抄録
計測技術の限界は,生命科学や医学が抱える重要な課題と密接に関連している。特に,生命計測分野では,計測対象が細胞や細胞小器官,分子といった非常に小さなスケールであること(「微小性」),また関連する分子の濃度がきわめて低いこと(「微量性」)が,生命現象の厳密な計測を困難にしている。これらの問題に対処するため,ダイヤモンド中の窒素‐空孔中心(NVセンター)を活用した生体ナノ量子センサー技術が注目されている。この技術は,量子効果を利用して,ナノスケールのプローブで物理的・化学的変化を高感度に計測する。これにより,従来の技術では捉えることが困難だったサブ細胞レベルの生命現象の詳細な定量や,疾患の早期段階での微量バイオマーカーの検出が可能となり始めている。本稿では,生体ナノ量子センサーが生命科学および医学研究における計測手法としてどのように革新的な進展をもたらしているかを紹介する。