日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
ガス突出の動力学モデル
—局所孤立系を仮定したモデルの導出とその数値シミュレーション—
往岸 達也梅村 章
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2007 年 2007 巻 p. 20070019

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抄録
豊富な埋蔵量を持つ石炭は,中心的1次エネルギー源として,世界各地において現在もなお活発な採炭が営まれている.地下坑道での採炭においては,しばしばガス突出と呼ばれる自然災害が発生し,人命を含む多大の被害を与えている.しかしガス突出に対する保安技術は,未だに十分とは言えず,この現象の発生予知,防止技術の確立が望まれる.ガス突出の保安技術を確立する上では,その発生メカニズムおよび現象特性の把握等,ガス突出の物理的現象解明を行うことが有用であると考えられる.ガス突出とは,ガスを含む地下坑道の炭層において,破砕された石炭隗およびメタン等のガスが,坑道内に突如突出する現象をいう.ガス突出の発生メカニズムについては諸説があるが,この内ガス圧を主要因とした場合,前駆的1次破壊を受けた脆弱かつ高圧ガスで満たされた炭層が,力学的均衡を失い破砕された石炭塊とガスとの混相媒体が,一挙に突出する2次破壊,すなわちガス突出が発生すると説明付けられる.本報では,1次破砕が進行した後の炭層において,ガス突出が発生した場合の動力学的特性を把握するという観点から,1次破壊を炭層の初期条件と位置づけ,これに続く2次破壊のパラメトリック特性を,栓列流モデルと称するモデル解析によって論じた.栓列流モデルとは,1次元固気混相媒体の部分系を,固体,気体部にそれぞれ集中化し,従って全系を半無限長の1次元管中に順次並らべられた固体栓と気体栓の集合体として表し,これらをラグランジェ的に追跡することにより,その運動解析を行うモデルである.固体栓は,その前後の気体栓圧力により駆動され,クーロン摩擦に見立てた抵抗力を受ける.また気体栓は,本報では孤立系として扱い,その圧力を断熱変化に従うとした.本モデルでは,初期気体栓圧力と静的抵抗力比,動的抵抗力と静的抵抗力比,空隙率の3つが主要パラメータであり,これらの相異により得られる,広範な運動特性を数値計算により求めた.数値解析の結果として,先ず,各固体栓の変位,速度,また各気体栓圧力の時間変化を追い,栓列流モデルの基本的な運動パターンを分析した.次いで運動を行った最大固体栓数および管外に突出した最大個体栓数について論じた.これらは実現象に対しては,破壊によって生じた炭層深度および石炭の突出量を与える量で,各パラメータに対するこれらの量の大小比較を得た.また各固体栓運動開始時刻を追跡することにより,破壊面進行速度の定義を与え,パラメータによるその相異を明らかにした.最後に突出によって生じた破壊深度と現象が終了するまでの突出持続時間に関し,両者の関係を全パラメータ範囲で調べ,その回帰分析を行った.その結果,分析結果が実際のガス突出から得られている統計的解析結果と,ほぼ一致することを確認した.
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© 2007 The Japan Society For Computational Engineering and Science
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