抄録
現在であれば前頭側頭葉変性症または前頭側頭型認知症と診断されるであろう症例において,神経細胞内に特徴的な形態の構造物が存在するとの報告は20世紀の初頭まで遡ることができる。しかしその構造物と臨床表現型との間に直接的な関連性が見いだせず,病理所見の意義づけが困難な時代が長く続いた。近年,前頭側頭葉変性症の疾患概念の整理が進むのに並行して分子遺伝学および生化学的手法が著しく進歩してきた。その結果,前頭側頭葉変性症の原因遺伝子や脳内蓄積タンパクが相次いで明らかとなり,臨床表現型と神経変性病態との関係性が徐々に整理されてきた。本稿では前頭側頭葉変性症の分子基盤を原因遺伝子や蓄積タンパクの観点から概説し,C9orf72リピート異常延長に関連したFTLDの病態における筆者らの研究成果についても触れる。