらに、HPCI経由で富岳やTSUBAME4.0のような計算資源を申請する選択肢も検討できる[76, 77]。

非モデル生物のゲノム整備によって、既存のモデル生物研究では見落とされていた進化的背景をゲノム上で具体的に捉えること[78]や、機能未知の遺伝子の発見や種を超えて比較できること[79]に加え、その生物特有の生態や行動といった現象を分子レベルの仮説へ接続するための基盤が提供される[80]。幸いなことに、Earth BioGenome Project [81, 82]、Darwin Tree of Life[83]、Genome 10K [84]のような、真核生物ゲノムを網羅的に整備するプロジェクトが進められており、これらは参照ゲノムの量的拡大だけでなく、サンプル品質管理、アセンブリ品質指標、遺伝子アノテーションの標準化といった実務的知見の蓄積に貢献してきた[40, 81, 82, 83, 84]。このような背景に後押しされ、特定のモデル生物に偏った生物理解を超え、多様な生命現象を説明する共通原理の発見や、非モデル生物特有の例外的機構の解明が進展すると期待される。

謝辞

本研究はJSPS科研費JP23K21203、JP24K21257、慶應義塾学事振興資金、鶴岡ガストロノミックイノベーション計画、山形県、そして鶴岡市の助成を受けたものです。

References
著者略歴

中川 恒
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程2年。高度に複雑であり、かつ種ごとに異なる様相を呈するクモの造網行動を、分子レベルで理解することを目指して研究中。
河野 暢明
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科および環境情報学部で合成生物学、バイオインフォマティクス、ゲノム科学を専門にwet・dry区別なく幅広い生命科学研究の教育・研究を行う。博士(学術)。文部科学大臣若手科学者賞、山形県科学技術奨励賞、日本ゲノム微生物学会若手賞など受賞。

 
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