2020 年 76 巻 2 号 p. I_193-I_204
金属材料に一定のひずみ振幅で繰返し負荷を行うと,載荷サイクルごとに硬化が進行し,やがて定常なヒステリシスループに近づく.Ohno(1982) はこの挙動を繰返し負荷における等方硬化の停滞によるものと考え,これを弾塑性構成則で再現することを目的として非硬化ひずみ領域を提案した.非硬化ひずみ領域の適用例は多数報告されているが,大きなひずみ増分による計算でも精度の低下を抑えることができる陰的アルゴリズムによる計算法は開発されていない.そこで本論文では,非硬化ひずみ領域を導入した弾塑性構成則の完全陰的応力計算法を提案する.さらに本論文では,繰返し塑性挙動を精緻に表現するため拡張下負荷面モデルを導入した弾塑性構成則を用いる.本論文で提案する完全陰的応力計算法では,従来の手続きに加えて,非硬化ひずみ領域による硬化・非硬化の判定と諸量の更新をリターンマッピングの内部で反復的に行うという新たな手続きを導入する.数値計算例により,非硬化ひずみ領域の導入によりヒステリシスループの安定化を適切に表現できることを確認した.また,解の収束性を確認し,提案した応力計算法の妥当性が示された.