2021 年 77 巻 1 号 p. 33-49
多磨墓地は,当時東京市公園課長であった井下清により計画・設計され,日本初の公園墓地として1923年に開設された.当墓地は,墓地設計における造園技術導入,都市計画事業としての墓地建設という観点で,日本の墓地の近代化に大きな影響を与えるものであった.本研究は設計及び整備過程の実態を明らかにすることを目的とし,建設当時の公文書を中心とする一次史料の分析を行った.結果,多磨墓地は1923年の一部供用開始以降,約20年間に渡る段階的な整備がなされ,その間,全体設計案が少なくとも4回変更されたことを明らかにした.その中で,グリッドによる区画分けは初期案から変更されていない.設計変更で操作する要素と維持する要素を明確に切り分けることで,部分供用下における一連の設計変更が可能となり,設計の柔軟性が担保された.