日本生物学的精神医学会誌
Online ISSN : 2186-6465
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児童思春期うつ病における多価不飽和脂肪酸とBDNF の役割について
古郡 規雄土嶺 章子
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2015 年 26 巻 4 号 p. 205-211

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抄録

大人や老年期のうつ病患者では,血清中の多価不飽和脂肪酸(PUFAs)や葉酸などの栄養指標や脳由来神経栄養因子(BDNF)の濃度が低いという報告がある。しかし,子どものうつ病ではこれらの指標についてはエビデンスが乏しい。本研究では,子どものうつ病患者における血清中の不飽和脂肪酸と葉酸に加え,BDNF の濃度を測定し健常群と比較検討した。対象は弘前大学医学部附属病院精神科を受診し,うつ病と診断された女児(n = 24,11 ~ 19 歳)と年齢・性別をマッチさせたコントロール群(n = 26)であった。うつ評価尺度にはベックうつ病尺度Ⅱ(Beck Depression Inventory- II:BDI- II)と自己記入式抑うつ尺度(Depression Self Rating Scale for Children:DSRSC)を用いた。血清中の PUFAs,葉酸,BDNF 濃度はそれぞれ ELISA 法,ガスクロマトグラフィー,CLEIA 法により測定した。なお,本研究は弘前大学医学部倫理委員会の承認後試行され,保護者から書面で同意を得ている。多価不飽和脂肪酸に関して,子どものうつ病ではアラキドン酸,ドコサヘキサエン酸(DHA)および葉酸濃度が有意に低値を示した。他の多価不飽和脂肪酸濃度に差はなかった。BDNF 濃度は健常児に比較し差はなかった。これまでの研究同様,子どものうつ病においても健常者と比較して多価不飽和脂肪酸と葉酸の値は低下していた。しかし,子どものうつ病では大人でみられていたようなBDNF の低下は認めなかった。血清中 BDNF 濃度の低下はうつ病のバイオマーカーとして考えられてきた。しかし,子どものうつ病においては栄養指標の低下は認められたものの,BDNF 濃度は健常者と変わらなかったことから,大人と子どものうつ病では病態が異なる可能性が考えられた。

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© 2015 日本生物学的精神医学会
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