抄録
ヒトゲノムプロジェクトを契機とした技術革新で,腸内細菌叢解析に細菌培養が不要となり,ヒトは1014個もの腸内細菌と共生していることが明らかになった。これらは多種多様な生体機能を調節し,精神神経系疾患を含む全身疾患の病態と深く関わっている。
腸内細菌叢の恒常性を回復するための治療戦略として最も一般的なプロバイオティクスは,投与菌量・種類が腸内細菌叢全体に比べて少なすぎるため,十分な有効性を発揮していない。この問題を解決するために糞便微生物移植法(FMT)が開発され,再発性クロストリジウム・ディフィシル感染症に対する臨床試験では,抗菌治療と比較してFMT治療群が圧倒的な治療効果を示した。機能性胃腸障害や自閉症などにおいても,FMTが患者の腸内細菌叢の恒常性回復に大きく寄与していることが明らかになりつつある。
現在は,FMTの適応疾患や投与プロトコールの検討が進められており,未知の感染症の伝播,患者侵襲などの課題の解決が目指されている。