精神疾患関連分子Piccoloは,覚醒剤を連日投与したマウスの側坐核を用いて,cDNAサブトラクション法で発現量が著しく増加している分子の1つとして,筆者が所属するグループで研究を開始したものである。本分子をコードしている遺伝子であるPCLOの変異は,ドパミンやセロトニンの取り込みを制御することから,Piccoloが精神疾患と関係していると考え,前頭前皮質のPiccoloの生理機能を明らかにするために,実験を重ねたところ,同マウスが統合失調症のモデルマウスとして活用できる可能性を示した。名古屋大学大学院医学系研究科・精神医学講座のグループが集積してきている死後脳を用いて,統合失調症患者脳Piccoloの発現量変化についての測定をした。しかしながら,モデルマウスから得られた結果とは矛盾するものであった。向精神薬を投与されたマウスや培養細胞では,Piccoloの発現量が増加していたことからも,死後脳が病態だけでなく,患者の生前の治療の過程をも反映していることがわかった。本稿では,Piccoloの発現量を制御することによる精神疾患モデルと患者死後脳の関係について紹介を行う。