2021 年 77 巻 1 号 p. 1-16
本研究は,住民が暮らす日常生活圏内の「大切な場所」に着目し,場所に対する価値づけのあり方を明らかにするものである.具体的には,奈良市内8地区を対象にアンケート調査を実施し,その考察にあたり経営分野で用いられる戦略的経験価値モジュールを援用して,場所経験価値を5つに類型化した上で,その具体的内容と全体像を明らかにした.すなわち,場所経験価値として,1)感覚に関わる景観の美しさや自然の豊かさ,2)感情に関わる安らぎや誇らしさなど,3)解釈に関わるなじみや想起される姿,4)紐帯に関わる共同体や先人とのつながり,5)規範に関わる信仰,歴史・伝統などがあり,各特徴や想起の程度,場所との関わりを明らかにした.これにより,地域資源としての場所の価値を住民の経験に基づいて評価する新たな手法の有効性を示した.