抄録
遺言能力評価の基礎資料とするため、遺言能力が問題となった判例について医学的観点から検討した。2016年に一審判決が出た遺言無効確認請求訴訟のうち遺言能力の有無が争点となっているものは25件あり、うち無効の判決がでたものは公正証書遺言17件中5件、自筆証書遺言8件中2件であった。認知機能低下の記載があるものが22件あり、うち認知症の病名がついている事例が10件あった。精神症状を伴っている事例は13件あった。改訂長谷川式簡易知能スケールなどの認知機能検査の結果や診療録、その他資料から推定されるADL、うつやせん妄の有無、遺言作成時の様子、画像検査結果などが資料として検討されていた。遺言内容の複雑さ、及び遺言時の相続人との関係性などからみた遺言の合理性も併せて考慮されていた。遺言を残す人は今後ますます増加することが見込まれており、紛争を避け高齢者が自分の意向に沿った遺言を作成することができるようにするために、今後一層の老年精神医学や老年心理学、リハビリテーション、介護の専門家と法律家との連携が求められる。