土木学会論文集F6(安全問題)
Online ISSN : 2185-6621
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特集号(和文論文)
  • 中村 栄治, 小池 則満
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1-I_10
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/06
    ジャーナル フリー

     都市が巨大地震に襲われた場合,人々の安全確保を目的として,法律に基づき都市再生安全確保計画が都市ごとに立案されている.名古屋駅周辺地区の同計画で示されている徒歩帰宅者数の時間変化予測について,シミュレーションにより量的に評価した.徒歩帰宅経路上の人流密度と人流速さの分析から,余裕を持ち安全側に大きく振った予測であることが明らかになった.予測にそった徒歩帰宅者数の時間変化を維持できる限り,人流による交通障害や群衆事故が生起する確率は低いと言える.予測とは異なり,時間当たりの徒歩帰宅者数が予測の4倍になると,人流が交錯するクロスポイントでは滞留が短時間で急成長し,歩道通行が不可能になることがわかった.

  • 豊田 政史, 吉谷 純一, 江塚 悠吾, 倉田 侑征, 土屋 十圀
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_11-I_20
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/06
    ジャーナル フリー

     令和元年東日本台風(台風第19号)後に行った千曲川上流部被災地域(佐久市・佐久穂町)における避難行動に関する住民アンケート結果に基づいて,本災害における当該地域住民の避難行動に関する特徴をまとめ,それらが得られた要因を分析した.得られた結果は以下のとおりである.(1)年代別の避難率は50代で少し低いが,全体的にみると差はほとんどみられなかった.(2)80代以上の避難率が高く,その中で避難率が低くなるといわれている少人数世帯においては逆に避難率が高かった.当該地域での避難行動を促進する要因を分析したところ,ハザードマップの確認や避難訓練への参加などの「事前の防災活動」は無関係であるが,災害時の避難情報覚知や高齢者を中心とした早期の呼びかけなどの「災害時の避難行動」が重要であることが示唆された.

  • 井若 和久, 上月 康則, 小山 翔太郎, 天羽 誠二, 内野 輝明, 堀井 秀知, 吉野 哲一
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_21-I_31
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/06
    ジャーナル フリー

     地域の安全な津波避難路確保を目的に,南海トラフ巨大地震により最大震度7,最大津波高10mが想定されている徳島県南沿岸の2地区で,行政,地域住民,教育機関,専門家,非営利団体等が協働でブロック塀対策に取り組んだ.ブロック塀の点検調査と併せて,塀所有者に意識調査と啓発活動を行うことで,塀の撤去・改修に必要な課題把握に加え,2件のブロック塀の撤去・改修をすることができた.また,ブロック塀の倒壊を考慮した津波避難地図の作成と併せて,ブロック塀の撤去・改修に向けたケースマネジメントの検討を行うことで,個々の課題と対策の方向性を明らかにすることができた.

  • 西田 和樹, 金井 純子, 小川 宏樹, 白山 敦子, 中野 晋
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_33-I_42
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/06
    ジャーナル フリー

     2018年に復興まちづくりのための事前準備ガイドラインが施行された.南海トラフ巨大地震に備えて,公共施設の高台移転などに取り組む自治体がある.本研究では,事前準備ガイドラインが施行されてから4年が経過した2022年3月時点において,公共施設の高台移転を含む事前復興の取り組みの現状や課題を把握することを目的とする.南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域に指定されている139市町村を調査対象として,事前復興準備における課題,公共施設の移転状況,移転促進事業に関する助成制度の有無などについてアンケート調査を行った.また,既に公共施設の高台移転を行った自治体へのヒアリング調査を行った.その上で,災害リスクの程度,人口規模,財政規模などから事前復興の進捗度合を比較し特徴を整理した.事前復興の取り組みが進んでいる自治体の特徴を知ることにより,他の自治体が課題解決の糸口を見つけやすくなると期待できる.

  • 太田 和良, 近藤 伸也
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_43-I_54
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/06
    ジャーナル フリー

     大規模災害等では,災害対策本部の運営を中心に,ICS(Incident Command System)における目標管理型災害対応の観点から「定期的な対応計画の作成」「目標の設定と定期的な業務のチェック・改善」の導入が進んでいる.しかし,もう一つの重要な柱である「権限委譲」に関しては様々な事例報告があるものの,その実態に関する議論が不十分である.本稿では,和歌山県における災害事例を対象に,県行政の出先機関への調査等から災害現場における権限委譲の実態と課題を明らかにする.また,権限委譲の課題解決には,地域ステークホルダーと県行政機関との関わり,あるいは現地指揮官による状況判断や意思決定過程を検討する必要がある.そのためには「組織論」によるアプローチのみならず,「組織間関係論」さらには「組織行動論」としてとらえ議論する必要があることを提示する.

  • 尾崎 真由, 羽鳥 剛史
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_55-I_67
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/06
    ジャーナル フリー

     愛媛県宇和島市吉田町では,平成30年7月豪雨における被災者に対する生活再建支援が進められている.被災者の生活再建を進めていく上では,被災者の孤立リスクを軽減すると共に,彼らが自分達の暮らしを肯定的に評価し,日々の暮らしに幸せを感じられるかどうかが課題となる.本研究では,宇和島市の生活再建支援プログラムの内容や課題を踏まえて,吉田町の被災者350世帯を対象に,被災者の孤立リスクや生活満足度(主観的幸福感)を把握すると共に,その規定要因を検討した.その結果,被災者の生活満足度は,ソーシャルサポート意識や民間支援との間に強い関連性が認められた.また,被災後の移転者と非移転者の間で孤立リスクや生活満足度の規定要因に顕著な差異が認められた.これらの結果より,移転者には新しい環境において孤立を感じないように配慮することの重要性が示唆された.

  • 永田 臨
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_69-I_79
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/06
    ジャーナル フリー

     近年,地域公共交通における運転手不足が深刻化しており,運転手の不足に伴う労働負担の増大が,運転手の離職を促し,更なる運転手不足を招く悪循環に陥っている.

     そこで本研究では,運転手が充足定員の50%しか確保できておらず,運転手の労働負担増大と,路線バスのサービス低下に直面する実際の地域を対象として,バス運転手の労働時間を制約条件として,運転手の労働負担を軽減できる公共交通の運行計画を検討した.

     検討は,バス運転手の労働時間軽減と,最低限必要と考えられる公共交通のサービスレベルを両立できる複数のシナリオを作成し,シナリオ分析及び重回帰分析を行った.

     本研究の結果,路線バスの運行に従事するバス運転手の増員のみを行うよりも,バス運転手の増員と一部バス路線の撤退を組み合わせた方が,バス運転手の労働負担の軽減に効果が見られることが明らかとなった.

  • 柴田 達哉, 伊藤 和也, 吉川 直孝, 平岡 伸隆, 鈴木 隆明
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_81-I_91
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/06
    ジャーナル フリー

     急傾斜地崩壊防止工事で床掘りを伴った待受け擁壁設置での対策工事において,コンクリート打設の際に残存型枠を使用した.残存型枠は,一般型枠のように足場の設置や型枠の撤去が無いため,工事工期の短縮,作業性または工事費の縮減に対して有効であるとされている.また,施工中の安全面においても崩壊危険リスクが高い擁壁背面(斜面側)での作業工程が減少するので,このような工事では安全性の向上も期待される.本論文は崩壊防止擁壁施工時の床掘りや急勾配掘削を行った斜面近傍で行う作業で残存型枠を使用したより安全となる施工方法についてその有効性について調査・検討を行った.

  • 森安 祥大, 後藤 浩, 前野 賀彦
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_93-I_103
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/06
    ジャーナル フリー

     わが国では,近年,豪雨災害が多くなり,都市域が冠水する事象が多発している.浸水地域に工場などの危険物質を取り扱う施設があれば,その流出が懸念され,浸水地域に長期間の悪影響を及ぼすものと考えられる.すなわち,洪水による危険物質の流出に対する対策の検討をすることは,洪水災害からの復旧・復興だけでなく,減災対策を立てる上で役に立つ.本研究では,まず過去の国内外で発生した豪雨災害に伴う危険物質の流出事例をレビューした.そして,わが国における水害発生時の危険物質の流出リスクについて,その可能性がある事業所(工場),農家,一般家屋に分類して調査を行った.さらに,危険物質が流出した場合の拡散の様子について,平面2次元拡散方程式の解析解を用いて簡易推算した.これらを踏まえて,水害による危険物質の流出対策について考察を行い,二,三の提案を行った.

  • 多田 豊, 加藤 研二, 塩崎 由人, 鈴木 進吾
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_105-I_122
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/06
    ジャーナル フリー

     2020年7月宅地建物取引業法施行規則一部改訂により宅地建物取引時の水害ハザードマップ説明が義務化されたが,水害ハザードマップ等は避難促進のため最大規模被害を想定しており,住宅地選択への活用に課題がある.徳島県内の消費者,宅地建物取引業者へアンケートとヒアリングの結果,「水害ハザードマップにはリスクを誤る潜在的可能性がある」,「住宅地の利便性は評価できるが安全性(被害,避難経路等)は評価できない」,「安全性評価は浸水深の他,住宅地費用等の影響がある」という課題が明らかになった.

     以上の課題解決にむけ,災害リスクを理解し住宅地選択できる新しい水害ハザードマップ等の活用のあり方として,「マルチハザードリスク理解促進の仕組み」,「浸水深と建物被害,復旧費用等との関連付け」,「避難経路情報の提供」を示した.

  • 櫻井 祥之, 小川 宏樹
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_123-I_130
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/06
    ジャーナル フリー

     近年, 立地適正化計画において指定される, 居住誘導区域の浸水被害事例が発生し, 都市計画と防災対策との連携の必要性が唱えられている. 2021年には, 流域治水の計画・体制強化に加え, 水防災に対応したまちづくりを進めるため, 流域治水関連法が成立した. 既存の研究では, 居住誘導区域が指定される市街化区域内の浸水想定区域の範囲が広く, 浸水被害リスクの低減が困難な自治体の存在が明らかにされている. 本研究では, このような自治体が市街化区域外の住宅団地を事前移転先として活用するケースを念頭に, 移転先となる住宅団地の災害リスクや, 移転による制度面・まちづくりの面における課題等を明らかにした.

  • 近広 雄希, 小池 悠, 豊田 政史, 奥山 雄介, 大原 涼平, 清水 茂
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_131-I_139
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/06
    ジャーナル フリー

     2019年10月6日に発生した台風19号により,信濃川水系千曲川でも14箇所の越水・溢水,1箇所の堤防決壊が発生した.千曲川に架かる別所線千曲川橋梁,田中橋,海野宿橋などの橋梁の被災調査事例は報告されてきたものの,その支川も含めた千曲川流域に着目した被災調査は実施されてこなかった.よって本研究では,千曲川流域における橋梁被害の特性を明らかとするために,本川だけでなくその支川も含めた現地調査と資料調査を行い,被害状況を地図上に整理した.さらに,橋梁の被害要因を構造的(架橋年,橋長,幅員,構造形式)・地理学的(河床勾配,川幅,屈曲度)な視点から分析し,考察した.その結果,千曲川では6橋の,支川では14橋の橋梁被害が今回の調査で明らかとなった.多くの橋梁被害は護岸損傷に影響されたものであったが,支川では6例の流橋被害が明らかとなり,そのうち3橋は木橋であった.

  • 竹之内 健介, 鈴木 舜平, 本間 基寛, 山口 弘誠, 佐山 敬洋, 及川 康, 大西 正光, 矢守 克也
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_141-I_152
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/06
    ジャーナル フリー

     気象予測の分野では,近年,アンサンブル予測の研究開発が促進され,その活用も拡大している.このような予測結果に見え隠れする気象災害の潜在性「災害ポテンシャル」について,著者らは,現在からこれから起こりうる現在の未来として視る一般的な考え方に加え,現在から既に過ぎ去った過去の未来として視ることを提案している.本研究では,災害ポテンシャルに関する基礎的な調査として,現在進められている各種研究を基盤として,どのような災害ポテンシャルを示す情報形成が可能なのか,それらの情報にどのような特徴があるのかを8つの潜在的な災害リスクを示す情報を対象に分析するとともに,その印象をアンケートにより調査した.結果,各情報には特徴が確認されるとともに,それらの特徴が,災害リスクの多様性や潜在性に対する意識に影響していることが確認された.

  • 中野 晋, 山城 新吾, 金井 純子
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_153-I_164
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/06
    ジャーナル フリー

     令和元年東日本台風では千曲川左岸58km地点で堤防が決壊し,長野市北部の小学校1校,中学校2校が床上浸水した.浸水災害を対象とした教育継続計画作成に必要な対応事例を収集するため,長野市教育委員会を対象にインタビュー調査を行うとともに,学校周辺で浸水調査を行った.2つの中学校は上層階を使って18日後,24日後に再開,約2m浸水した小学校では近くの小学校を利用して23日後から学校再開した.バスやタクシーを活用した登下校手段の確保,学用品の支給,自衛隊や教職員による校舎の清掃・消毒,泥土処理など教育環境の整備が行われた結果,短期間での学校再開と教育継続が実現した.

  • 中野 晋, 金井 純子, 長谷川 真之, 西村 実穂, 小川 隆弘, 蒋 景彩, 徳永 雅彦
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_165-I_176
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/06
    ジャーナル フリー

     令和2年7月豪雨では芦北町を流れる佐敷川等が氾濫し,町中心部で1500世帯を超える住戸被害が発生した.この水害で佐敷川沿いに立地する小,中学校や保育施設では0.1~1.6m浸水し,休校・休園を余儀なくされた.水害直後の2020年7月中旬から2021年3月に計3回,浸水痕跡調査とRTK-GNSS測量を実施し,計43地点で浸水深と標高の調査を実施した.また,2021年12月に教育委員会及び保育所を訪問し,事業継続方法と課題についてインタビューした.主要な河川である佐敷川と湯浦川の両流域を対象に平面2次元洪水氾濫シミュレーションを実施し,浸水過程を分析した.これらの結果をもとに浸水エリアに立地する学校・保育所の事業継続の課題と対策について考察した.

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