土木学会論文集D1(景観・デザイン)
Online ISSN : 2185-6524
ISSN-L : 2185-6524
77 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
和文論文
  • 湯川 竜馬, 山口 敬太, 久保田 善明, 川崎 雅史
    2021 年 77 巻 1 号 p. 1-16
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

     本研究は,住民が暮らす日常生活圏内の「大切な場所」に着目し,場所に対する価値づけのあり方を明らかにするものである.具体的には,奈良市内8地区を対象にアンケート調査を実施し,その考察にあたり経営分野で用いられる戦略的経験価値モジュールを援用して,場所経験価値を5つに類型化した上で,その具体的内容と全体像を明らかにした.すなわち,場所経験価値として,1)感覚に関わる景観の美しさや自然の豊かさ,2)感情に関わる安らぎや誇らしさなど,3)解釈に関わるなじみや想起される姿,4)紐帯に関わる共同体や先人とのつながり,5)規範に関わる信仰,歴史・伝統などがあり,各特徴や想起の程度,場所との関わりを明らかにした.これにより,地域資源としての場所の価値を住民の経験に基づいて評価する新たな手法の有効性を示した.

  • 渡辺 万紀子, 天野 光一, 西山 孝樹
    2021 年 77 巻 1 号 p. 17-32
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

     街路空間を沿道建築物からの観点で見ると,内部空間と外部空間が存在する.この境界である建築壁面線は,曖昧な境界を構成し中間領域を形成している.この中間領域は,内部空間が外部空間に貫入した「浸み出し」と,外部空間が内部空間に貫入した「入り込み」から構成される.本研究では,「浸み出し」の中間領域を構成する要因を検討し,中間領域の類型化を行った.その結果得られた7類型は直観情報の活動支援装置,活動,商品と,内部情報によりその性格を説明することができた.また,その類型は商品展開型,活動展開型,商品活動展開型,内部情報型,情報不特定型,活動支援装置商品展開型,活動支援装置展開型となることがわかった.

  • 大和田 勝文, 齋藤 潮
    2021 年 77 巻 1 号 p. 33-49
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

     多磨墓地は,当時東京市公園課長であった井下清により計画・設計され,日本初の公園墓地として1923年に開設された.当墓地は,墓地設計における造園技術導入,都市計画事業としての墓地建設という観点で,日本の墓地の近代化に大きな影響を与えるものであった.本研究は設計及び整備過程の実態を明らかにすることを目的とし,建設当時の公文書を中心とする一次史料の分析を行った.結果,多磨墓地は1923年の一部供用開始以降,約20年間に渡る段階的な整備がなされ,その間,全体設計案が少なくとも4回変更されたことを明らかにした.その中で,グリッドによる区画分けは初期案から変更されていない.設計変更で操作する要素と維持する要素を明確に切り分けることで,部分供用下における一連の設計変更が可能となり,設計の柔軟性が担保された.

  • 田島 洋輔, 岡田 智秀, 水石 知佳
    2021 年 77 巻 1 号 p. 50-65
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/20
    ジャーナル フリー

     東京港では,2013年の東京五輪開催決定を契機に,人員輸送と観光の両立が可能な水上交通に期待が高まっている.この水上交通は,海上を船で移動しながら港湾施設や都市が織りなす水辺特有の非日常的景観を享受できる等,他の交通機関にはない魅力を有している.しかし,こうした海上景観の昼夜間における魅力形成に資する景観的特徴とその成立要件は明らかにされていない.そこで本研究では,水上交通を活用した海上景観の魅力形成に資する景観的特徴を捉えるため,乗船者が好ましいとした海上景観要素とその評価理由からみた5つの海上景観特性について人間の視知覚特性である視距離と視野角を用いた定量分析を行うとともに,海上景観特性ごとの昼夜比較分析を通じてみた景観的特徴を明らかにした.

  • 二井 昭佳, 岡田 一天
    2021 年 77 巻 1 号 p. 66-80
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

     本稿は,治水安全度の向上と地域再生を同時に実現する,まちづくり治水計画の実装化に向け,可搬式堤防を活用した治水整備を実施したドイツ・ミルテンベルクを対象に,計画経緯や検討体制,整備内容を詳述し,その特徴を考察したものである.治水とかわまち空間を両立する整備を実現できた要因として,1) 市町村の主体的な関与システム,2) 実施体制と計画の目標設定,3) 合理性に基づく柔軟な堤防法線,4) 可搬式堤防を活かす「かわまち空間」デザインの4点を指摘し,とくに4)については,可動式堤防と合わせ,a) 風景の質を高める堤防デザイン,b) まちと川の一体感を高める境界デザイン,c) まちと連動した河岸の居場所デザインの重要性を指摘した.また,それぞれの項目について,日本の状況も踏まえ,日本での計画の実装化に向けた提案をおこなった.

  • 五三 裕太, 福島 秀哉
    2021 年 77 巻 1 号 p. 81-98
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/20
    ジャーナル フリー

     東日本大震災の復興で重視された地域特性の計画反映に対し,国の直轄調査や各市町村による住民意見の計画反映の取組みが与えた影響は十分に明らかではない.本研究は東日本大震災復興土地区画整理事業宮城県39地区を対象に,復興事業プロセスでの計画内容の変化を整理し,全体の傾向を示した上で,それと異なる特徴を持つ事例に着目し,地域特性を反映した計画内容の実現過程の特徴の分析をおこなった.その結果,都市計画決定または国・県管理の公共施設に関わる計画内容に関しては国の直轄調査による検討および住民参画の取組み等を通じた住民・行政間の継続的な協議の場が,市町村管理の公共施設に関わる計画内容に関しては住民参画の取組みによる継続的な議論が,地域特性を反映した計画内容の実現過程に重要な役割を果たしていたことを指摘した.

  • 林 倫子, 森 彩乃, 大窪 健之, 金 度源
    2021 年 77 巻 1 号 p. 99-109
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/20
    ジャーナル フリー

     水システムは地域の社会基盤として不可欠のものであり,その地域の生活や生業,そして景観を特徴づけるものである.本研究では,ヒアリング調査をもとに,現役の古式水道である交野市倉治の「取り水」の歴史と現在の利用実態を明らかにした.その際には,高島市勝野をはじめとする他地域の古式水道と比較しつつ,システムの特徴を地域横断的視点でも記述した.主な成果として,歴史に関しては,竹管や松材を利用した初期の取り水施設とその維持管理に関する地域知,施設と運営組織の近代化過程が確認された.現在の利用実態に関しては,住居内利用の場合,水質に対する意識に応じて利用用途に差が見られたこと,供給量の少なさと不安定さを克服するために貯水設備や上水道のバックアップ設備を住宅に備えていることが明らかとなった.

  • 鶴田 舞, 星野 裕司, 萱場 祐一
    2021 年 77 巻 1 号 p. 110-125
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/20
    ジャーナル フリー

     2018年までに発表された河川景観研究論文及び土木研究所等で実施された河川景観研究資料241編を調査し,研究の動向を社会的背景及び河川行政施策との関わりに着目して整理したレビュー論文である.

     日本の河川景観研究は,人の生活環境保全の観点から河川環境管理の重要性が認知された1970年代に,都市や人に望まれる河川像を考えることから始まり,河川環境の評価や目標設定手法の検討等に発展していった.河川景観は河相と人間活動の相互作用により形成され,時間的に変化するものと捉えられるようになり,治水対策と両立した定量的な目標設定の検討等が進められてきた.今後の研究の方向性として,人と川とのふれあいの場となる水辺空間整備等の施策を推進すべく,川毎に異なる河相や景観の変遷を踏まえたデザイン手法を確立すること等が求められる.

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