抄録
震災が財務数値に及ぼした影響を把握することは,企業の被害シナリオの設定,経済被害の定量化に向けて有用であり,結果として企業の防災戦略の立案や,財務被害の低減に貢献する.しかし,これまで企業の財務データに焦点を当て,売上や利益の推移を分析した事例はない.そこで,本研究は上場している製造業を対象とし,東日本大震災が財務数値に及ぼした影響を分析した.この結果,1)特別損失は経常利益の10%前後であった企業が多いこと,2)リスクファイナンスを実施していなかった企業は借入金が10-20%程度増加したこと,3)経常利益は震災前と比べ30%程度減少したことを示した.また,BCPを策定していた企業は,売上の悪化が低減されたことを明らかにした.