βラクタム系抗菌薬(βラクタム薬)は抗菌薬のなかでもよく用いられ,適切な投与が重症患者の転帰に重要な影響を与える。重症病態においてその薬物動態は健常人とは大きく異なり,病態の経時変化に伴う分布容積,タンパク結合率の変動や,個体差も大きい。とくにβラクタム薬について,臨床では腎代替療法(renal replacement therapy:RRT)設定に応じて投与量調整が行われるが,背景にある薬物動態変化の影響もあり,血中濃度のばらつきが大きいことが知られている。このことから,RRT設定からおおよそのクリアランスを推定しても,適切な血中濃度範囲から逸脱する患者を特定することは難しいと考えられる。一方,βラクタム薬は安全性が高く,その毒性を考慮した上でトラフ濃度が最小発育阻止濃度の6〜10倍を超える場合に減量が推奨される。とくに薬物動態が不安定で,患者の転帰に大きな影響を与える重症病態の初期においては,十分な血中濃度を確保するための投与設計が望まれる。