ストレス社会ともいわれる現代社会において,過剰なストレスからうつ状態やうつ病を呈する者は多い。ストレスやうつ病に関連して生じる生物学的異常には種々のものが報告されており,とりわけストレス応答に重要な役割を担う生体システムである視床下部‐下垂体‐副腎(HPA)系および免疫炎症系の異常が鍵を握ると考えられている。しかし,うつ病におけるHPA系や炎症系の知見には不一致が存在し,病因・病態の解明には至っていない。 筆者らは,うつ病におけるストレスの関与を明らかにすることを目的として,HPA系と炎症系を標的とした検討,および末梢血RNAを用いたデータ駆動型のトランスクリプトーム解析を行ってきた。とりわけ幼少期逆境体験やパーソナリティ特性,概日リズムに着目した検討を行った。その結果,人生早期に始まる強度のストレスや長期・反復性のストレスによって心理的・身体的なストレス脆弱性が形成されることが,うつ病発症に至る重要な経路の一つである可能性が示唆された。