JSBi Bioinformatics Review
Online ISSN : 2435-7022
総説
遺伝子発現データと病理組織画像を例とした医学データ解析手法
織田 遥向
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2026 年 7 巻 1 号 p. 58-66

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Abstract

近年、医学分野では大規模データの公開が進み、多くの研究者がデータ解析手法の開発を実施できる環境が整ってきている。多様なモダリティのデータを理解し、それらの関連を明らかにする解析手法は、基礎から臨床まで幅広い医学的知見の礎として需要も高い。特に腫瘍領域において、遺伝子発現データと病理組織画像データは疾患の特徴を反映する代表的な情報源であり、多くの医療機関で取得されるデータである。本稿では、これら二つのデータ解析に関わるいくつかの解析基盤を、発想や基本的枠組みに着目して概説する。手法がどのような考え方から生まれてきたかを知ることで、新たな解析手法を開発するための一助となることを期待する。また、腫瘍サブタイプ分類や予後予測など、手法が活用される例にも触れ、腫瘍領域における解析手法開発の可能性を展望する。

はじめに

近年、公開データベース(The Cancer Genome Atlas[1], The Cancer Imaging Archive[2]など)の充実に伴い、多様な医学データを用いた手法開発への参入障壁が低くなった。多くのモダリティのデータの特徴を捉え、データ間の関連を理解する手法は、疾患の基礎原理究明から正確な診断や予後予測など医療現場での活用まで、幅広い可能性を持っている。特に腫瘍領域において、遺伝子発現情報と病理組織画像情報は、疾患の性質を反映する代表的な要素であり、多くの施設で取得されるため、データが充実している。[3]など多くの論文でこのようなデータの活用例が見られ、様々な解析手法のパッケージ化・ユーザビリティ向上([4, 5]など)も盛んである。本分野にはすでに[6, 7]など網羅的な文献が複数存在するため、本稿では趣向を変え、腫瘍領域の手法開発研究に新規参入を考えている読者向けに説明を行う。遺伝子発現解析および組織画像解析に関わるいくつかの解析基盤を、発想や基本的枠組みに着目して説明することで、新たな解析手法を開発するための一助となることを期待する。まずは上述した、腫瘍領域の二大テーマとも言える遺伝子発現解析と組織画像解析について、簡単に説明を行う。その後、遺伝子発現解析と組織画像解析の解析フローとして重要なグラフクラスタリングおよび特徴抽出について、いくつか関連事項を説明し、最後に異なるモダリティをつなぎ合わせる手法について具体例を紹介する。

遺伝子発現解析と組織画像解析

遺伝子発現解析には様々なスケールや種類がある。例えばbulkのRNAシークエンシング(RNA-seq)では組織サンプル単位、single-cell RNA-seq(scRNA-seq)では一細胞単位、空間トランスクリプトーム解析では測定スポット単位で、各遺伝子に対応するRNAの発現量を測定する。定量結果として得られる出力は行にD種類の遺伝子、列にN個のサンプル・細胞・スポットをもつ行列とみなせる。

組織画像解析では定めた範囲で画像を切り出し(正方形の領域など、ここではパッチと呼ぶことにする)、パッチ画像を特徴量ベクトルに変換する。ここでいう特徴量ベクトルとは、事前学習されたエンコーダーの出力であったり、画像を入力とする数学的アルゴリズムの出力であったりする。様々な特徴抽出器については後の組織画像解析の節を参照されたい。出力は行にD次元の特徴量ベクトル成分、列にN個のパッチを持つ行列とみなせる。このようにして得られるデータに基づき、以降の解析が進められる。

両解析はどちらもサンプル×特徴量の行列に対する解析であるため、次元削減、クラスタリングや各クラスターのアノテーション、さらに位置情報が分かっている場合の空間分布の把握などといった解析フローの基本的な枠組みが類似している。一方、それぞれの解析の違いが現れる点としては以下のようなものが挙げられる。まず、特徴量ベクトルの次元について、遺伝子発現解析では104を超えて高次元の場合もある一方、組織画像解析では高々103程度であり、オーダーが異なる。特徴量ベクトルの各成分の意味づけについても違いがある。遺伝子発現解析では、(少なくとも代表的なものについては)特徴量(遺伝子)やその組み合わせ(遺伝子群)の意味が知られている。そのため、scRNA-seqの解析では、各細胞種に特徴的な遺伝子マーカーによりクラスターのアノテーションを行うことができる。また、DEG(differentially expressed genes)解析(クラスターやサンプル間で発現が特に異なる遺伝子を調べる解析)から得られた遺伝子群に基づくエンリッチメント解析により生物学的機能に関する示唆が得られる。一方、組織画像解析で用いられる特徴量ベクトルはエンコーダーやアルゴリズムの出力であり、必ずしも各成分に医学的な意味づけが与えられているわけではない。むしろ各クラスターに特徴的な特徴量を見いだし、その意味を解釈するような形になる。また、パッチやスポットのサイズについても違いがあり、遺伝子発現解析では細胞レベル、さらにsubcellularレベルと解像度が細かくなっていくのに対し、組織画像解析では細胞が構築するパターンの理解のため、比較的大きめのパッチサイズを扱うことが多い。サンプル×特徴量の行列を得るために、遺伝子発現解析では測定機器による出力とクオリティコントロールが重要であるのに対し、組織画像解析ではこの特徴抽出器のアルゴリズム面が研究テーマとなる点も異なっている。

以上のような前提知識に基づき、ここからは個別の手法について説明を行う。

遺伝子発現解析:グラフクラスタリングとmodularity

本セクションでは、まず遺伝子発現解析で頻繁に利用されるグラフクラスタリングを取り上げる。高次元空間内の点群として得られる遺伝子発現データは、主成分分析などを用いて低次元化したのち、ユークリッド距離におけるk近傍グラフなどを用いてグラフ化される。これにより、点群のローカルなつながり方の情報を、グローバルな位置関係に影響されにくい形でグラフに要約することができる。グラフのクラスタリングは関連の強い集団・コミュニティを分離・同定して解析する基本的なプロセスで、遺伝子発現解析ではLouvainアルゴリズム[8]やLeidenアルゴリズム[9]といった手法が用いられることが多い。これらのアルゴリズムはともにmodularityという指標を最大化することを目的としている。単純グラフGとそのノードのクラスタリングのクラスターラベルの集合C={1,…,N}(Nはクラスター数)に対してmodularityは以下の式で定められる。

  
c C ( e c m ( K c 2 m ) 2 )

ここで、ecはクラスターc内部のエッジの数、Kcはクラスターcに含まれるノードの次数の和、mはグラフの全エッジ数を表している。modularityの値を理解するには、とりうる値の範囲を知ることが必要である。modularityは-1/2から1の値をとる[10]ことが知られている。

Modularityの上限が1になることは、

  
c C ( e c m ( K c 2 m ) 2 ) c C e c m m m = 1

からすぐに従う。下限については付録Aを参照されたい。付録Aから、modularityの最小値は二部グラフに対して、各クラスターが内部にエッジを含まないように2つに分割したときに実現できることがわかる。これはいわゆるエッジベースのコミュニティクラスタリングの真逆の状態であり、この場合に指標が最小になることは納得しやすい。

実際にいくつかのグラフクラスタリングの例で確認する。図1の1つ目は上述のように二部グラフに対してクラスターが内部にエッジを含まない分割をした場合であり、modularityは-1/2となる。2つ目の分割では上のクラスター内のエッジは5本、ノードの次数の和は12で、下のクラスター内のエッジは4本、ノードの次数の和は10であるので、modularityは38/121となる。この時、上のクラスター内を見ると、上部4つのノードと下部2つのノードはつながっていない。これを分断すると3つ目のクラスタリングとなり、modularityは増加する。一般にクラスター内のノードのなすsubgraphが連結でない場合、分断することでmodularityが増加することが簡単に示せる。さらに4つ目は上のクラスター内のエッジが4本、ノードの次数の和が8で、下のクラスター内のエッジが7本、ノードの次数の和が14となっており、modularityは56/121となる。エッジが密な部分をコミュニティとして検出することで、modularityが高くなるという傾向が分かりやすい。

図1:具体的なmodularityの計算例

最も左は二部グラフをクラスター内にエッジを含まないように分割した状態で、modularityは最小値-1/2をとる。2つ目の上のクラスター内のノードのなすsubgraphは連結になっていない。このとき、クラスターを3つ目のように分割すると、modularityは上昇する。4つ目の分割はエッジが密な部分でクラスターを作っており、これら4つの例の中でmodularityが最大になっている。Modularityが関連の強い集団・コミュニティを分離・同定して解析するという目的に適っていることが示唆される。

組織画像解析1:トポロジカルデータ解析

データの幾何学的構造を定量化するにはトポロジカルデータ解析が有効である。近年のバイオインフォマティクス領域での応用は、細胞画像をはじめとする顕微鏡画像、CT画像や空間トランスクリプトームなど多岐にわたる[11, 12, 13, 14, 15, 16]。トポロジカルデータ解析の主なツールの一つであるパーシステントホモロジー[17, 18]は特定の閾値を定めることなく、あらゆるスケールでデータに現れる幾何的特徴の変化を定量化できる手法である。特に通常のパーシステントホモロジーの場合、異なるスケールの情報を一意に追跡して要約することができるため、画像の特徴抽出手法として用いられている。ここでは簡単に概要を説明するが、数学的な背景については付録Bを参照されたい。

データから図形を取得する際に、1種類の閾値を用いて図形を徐々に変化させていくと、フィルトレーションと呼ばれる図形の増大列が得られる(図2)。例えば、グレイスケール画像において、2値化の閾値を変化させることや、点群に対して各点から徐々に半径の増大する円盤を広げること、単体複体の辺や面を決まった閾値で追加していくことなどはフィルトレーションの例である。フィルトレーションに現れる各図形の連結成分やループといった位相的な特徴は、包含関係をたどることでトラックして関連付けることができる(区間分解定理;[19]など)。このトラック結果の表示方法としては、各位相的特徴が現れた点(生成;birth)から消えた点(消滅;death)までを線分であらわすバーコード[20]や、各区間の左端(生成点)と右端(消滅点)の値をxy座標にプロットしたパーシステンスダイアグラム[18]などがある。生成点から消滅点までの長さをパーシステンスとよび、各構造がどれくらいの期間存在しているかを表す指標となる。

図2:様々なフィルトレーションの例

各段の左端のデータを入力としてフィルトレーション(図形の増大列)を構成している。上段はグレイスケール画像に対し、2値化の閾値を変化させて得られるフィルトレーションで、閾値以上の部分が青く表示されている。中段は点群データに対し、各点に張り付ける円盤の半径を徐々に大きくすることで得られるフィルトレーションで、ループ構造が生成、消滅していく様子が見られる。下段は単体複体の頂点、辺、面に与えられた値に応じて作られるフィルトレーションである。これを用いて次図でパーシステントホモロジーの概要を説明する。

図3は簡単な単体複体のフィルトレーションとそのバーコード表示の例である。このフィルトレーションは4ステップになっている。ここでは1次のループ構造に注目する。1ステップ目から存在している左側のループ構造は、2ステップ目でも存在しており、3ステップ目で消滅する。一方、2ステップ目で新たに生成した右側のループ構造は3ステップ目でも存在しており、4ステップ目で消滅する。これを[1, 3)と[2, 4)の2本のバーで表示したバーコード表示が得られている。

図3:パーシステントホモロジーの概要

フィルトレーションと呼ばれる図形の増大列(上段)に現れるトポロジカルな情報の生成と消滅はバーコード(中段)やパーシステンスダイアグラム(下段左)としてまとめられる。さらにこの結果をベクトル化することで、その後の統計や機械学習等の解析にも利用可能となる。この例では単体複体のフィルトレーションを扱っている。第1ステップに存在する左側のループ構造は第3ステップで消滅(紫色)し、第2ステップで生成する右側のループ構造は第4ステップで消滅(青色)する。これらを線分の集まりとしてまとめると中段のバーコードが得られる。さらに線分の両端をxy平面にプロットすることでパーシステンスダイアグラムが得られる。図の色はそれぞれ対応している。パーシステンスダイアグラムはパーシステンスイメージやパーシステンスランドスケープなどを用いてベクトル化され、その後の解析に活用できる。

パーシステンスダイアグラムには、入力の変化に対する安定性[21]も示されており、また、ダイアグラム内の各生成・消滅ペアが元の図形のどこに起因するかを解析する逆解析と呼ばれる手法も開発が進んでいる[22]。

パーシステンスダイアグラムはそのままではデータの特徴量ベクトルとして用いるのに不便であるため、ベクトル化の手法が複数提唱されている。代表的なものにはパーシステンスランドスケープ[23]やパーシステンスイメージ[24]などがあり、例えば後者はパーシステンスダイアグラムの点を、重みをつけたガウス分布でぼかし、グリッドに区切ってベクトル化するというアイデアに基づく。これらのベクトル化を用いることで、パーシステントホモロジーの出力を以降の統計や機械学習等の解析フローに自然に組み込むことが可能になる。

組織画像解析においては、各パッチに対してフィルトレーションを構成し、得られたパーシステンスダイアグラムをベクトル化することで特徴量ベクトルとして利用できる。実際の応用例を紹介する。[25]では細胞核の中心座標を点群とみなし、距離行列に基づいたフィルトレーション(Rips フィルトレーション)を構成してパーシステントホモロジーを計算している。この結果をパーシステンスイメージおよびパーシステンスランドスケープを用いてベクトル化し、大腸の腺管構造が正常か腫瘍性かの分類に応用している。この研究が細胞の位置情報に基づいて特徴抽出を行っているのに対し、[26]ではH&E(ヘマトキシリン・エオジン)画像からヘマトキシリンカラーチャネルを取り出したグレイスケール画像の2値化の閾値を変化させるフィルトレーションでパーシステントホモロジーを計算している。ここではパーシステンスを降順に並べることでパーシステンスダイアグラムをベクトルに変換している。この特徴量ベクトルが前立腺癌のGleasonスコアやそのサブクラスをよく反映していることが確認され、パーシステントホモロジーによる定量化の妥当性・有用性が示されている。これらの研究で見られるように、画像の性質や抽出したいパターンに基づき、適切にフィルトレーションと結果のベクトル化を選択・構成することで目的に応じた手法開発が可能となる。

組織画像解析に限らないパーシステントホモロジーの様々な応用例の概説については[27]を参照されたい。

組織画像解析2:機械学習による色々な特徴抽出

前節では画像特徴抽出手法の例としてトポロジカルデータ解析を説明したが、機械学習に基づく手法も広く用いられている。病理組織画像に対する特徴抽出器としての機械学習モデルの研究は[28]などに始まり注目を集めている。用いられるモデルもCNNベース[28]から近年ではtransformerベース[29, 30]など、新規手法が盛んに取り入れられる傾向がある。UNI[30]は画像データで訓練されたvision modelである一方、CONCH[29]は画像とテキストのペアで作成されたvision language modelであるなど、それぞれに固有の特徴がある。特に大量の病理データで学習され、様々なタスクに応用可能性のあるものを病理基盤モデルと呼んでいる。

機械学習に基づいて病理画像を扱う上での課題は[7]に詳しい。特に、病理画像は検体の採取から固定・包埋・薄切・染色・スキャンと多段階のステップを踏んで取得されるため、異なる施設間での設備の違いや、同一施設内でも患者ごとの検体採取から固定までの時間などの違いにより画像の特徴が変化する。結果として、同一施設や同一患者由来の画像は他と比べて類似した特徴を持ちやすく、これらの影響を小さくすることが必要である。一方で、同一患者由来の画像は実際に病理学的に意味のある類似性を持っていることも多く、意義のある類似性とそうでない類似性の区別も課題となる。例えばCONCHにおいて、画像とその画像の説明文をペアにして学習することには、施設などの情報の寄与を減らし、より病理組織学的に意味のある成分が重視される効果が期待されている。

病理基盤モデルが活用されている例をいくつか紹介する。[31]では病理基盤モデルが大腸癌H&E染色標本からのmicrosatellite instability(MSI)の判定に活用できることが報告されている。複数の病理基盤モデルのパフォーマンスも比較されている。[32]では病理基盤モデルを前立腺癌のグレーディングに用いて、ベースラインのRESNET-INと比較して性能の改善を報告している。この研究では上述した画像特徴のデータセット間でのシフトによる影響も記載されている。[33]では基盤モデルに基づき、組織画像から子宮体癌の分子サブタイプを予測するモデルを作成し、効率的な診断・治療に貢献している。[34]ではパッチ画像とグラフで表示された細胞の位置関係の二つの情報を用いてリンパ腫のサブタイピングを実施しているが、この時の画像特徴抽出に基盤モデルが使われている。[35]では大腸癌H&E画像のCD8+Tcell population内でのクラスター構造を把握するのに、基盤モデルによるパッチ画像からの特徴抽出が行われている。[36]では病理基盤モデルによるH&E画像特徴量ベクトルを神経芽腫の分類や分子学的特徴づけに活用している。[37]では早期肺腺癌の無増悪生存期間の予測のために、病理スライド画像をパッチ分割し、各パッチをノードとして近傍グラフを作成している。このグラフの各ノードに与える特徴量ベクトルとして病理基盤モデルの出力とsinusoidal positional encodingが併用されている。[38]では病理基盤モデルによる特徴抽出をベースとした病理スライド画像検索の検証を行っている。病理基盤モデルはベースラインに比べると良いパフォーマンスを示しているが、どのモデルも十分に高い精度は出せておらず、改善の余地がある。[39]では16の癌種の病理スライド画像から遺伝子発現レベルを予測するモデルを作成している。パッチ画像の特徴抽出に病理基盤モデルを用いると、ベースラインのResNetを用いるのに比べて予測性能が向上したことを報告している。[40]には本稿で紹介していない様々な病理基盤モデルの紹介があり、参考になる。また、特にvision modelに注目して、疾患検出やバイオマーカー予測タスクを様々な臓器に対して実施しており、モデルパフォーマンスを概観するのに適している。[41]ではvision modelに限らず様々な病理基盤モデルを用いたバイオマーカー予測・形態学的分類などに関するベンチマーキングが行われている。ここではvision language modelであるCONCHのパフォーマンスが高かったことが報告されているが、病理基盤モデルは急速にアップデートされているので、SOTAモデル性能の把握のためには最新版を用いた継続的なベンチマーキングが必要である。

マルチモーダル解析

色々な手法や異なるモダリティの解析の組み合わせることで、それぞれの解析を補い合い、出力を安定化させることができる。複数の手法の出力の平均をとるなどの単純なモデルアンサンブルは使いやすい。また、複数モデルの結果を統合するために別のモデルに通すモデルスタッキングもよく用いられる。複数の手法を組み合わせる目的は上記だけではない。例えば、異なるモダリティを組み合わせる際の相互関係を理解することも興味深い課題である。[3]では、組織画像(h)と遺伝子発現(g)それぞれの情報から得られた行列 Z h C h × d および Z g C g × d をtransformerに Q = ( Q g T , Q h T ) T = ( Z g T , Z h T ) T W Q ( C g + C h ) × d (ここで W Q d × d であり、K,Vも同様に定める)として入れて、attention

  
Q K T = ( Q g K g T Q g K h T Q h K g T Q h K h T )

を見ることで、モダリティ内(1,1および2,2ブロック成分)、およびモダリティ間(1,2および2,1ブロック成分)の関連性を考察している。組織画像と遺伝子発現の文脈では、その組織に特徴的なpathwayの同定などは解釈性が高い。

最近では組織画像、遺伝子発現情報に加え、病理レポート情報を加えるなど[42]、モダリティを追加して予後予測性能上昇を目指す研究も増えてきている。このようなマルチモーダルAI[43]の重要性は、実臨床において複数の情報を統合して治療方針検討や予後予測を行うことからも容易に理解でき、今後の更なる性能改善が期待される。一方で、同じ機械学習フレームワークに情報を追加することで性能が改善することを観測するだけでなく、モダリティをどれだけ組み合わせると情報が飽和してくるのか、それは情報の組み合わせ方によってどれだけ変化するものかなど、理論的な検討も重要な段階にきていると考えられる。また、AI関連分野では既存の手法をベースに変更を加え、性能改善を報告することも多いが、手法の組み合わせの観点からは、仕組みの異なる手法を組み合わせることで互いを補い合うことができるため、一つの課題に対して、様々な観点からの手法のアイデアを提唱する研究も活発に行う必要がある。

まとめ

本稿では、遺伝子発現解析と組織画像解析を例として、腫瘍領域のデータ解析手法の紹介を行った。特にグラフクラスタリングと画像特徴抽出を取り上げて説明した。具体的にはグラフクラスタリングアルゴリズムの最適化対象として重要なmodularityに関する議論、およびパターン定量化の有用なツールであるトポロジカルデータ解析や病理基盤モデルについて説明を行なった。さらに異なるモダリティや手法を組み合わせる手法についても議論した。

組織画像の特徴抽出においては、パッチ画像ベースのみならずスライドの特徴抽出を行うモデル開発なども行われており[44]、本稿で取り上げたテーマ以外にも様々な開発の方向性がみられて興味深い。本稿で取り上げた内容が新たな手法開発の着想を得る一助となれば幸いである。

付録A Modularityの下限が-1/2であることの証明

Modularityの下限が-1/2であることは、以下のように示せる。まず、クラスター数が1の場合、modularityは m m ( 2 m 2 m ) 2 = 0 となる。次に、クラスター数が2以上の場合を考える。クラスター内部(クラスター1とする)のノード間にエッジがある場合、このエッジを除き、代わりにクラスター間(クラスター1と2)にエッジを追加する操作でのmodularityの変化を調べる。この操作で影響を受けるのはクラスター1と2に関わる項のみで、操作前が

  
e 1 m ( K 1 2 m ) 2 + e 2 m ( K 2 2 m ) 2

操作後が

  
e 1 1 m ( K 1 1 2 m ) 2 + e 2 m ( K 2 + 1 2 m ) 2

となる。この差は

  
1 m + 2 K 1 1 4 m 2 2 K 2 + 1 4 m 2 = K 1 K 2 1 2 m 2 m 2

である。K1, K2≥0かつK1+K2≤2mだから、|K1K2|≤2mであるので、 K 1 K 2 1 2 m 2 m 2 < 0 が分かる。よって、クラスター内にエッジがあるときは、クラスター間にエッジを付け替えることでmodularityが減少することが分かった。そこで、modularityの下限を考えるときは、クラスター内にエッジがない場合のみを考えればよい。クラスターを1,2,…,nとして、K1,…,Knの最小値をK1とする。n=2の場合は、K1=K2=mであるので、modularityは

  
( m 2 m ) 2 ( m 2 m ) 2 = 1 2

となる。n>2の場合、クラスター1-2間のエッジ(l本あるとする)を2-3間に付け替える操作(n>2なので1, 2以外のクラスターがとれることに注意)でのmodularityの変化を考える。影響を受けるのはクラスター1, 3の項のみで(2のノードの次数の和は変化しない)、操作前は

  
( K 1 2 m ) 2 ( K 3 2 m ) 2

操作後は

  
( K 1 l 2 m ) 2 ( K 3 + l 2 m ) 2

である。変化は

  
2 K 1 l l 2 4 m 2 2 K 3 l + l 2 4 m 2 = l ( K 1 K 3 ) l 2 2 m 2 0

ここで、最後の不等号にはK1K3であることを用いている。

この操作をクラスター1と他のクラスター間のエッジすべてに順に適用する。K1はこの操作の過程で増加することはなく、他のKii≠1)は減少することがないので、K1の最小性の仮定は操作の過程で常に保たれており、modularityが増加することなく、クラスター1と他のクラスターの間にエッジのないグラフが作成できる。残ったクラスターが3つ以上ある限り、同様の操作を繰り返すことで、2つのクラスター間のみにエッジがあり、その他にはエッジのないグラフが得られる。この時のmodularityは必ず元のグラフとクラスターに対するmodularity以下である。ゆえに、クラスター数が3つ以上の場合には、その内2つのクラスター間にのみエッジがあり、そのほかにはエッジのない場合のみを考えればよい。この状況でのmodularityは常に-1/2である。

以上より、modularityの下限は-1/2であることが示された。

付録B Persistent homologyの数学的背景

フィルトレーションX1X2⊂⋯⊂Xnが与えられたとき、各Xiに対して体 𝕂 を係数とするq次のホモロジー群を考えると、線形空間の族{HqXi)}i=1,2,…,nが得られる。ここで包含関係XiXjij)からホモロジー群の間の線形写像fij:HqXi)→HqXj)が誘導され、これらの線形写像は任意のijkに対してfik=fjkfij、および任意のiに対してfii=idを満たしている。一般に線形空間の族W={Wi}i=1,2…,nと線形空間の間の写像gij:WiWjij)の組で、任意のijkに対してgik=gjkgij、および任意のiに対してgii=idを満たしているものをパーシステンス加群と呼ぶ。先ほど出てきた{HqXi)}i=1,2…,nijに対して定まるfijたちの組はパーシステンス加群になっている。

区間Iが与えられた時、これに対応するインタバル加群 𝕂 Iとは、パーシステンス加群の特殊な場合で、iIに対しては ( 𝕂 I ) i = 𝕂 、それ以外では ( 𝕂 I ) i = 0 、線形写像はI内で恒等写像、それ以外で零写像になっているもののことである。区間分解定理は、パーシステンス加群がインタバル加群を用いて一意に分解できることを主張する。バーコードはこの分解の結果をインタバル加群に対応する各区間を表す線分で可視化したものである。各区間の左端と右端(生成点・消滅点と呼ぶ)の値をxy座標にプロットしたものをパーシステンスダイアグラムとよぶ。

References
著者略歴

織田 遥向
2025年、東京大学医学部医学科卒業、同年より東京大学大学院医学系研究科に進学(衛生学分野)。医学・生命科学データ解析への数理科学的アプローチに関する研究に従事。これまでの研究はトポロジカルデータ解析を活用したものが多い。融合研究推進を目指す国際ワークショップIMAB(International Workshop on Mathematics and AI for Biomedicine)を主催。
IMAB2026:https://topologicalbird.github.io/IMAB2026/
ホームページ:https://topologicalbird.github.io/Homepage/

 
© 2026 日本バイオインフォマティクス学会

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