日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
熱電効果を考慮した熱伝導問題に関するトポロジー最適化
岡本 由仁泉井 一浩伊賀 淳郎山田 崇恭西脇 眞二吉村 允孝
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2009 年 2009 巻 p. 20090005

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抄録

熱エネルギーと電気エネルギーの相互変換を可能とする素子として熱電素子がある.この熱電素子は,異なる二箇所に温度差を設けると,その間に起電力が発生するゼーベック効果を生じ,逆に,異なる二箇所に電位差を与えて素子に電流を流すと,素子内を熱が移動し,その結果,温度差が発生するペルチェ効果を生じる.これらの効果を利用したエネルギー変換モジュールは,機械的に稼動する部位を持たないため,エネルギー変換時に,振動や騒音を発生せず,高い信頼性を持つ.このため,冷蔵庫や精密機器などの高品質な温度制御モジュールとして,熱電素子は広く利用されている.また,熱電素子は小型化が可能であるため,MEMSへの応用も試みられている.上述のような利点をもった熱電素子の性能はその配置や形状に大きく依存する.そして,効率の向上を目的として,2段モジュールにおける熱電素子の最適配置,傾斜機能材料を用いた熱電素子の材料特性勾配の最適化といった,熱電素子の最適化について幾つか報告されている.しかし,熱電素子を用いた温度制御モジュールの設計では,熱電素子に接続される熱伝導体を含めた温度制御モジュール全体の最適化を行う必要があるにもかかわらず,これらの研究においては,熱伝導体を考慮せず,熱電素子のみに着目した単純な解析モデルに基づく最適化にとどまっている.これに対して,有限要素法等の数値解析手法により2次元モデルを用いて,熱電素子の性能評価を行う試みもなされている.しかしながら,これらの研究では,限られた寸法についてのパラメータスタディを行うにとどまっており,モジュール形状の抜本的な最適化を行うには至っていない.他方,構造の形状だけでなく,形態の変更も可能とし,性能の抜本的改善が可能な構造最適化法として,トポロジー最適化が広く利用されている.トポロジー最適化は,当初,剛性最大化問題や固有振動数最適化問題など,建築や機械の構造設計法として発展してきたが,近年,ピエゾ電気アクチュエータや熱アクチュエータの設計問題などのマルチフィジックス問題にも適用され,性能の大幅な改善が達成されている.しかし,熱電素子を用いたモジュール設計への展開は,未だ報告されていない.そこで,本研究では,熱電素子を用いた温度制御モジュールの効率の向上を目的として,トポロジー最適化に基づく,新しい構造最適設計法を構築する.そして,本論文では,その第一段階として,特定の箇所の温度差最大化を可能とする熱電素子を用いた熱伝導問題に対するトポロジー最適化手法を提案する.具体的には,まず,熱伝導問題におけるトポロジー最適化のための均質化法による設計空間の緩和を行った.この際に,不連続な材料分布が最適設計解として得られることを回避するために,離散化近似において,各節点に設計変数を配置し,材料分布の連続性を確保した設計空間の緩和法を導入している.続いて,ゼーベック効果,オームの法則,ペルチェ効果,フーリエの法則を考慮して,電位場と温度場を解析する非線形平衡方程式を導入した.電流とエネルギーの平衡方程式を残差形式で表わし,ニュートン法を用いて残差をゼロにすることにより平衡方程式を満足する電位場と温度場を得る.熱電素子を温度制御モジュールとして効果的に活用するためには,冷却側から放熱側へ効率よく熱を伝える必要がある.このような熱伝導体の構造を設計する問題は,熱電素子が動作している定常状態において,熱が外部から流入する境界における温度を最小化し,外部へ熱が放出される境界における温度を最大化する最適化問題とみなすことができる.そこで,本論文では,このような考え方をもとに最適設計問題を提案し,その目的関数の定式化を行った.さらにその目的関数を用いて,最適化の過程で必要となる感度を解析し,均質化法,逐次線形計画法を基にした最適化アルゴリズムを開発した.最後に,本論文で構築した方法を2つの簡単な最適設計問題に対して適用し,方法論の妥当性を検証した.その結果,提案した手法により,熱電素子から熱流束境界へ熱を効率的に伝えることのできる物理的に妥当な最適構造が得られることが分かった.また,最適設計解としてチェッカーボードパターンを含まない,境界の明瞭な構造が得られた.

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© 2009 The Japan Society For Computational Engineering and Science
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