抄録
費用便益分析は無駄な公共事業を行うといった政府の失敗を避けるために有効な手段と考えられている.しかし,費用便益分析の義務化等で,住民が費用便益分析に基づく公共投資政策を期待することになると動学的不整合問題が生じる可能性がある.すなわち,費用便益分析では住民の行動(顕示選好)に基づき効用変化を計測するため,費用便益分析に基づいて最適と判断される政策は住民の行動前後で異なる.そのため,住民が費用便益分析を戦略的に利用すると,いわゆる動学的不整合問題が起こる.本研究では交通政策を例にとり,費用便益分析の義務化がどのようにおよびどのような場合に最善の社会的厚生の達成を妨げるかを示す.