抄録
妄想は認知症の代表的な精神症状の一つであり,介護者にとって最も負担になる症状と報告されている。認知症者の妄想の発現には,生物学的要因,環境要因,心理社会学的要因などさまざまな因子が関与している。その一例として,認知症疾患によって妄想の有症率が異なることがあげられる。レビー小体型認知症(DLB)では高頻度に妄想が認められる一方で,前頭側頭葉変性症(FTLD)では妄想の有症率は極めて低い。この知見は,DLBには妄想を引き起こしやすい神経基盤が存在し,一方FTLDでは妄想の発現に保護的に働く神経基盤が存在する可能性を示している。認知症者の妄想研究により,妄想の病態や発現機序が明らかになれば,認知症者の妄想の治療方法の開発が促進されるだけではなく,その知見を統合失調症などの機能性疾患に応用することにより,さまざまな精神疾患の病態解明につながる可能性がある。