抄録
国民が政府を一切信頼していないのなら,国民は,政府の提案する全ての公共事業に疑いを持ち,政府を支援するための活動の一切を取りやめる.かくして,国民の信頼の不在は一切の政府機能と公共事業の停止をもたらす.この問題意識のもと,本研究は国民の信頼の問題を取り上げ,政府に対する国民の信頼の向上をもたらす方途を,信頼形成の心理プロセスモデルを提案しつつ,また,国土交通行政に関わる事例を中心的に想定しつつ検討した.その結果,「透明性の確保」と「痛みを伴う大義ある公共事業の推進」という2つの方途が国民信頼の向上に寄与することを実証データを交えつつ論証した.ただし,前者の方途には様々な問題,すなわち,実施コストの増大と信頼低下の「逆効果」があること,ならびに,それ故に後者の方法を進めることこそが必要とされていることを指摘した.