抄録
発生期において幹細胞から新生した幼若な神経細胞は,生まれた場所から目的地へと移動する。こうした神経細胞の移動は脳構造の構築や神経回路の形成に不可欠であり,その破綻が精神疾患の発症へと結びつくことが示唆されている。移動中の神経細胞は複雑な細胞外環境に適応しながら,適切な移動経路や移動様式を選択する。こうした細胞外環境への適応は各種の細胞内シグナリング経路が協調的に働くことで成立し,特にCa2+シグナリングが重要な役割を果たすと考えられる。本稿では神経細胞移動を制御するCa2+シグナリングの詳細とともに,近年のゲノム研究により明らかとなった精神疾患と関連するCa2+シグナリング破綻について紹介する。