2010 年 21 巻 2 号 p. 133-136
はじめに,従来の精神疾患とは異なる広汎性発達障害のユニークな臨床特性について,対人相互的反応の障害,強迫的傾向,およびパニックへの陥りやすさに焦点を当てて要約し,下位診断および併存障害の問題について整理した。続いて,現在の責任能力についての一般的考え方と,責任能力の判断に影響を及ぼすと考えられてきた精神医学的要因について振返り,それらの要因に広汎性発達障害の基本障害が含まれていないことを確認した。次に,広汎性発達障害の司法事例にみられた特異な特徴の幾つかが,自由意思を阻害すると判断される従来の精神医学的要因に当てはまらないものの,実際には自由意思の指標とされる他行為選択性を制約していると判断する方が妥当であると思われることを論じた。最後に,責任能力上の特徴と,広汎性発達障害について現在までに知られた神経基盤との関連について推測した。