2016 年 72 巻 4 号 p. 304-323
高齢者による運転事故を予防するため,自動車運転免許の自主返納が推奨されている.免許返納によって高齢者は移動の不便を余儀なくされるが,その不便を引き受けて返納することが返納者にとってどのような意味を有するかを理解することは,返納者の支援策を検討する上での出発点である.本論文は,二名の免許返納者の人生史研究に基づき,返納者の人生史全体を参照しない限り返納者にとっての返納の意味が理解できないケースが存在することを例証した.さらに,これら二名にとっての返納の意味の共通部分を抽出することで【自分の信念を貫いて人生を完結するための決意表明】としての免許返納という概念が構築された.最後に,運転免許の返納を検討する高齢者の家族が,どのような姿勢で高齢者に接する必要があるか等の実践的含意について論じた.