日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
2009 巻
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
  • 田中 正幸, 益永 孝幸, 中川 泰忠
    2009 年 2009 巻 p. 20090001
    発行日: 2009/01/28
    公開日: 2009/01/28
    ジャーナル フリー
    粒子法により非圧縮性流体を解析するMPS(Moving Particle Semi-implicit)法には空間的に粒子径を変更できないという問題があった.本研究では重み関数を粒子の大きさを考慮して計算し,さらに非圧縮条件を粒子径が異なる場合にも対応できるように変更することで,空間的に粒子径が異なっても安定に解析できるようにMPS法を改良した.また,粒子の分裂と結合を行うことによって動的に空間解像度を調整することを可能にした.その結果,ダム崩壊問題において計算時間を約1/9に削減することができた.
  • Cuimin LI, Tomoyuki HIROYASU, Mitsunori MIKI
    2009 年 2009 巻 p. 20090002
    発行日: 2009/01/28
    公開日: 2009/01/28
    ジャーナル フリー
    In this paper, genetic algorithm with a stress-based crossover is improved to solve structural shape optimization problems. The design domain is well divided by finite element method. According to one initial topology, the boundary profile elements and the neighboring outside elements, which are design variables, are randomly set to “0” or “1” to generate the initial population. To keep the shape deforming gradually, a logical “OR” operation is applied on each child structure and a “mask” structure. Moreover, the material weight of child is adjusted dynamically. Three experiments were performed to verify the effectiveness of improved SX for structural shape optimization.
  • 高瀬 慎介, 樫山 和男
    2009 年 2009 巻 p. 20090003
    発行日: 2009/02/02
    公開日: 2009/02/05
    ジャーナル フリー
    近年,津波,高潮などによる浸水災害が,数多く発生している.これらの浸水災害に対して,時々刻々と変化する浸水範囲を予測することは,防災・災害対策を講じる上で重要である.浸水被害の予測に関する研究は,かつては模型実験が主流であったが,近年では計算機性能および計算技術の進歩により,数値シミュレーションによる方法が一般的となっている.浸水被害の予測に関する数値シミュレーション手法は,数多く提案されているが,移動する水際境界の処理法の違いから,移動メッシュを用いる界面追跡法と固定メッシュを用いる界面捕捉法に大別される.なお,支配方程式としては浅水長波方程式が一般に用いられている.また,空間方向の離散化手法には,当初は直交格子に基づく有限差分法が主に用いられてきたが,近年では,高精度なGISデータ(地形および住宅数値地図)の整備,およびそれらを用いたメッシュ生成手法の進歩等により,複雑な地形や構造物形状を考慮可能な非構造格子に基づく有限要素法や有限体積法が数多く適用されるようになってきている.一方,時間方向の離散化手法には,空間方向の離散化手法のいかんにかかわらず,有限差分法が一般に用いられている.著者らはこれまで,移動する水際境界を精度よく表現できる界面追跡法に着目して,空間方向と時間方向に対して有限要素法を適用するSpace-Time有限要素法に基づく手法の構築研究を行ってきた.そして,界面追跡法の欠点であるロバスト性の欠如については,バックグラウンドメッシュを用いるメッシュ再構築手法の導入により改善を図ってきた.Space-Time有限要素法は,時間方向に差分法を用いる手法に比べて,時間精度が高くかつ安定性に優れる長所がある一方,短所は要素の次元が1つ上がるため,計算負荷が差分法を用いる場合と比べて高いと言われている.しかし,上記のSpace-Time有限要素法の精度と安定性に関する長所短所を裏付ける研究は,Huertaらにより移流拡散方程式に対してはなされているが,浅水長波方程式に関してはこれまで行われていない.そこで,本論文では,著者らが提案した浅水長波流れ解析のためのSpace-Time安定化有限要素解析手法の精度と安定性について,時間方向に差分法を用いた安定化有限要素法との比較により検討を行うものである.なお,Space-Time安定化有限要素法においては,時間および空間の離散化に対して五面体要素に基づく1次要素を用いた.一方,時間方向に差分法を用いた安定化有限要素法においては,空間方向の離散化に三角形要素に基づく1次要素を,時間の離散化には2次精度であるCrank-Nicolson法を用いた.また,浅水長波流れ解析は,時々刻々と水位が変化するためCFL条件も変化する.従って,微小時間増分量を全時間ステップで一定の値を用いることは効率上問題があるといえる.そこで本研究では,流れの現象に応じて,CFL条件に基づいて微小時間増分量を決定する方法の有効性についても検討した.数値解析例として,段波問題,跳水問題,津波の遡上問題を取り上げ,理論解や実験結果との比較を通じて,本手法の計算精度と安定性について検討を行った
  • 李 翠敏, 廣安 知之, 三木 光範
    2009 年 2009 巻 p. 20090004
    発行日: 2009/02/06
    公開日: 2009/02/06
    ジャーナル フリー
    Stress-based crossover (SX) is a genetic operator for structural topology optimization using the information of stress. This paper discusses three types of SX parameter. First, generation alternation models are used to improve the search ability of genetic algorithms. Second, several different meshes are used to study the mesh dependency of SX. A comparison of evolutionary structural optimization (ESO) and SX is performed on the MBB beam problem. Third, element stress ranking method is adopted to study the impact of element stress on final topology. In addition, different domain division strategy for GA and FEM is introduced to further discuss the element stress in uence in SX.
  • 岡本 由仁, 泉井 一浩, 伊賀 淳郎, 山田 崇恭, 西脇 眞二, 吉村 允孝
    2009 年 2009 巻 p. 20090005
    発行日: 2009/02/13
    公開日: 2009/02/13
    ジャーナル フリー
    熱エネルギーと電気エネルギーの相互変換を可能とする素子として熱電素子がある.この熱電素子は,異なる二箇所に温度差を設けると,その間に起電力が発生するゼーベック効果を生じ,逆に,異なる二箇所に電位差を与えて素子に電流を流すと,素子内を熱が移動し,その結果,温度差が発生するペルチェ効果を生じる.これらの効果を利用したエネルギー変換モジュールは,機械的に稼動する部位を持たないため,エネルギー変換時に,振動や騒音を発生せず,高い信頼性を持つ.このため,冷蔵庫や精密機器などの高品質な温度制御モジュールとして,熱電素子は広く利用されている.また,熱電素子は小型化が可能であるため,MEMSへの応用も試みられている.上述のような利点をもった熱電素子の性能はその配置や形状に大きく依存する.そして,効率の向上を目的として,2段モジュールにおける熱電素子の最適配置,傾斜機能材料を用いた熱電素子の材料特性勾配の最適化といった,熱電素子の最適化について幾つか報告されている.しかし,熱電素子を用いた温度制御モジュールの設計では,熱電素子に接続される熱伝導体を含めた温度制御モジュール全体の最適化を行う必要があるにもかかわらず,これらの研究においては,熱伝導体を考慮せず,熱電素子のみに着目した単純な解析モデルに基づく最適化にとどまっている.これに対して,有限要素法等の数値解析手法により2次元モデルを用いて,熱電素子の性能評価を行う試みもなされている.しかしながら,これらの研究では,限られた寸法についてのパラメータスタディを行うにとどまっており,モジュール形状の抜本的な最適化を行うには至っていない.他方,構造の形状だけでなく,形態の変更も可能とし,性能の抜本的改善が可能な構造最適化法として,トポロジー最適化が広く利用されている.トポロジー最適化は,当初,剛性最大化問題や固有振動数最適化問題など,建築や機械の構造設計法として発展してきたが,近年,ピエゾ電気アクチュエータや熱アクチュエータの設計問題などのマルチフィジックス問題にも適用され,性能の大幅な改善が達成されている.しかし,熱電素子を用いたモジュール設計への展開は,未だ報告されていない.そこで,本研究では,熱電素子を用いた温度制御モジュールの効率の向上を目的として,トポロジー最適化に基づく,新しい構造最適設計法を構築する.そして,本論文では,その第一段階として,特定の箇所の温度差最大化を可能とする熱電素子を用いた熱伝導問題に対するトポロジー最適化手法を提案する.具体的には,まず,熱伝導問題におけるトポロジー最適化のための均質化法による設計空間の緩和を行った.この際に,不連続な材料分布が最適設計解として得られることを回避するために,離散化近似において,各節点に設計変数を配置し,材料分布の連続性を確保した設計空間の緩和法を導入している.続いて,ゼーベック効果,オームの法則,ペルチェ効果,フーリエの法則を考慮して,電位場と温度場を解析する非線形平衡方程式を導入した.電流とエネルギーの平衡方程式を残差形式で表わし,ニュートン法を用いて残差をゼロにすることにより平衡方程式を満足する電位場と温度場を得る.熱電素子を温度制御モジュールとして効果的に活用するためには,冷却側から放熱側へ効率よく熱を伝える必要がある.このような熱伝導体の構造を設計する問題は,熱電素子が動作している定常状態において,熱が外部から流入する境界における温度を最小化し,外部へ熱が放出される境界における温度を最大化する最適化問題とみなすことができる.そこで,本論文では,このような考え方をもとに最適設計問題を提案し,その目的関数の定式化を行った.さらにその目的関数を用いて,最適化の過程で必要となる感度を解析し,均質化法,逐次線形計画法を基にした最適化アルゴリズムを開発した.最後に,本論文で構築した方法を2つの簡単な最適設計問題に対して適用し,方法論の妥当性を検証した.その結果,提案した手法により,熱電素子から熱流束境界へ熱を効率的に伝えることのできる物理的に妥当な最適構造が得られることが分かった.また,最適設計解としてチェッカーボードパターンを含まない,境界の明瞭な構造が得られた.
  • 山田 知典, 長嶋 利夫
    2009 年 2009 巻 p. 20090006
    発行日: 2009/03/06
    公開日: 2009/03/06
    ジャーナル フリー
    構造格子を利用したメッシュフリー有限要素法解析における効率的な境界要素積分手法を提案する。構造格子を利用した有限要素法解析ではメッシュ生成の労力削減のため構造格子がメッシュとして利用されるが、境界要素において解析形状と要素境界との不整合が起こる。このため、境界要素において弱形式の支配方程式を正確に積分するには数値積分手法と被積分域の正確な評価が必要となる。本論文ではニュートンコーツ積分を利用することにより、内外判定を伴う被積分域の正確な評価をサブセル単位で行い重みに反映させることにより、計算負荷の高い要素剛性行列の積分から独立させることを提案する。
  • 上田 真広, 宍戸 信之, 池田 徹, 宮崎 則幸
    2009 年 2009 巻 p. 20090007
    発行日: 2009/03/10
    公開日: 2009/03/10
    ジャーナル フリー
    エポキシ樹脂は,その優れた性質によって接着剤やマトリックス材として広く使用されているが,純粋なエポキシ樹脂は脆い欠点がある.そこで,ゴム粒子を分散させて破壊靱性値を向上させることが良く行われている.このゴム粒子には,液状ゴムを分散析出させる物が多いが,本研究では,サブミクロンサイズの固体状ゴム粒子を分散させたゴム粒子強化エポキシ樹脂について,その破壊メカニズムとき裂先端の損傷状態を調べた.まず,き裂先端近傍の損傷域でのゴム粒子強化エポキシ樹脂の透過型電子顕微鏡観察を行い,固体状ゴム粒子内部にキャビテーションが発生していることを確認した.さらに,デジタル画像相関法を用いてき裂先端近傍の試験片表面のひずみ分布を測定するとともに,Gursonモデルを用いた有限要素法解析を行った.その結果,デジタル画像相関法によるひずみ分布計測結果とGursonモデルによる解析結果が良く一致した.このことより,固体状ゴム強化エポキシ樹脂のき裂先端近傍の損傷状態をGursonモデルにより,適切にモデル化できていることが確かめられた.
  • モートゥトゥ , 尾上 勇介, 藤野 清次
    2009 年 2009 巻 p. 20090008
    発行日: 2009/03/10
    公開日: 2009/03/10
    ジャーナル フリー
    大型の$n\ imes n$の大きさの非対称行列Aを係数行列に持つ線形方程式Ax=bに対して,BiCG法系統,GMRES法系統など様々な反復法が使われている.本研究では,元のGPBi-CG法の収束不安定性について「残差の分裂(split)」という視点から考察した.次に,前処理なしGPBi-CG法とGPBiCG_AR法の適用範囲の拡大という視点から,複数の前処理を導出したので,その概要を紹介する.さらに,反復1回当りの2つの前処理つき反復法の計算量を理論的に見積もった.最後に,疎行列データベースから行列を選出し,上記の2種類の前処理つきGPBi-CG法とGPBiCG_AR法の収束性に関する数値実験結果を報告する.
  • 河合 浩志, 荻野 正雄, 塩谷 隆二, 吉村 忍
    2009 年 2009 巻 p. 20090009
    発行日: 2009/05/04
    公開日: 2009/05/04
    ジャーナル フリー
    地球シミュレータやIBM BlueGene/Lといったスーパーコンピュータ上で並列FEMソルバーを用いることにより、一億自由度を超える規模の三次元構造解析が可能となっている。このような規模の解析結果を可視化するためには、グラフィックスクラスタまたはスーパーコンピュータを用いたソートラスト型並列ポリゴンレンダリングが有効である。本研究では、この並列レンダリングの性能ボトルネックを解消するために、ランレングス法と差分符号化に基づく高速画像圧縮を用いた画像合成の高速化を試みる。大規模構造解析結果の可視化において、本手法を用いることでPCクラスタ上で1.7億ポリゴン/秒の描画性能を達成した。
  • 福重 貴浩, 釜土 敏裕, 有馬 敏幸, 藤野 清次
    2009 年 2009 巻 p. 20090010
    発行日: 2009/06/26
    公開日: 2009/06/26
    ジャーナル フリー
    Computational Fluid Dynamics (CFD) に残された課題の一つに, 計算格子生成の問題に起因する複雑形状周りの流れ解析が挙げられる. この問題に対して開発された直交格子積上げ法(Building-Cube Method (BCM))は, 複雑形状周りの流れを効率よく解く手法として着目されている. BCMとは, 計算領域をCubeと呼ばれる立方体領域に分割し, 各Cubeに等間隔直交格子(Cell)を生成する格子生成法である. 流体計算は, Cube毎で独立におこなわれ, Cellは物体の内, 外, 及び物体境界の3つに分類される. BCMは, 直交等間隔の構造格子を使用していることから, 高空間精度スキームが使用できることや, 非構造格子法に比べ要素の構成節点や隣接要素情報が不要であることによる少メモリ等の利点に加え, 複雑形状を計算する上で, 計算格子の自動生成が可能であるなど多数の利点がある. しかし, Cube数の増加に伴い収束が悪化するという特徴を持つ. 本研究において, 収束性を改善するために, 残差スムージング(Implicit Residual Smoothing (IRS))を適用し, 大幅な収束向上を得た.
  • 李 成健, 高野 直樹
    2009 年 2009 巻 p. 20090011
    発行日: 2009/07/29
    公開日: 2009/07/29
    ジャーナル フリー
    This paper will introduce the novel concept of creative design to multi-objective topology optimization. Creative design in topology optimization involves allowing the optimization process to be influenced by specific designer inputs regarding topological properties and preferences. These inputs can be created very naturally within the level set framework. A new objective function using a signed least square error is also proposed to measure deviation from the designer inputs. The example presented here shows the trade-off that exists between deviation from desired designer inputs and performance metrics, such as compliance. If the designer inputs are aesthetic features, the interpretation of the creative design becomes one that searches for beauty and performance in topology.
  • 山崎 慎太郎, 野村 壮史, 佐藤 和夫, 西脇 眞二, 山田 崇恭, 泉井 一浩
    2009 年 2009 巻 p. 20090012
    発行日: 2009/07/29
    公開日: 2009/07/29
    ジャーナル フリー
    本論文では,レベルセット法に基づく新しい構造最適化法を提案する.レベルセット法は,2相の形状をレベルセット関数と呼ばれるスカラ関数のゼロ等値面で表現する,オイラー座標系に基づく形状表現法であるので,レベルセット法を用いる場合,数値計算用メッシュを固定したままで様々な形状を表現することが可能である.このため,レベルセット法に基づく構造最適化では,形状と形態が初期形状と大きく異なる最適構造を得ることが可能である.さらに,レベルセット関数のゼロ等値面により構造物の形状が明確に識別されるため,均質化法もしくは密度法を用いた設計空間の緩和に基づく構造最適化法と異なり,グレースケールを含まない明瞭な境界を持った構造が最適解として得られる.構造物の形状を表現するレベルセット関数としてLipschitz連続な任意の関数を用いることができるが,ゼロ等値面に対する符号付き距離関数を用いると,精度の高い計算結果が得られる.このため,本論文では,有限要素メッシュで離散化された符号付き距離関数をレベルセット関数として用いて構造物の形状を表現し,各節点において離散化されたレベルセット関数に関する感度を計算し,これに基づきレベルセット関数を更新する.感度に基づいてレベルセット関数を更新すると,レベルセット関数はゼロ等値面に対する符号付き距離関数ではなくなるので,更新後にゼロ等値面に対する符号付き距離関数となるよう,レベルセット関数を再初期化する.初期構造を表現するレベルセット関数を初期値として与え,ここで述べた更新手続きを繰り返すことにより,最適構造を表現するレベルセット関数が得られる.本論文では,上述の更新手続きに基づく方法を平均コンプライアンス最小化問題に適用する.このため,レベルセット法に基づき平均コンプライアンス最小化問題を定式化し,各節点において離散化されたレベルセット関数に関する平均コンプライアンスの感度を導出する.平均コンプライアンスの感度のみに基づいて最適化を行うと,問題設定によっては過度に複雑で製造コストの高い最適構造が得られる.この問題を解決するために,構造物の外周長(以下,ペリメータと表記する)についても感度を導出し,平均コンプライアンスだけでなく,ペリメータの感度も用いて最適化を行う.これにより,ペリメータの小さい単純な最適構造が得られる.本論文で提案する構造最適化法の妥当性を検証するために,簡単な設計問題を幾つか用意し,本論文で提案する構造最適化法を用いてどのような最適構造が得られるか調べた.まず最初に,各節点において離散化されたレベルセット関数に関する感度と,連続系において導出される感度との比較を行った.この比較の目的は,連続系の感度に基づいてレベルセット関数を更新する従来の構造最適化法と,離散系の感度に基づく本方法との差異を明確化することである.有限要素メッシュを用いてレベルセット関数を離散化する場合,連続系において導出される感度も,何らかの方法を用いて近似的に離散化せざるを得ない.これに対し,離散系の感度は,レベルセット関数が離散化されているという前提に基づいて厳密に計算される.数値例を用いて両者を比較すると,離散系の感度の方が滑らかに分布しており,フィルタリング法等の感度平滑化法を用いずとも,形状が滑らかな最適構造が得られることが分かった.次に,ペリメータの感度が最適構造に与える影響について調べた.ここでは,レベルセット関数更新に用いる平均コンプライアンスとペリメータの感度の割合を変化させて,最適構造がどのように変化するか調べた.その結果,ペリメータの感度の割合が大きくなる程,よりペリメータが小さい単純な最適構造が得られることが分かった.最後に,有限要素メッシュ粗さへの依存性について調べた.本論文で提案する構造最適化法を用いる場合,有限要素メッシュ粗さが変化すると,得られる最適構造が変化することが分かった.すなわち,最適構造は有限要素メッシュ粗さに依存する.しかしながら,レベルセット関数更新に用いるペリメータの感度の割合を適切に設定することにより,得られる最適構造の有限要素メッシュ粗さに対する依存性を低減できることが分かった.
  • 中住 昭吾, 澤田 有弘, 往岸 達也, 鈴木 健, 手塚 明
    2009 年 2009 巻 p. 20090013
    発行日: 2009/08/25
    公開日: 2009/08/25
    ジャーナル フリー
    セラミクスは比剛性が高く低熱膨張,高耐熱性等,構造部材としては優れた機能を有する材料であるが,一方でその部材大型化に関しては,炉の大型化・高価格化,歩留まりの低下などが障害となる.この短所を補う手段として近年,小型炉でも製造可能な大きさの小型ブロックを立体的に組み立て一体化することにより,多様な形状・大きさの三次元形状部材の作成を可能とするステレオファブリック造形と呼ばれる技術が提案されている.このブロック構造を構築する際,取り付け位置に応じてブロックの種類を変えられることが望ましく,ブロック種類・個数・配置位置を変数とする最適配置問題と見なすことができる.これは離散変数の数理的最適化に属する問題であるが,通常この問題を解くに当たっては考えられる離散変数の組み合わせ全てについて総当りの試行計算を必要とし,例え遺伝的アルゴリズム等の離散変数の最適化手法が用いたとしても膨大な計算量を必要とする.一方このブロック配置問題を,一体化構造物の形状の最適化問題と見なし,その形状が連続的に変化すると捉えるならば,寸法最適化,形状最適化,位相最適化等の各種最適化手法が既に確立されている.これらの手法は連続関数であるため勾配情報を用いることができ,効率よく最適解に到達できる.しかしながら連続的設計変数場を前提としており,ブロック構造に適用した例はない.本論文では,このブロック構造が適用される大型構造物として,産業界において液晶パネルの製造に使用されるXYステージを想定する.そしてセラミクスブロック構造を含めた一般的ブロック群から構成される実構造物の設計にあたり,不可欠となる離散化変数の最適化問題であるブロック配置問題を,連続関数の最適化手法の一種である位相最適化手法を活用して短時間に妥当な解を得る方法を提案する.ベースとなる位相最適化手法は,設計変数すなわち密度が連続な値をとるものとして行われるが,ブロックパターンとの対応付けのため,その設計変数に対して適当な閾値を元に離散化処理を施すと,最適解であるとの保証は失われる.離散化により重量制約率が満足されなくなるからであるが,提案する手法では,最適化の反復計算ごとに得られる全ての離散変数解を重量-コンプライアンス平面上にプロットし,そのプロット点群がつくる領域の下限値を連ねることで最適な解を導出することができる.ただしこの最適化反復計算の中で,設計変数の更新処理は常に連続的設計変数に対して行うものとする.すなわち最適化のループは連続的設計変数を基に繰り返される.これは,もし離散化処理を施した設計変数から勾配情報を得ると,不連続性を持つ関数から勾配情報を得ることになり,誤った最適化の方向へ進む可能性があるからである.それに対して連続的設計変数から勾配情報を得つづければ,通常の位相最適化と同様,最適解が存在する方向へ反復計算が進行することを期待できる.数値解析例として,セラミクス材料からなり一様分布荷重及び自重によりたわみ変形を生じるXYステージを扱った.与えられた重量制約下で,ステージのたわみ量に対応するコンプライアンスの最小化を目的関数とする構造最適化問題を解き,二種類の荷重条件下におけるコンプライアンスと重量率の関係を示す解群,及びそのブロック配置パターンを導出した.
  • 山田 知典, 荻野 正雄, 吉村 忍
    2009 年 2009 巻 p. 20090014
    発行日: 2009/08/26
    公開日: 2009/08/26
    ジャーナル フリー
    有限要素法による複雑構造物の力学解析では,その構造物の複雑さに従い有限要素モデルの自由度が飛躍的に増加する.原子力施設のような大規模構造物においては,連成現象をモデル化せず構造問題に限った場合でも,その全体シミュレーションのため必要とされる自由度は数千万から数億自由度となり,並列計算機の利用が必要不可欠となる.反復型部分構造法はその並列効率の高さから大規模有限要素法解析の有効な並列計算手法として認知されている.反復型部分構造法の実装においては一般にローカルな部分領域の処理に直接法が用いられる.これは部分領域が比較的小自由度であり,また,反復型部分構造法のグローバルな反復回数分の求解処理が必要とされるためである.また,コースグリッド修正の実装においても同様な理由により直接法が用いられている.このため,計算効率は領域分割数に大きく依存することとなるが,これまでコースグリッド修正の計算コストを考慮した最適領域分割数の指針は明確に示されていない.特に,数百万自由度程度の規模では経験的に1部分領域あたり60~120要素という指針が示されていたが,その問題規模におけるコース問題は非常に小さく,コースグリッド修正にかかる計算コストは無視できるほどであった.しかし,近年行われている数千万から数億自由度の解析ではコースグリッド修正の計算コストが問題となることが分かってきたため新たな指針が必要となっている.そこで本研究ではBDD法を対象として,特に1,000万自由度以上の大規模問題における並列環境での最適領域分割数の指針をし,5,000万自由度規模の実構造物解析を行うことにより,その評価を行った.実複雑構造モデルを用いた最適領域分割数の予測と実測結果より、提案した最適領域分割数を用いた解析を行うことにより他の分割数に比べ高い計算効率が得られることを示した。
  • 山田 進, 今村 俊幸, 町田 昌彦
    2009 年 2009 巻 p. 20090015
    発行日: 2009/09/07
    公開日: 2009/09/07
    ジャーナル フリー
    強相関多体問題を計算する方法の1つに密度行列繰り込み群法(DMRG法)がある。この方法は本来1次元モデル用に開発された方法であったが、並列化することで準2次元モデル(梯子型モデル)用に拡張することに成功している。この並列化においてall-to-all通信を必要とする。all-to-all通信はすべてのプロセス間で通信を行うため、ネットワークの帯域に負担がかかる。そのため、最近主流になってきたマルチコアクラスタは、ネットワークの帯域に対するプロセス数が多いため、通信性能の低下が予測される。そのため、我々は、データ分割や通信パターンを考慮することで、全プロセスで通信を行わない通信方法を提案した。実際に、シングルコア計算機であるSGI Altix 3700 Bx2およびマルチコア計算機T2K Open Supercomputer (Todai Combined Cluster)において性能評価をおこなったところ、どちらの計算機でも新しい通信方法により通信性能は向上したが、マルチコアであるT2Kのほうがより高速化することが確認できた。
  • 田中 義久, 前田 太陽, 村田 忠彦
    2009 年 2009 巻 p. 20090016
    発行日: 2009/09/17
    公開日: 2009/09/17
    ジャーナル フリー
    シミュレーションを必要とする多くの分野において,ユーザは自身が開発したプログラムの結果を得るために,日単位から月単位に及ぶ長期間を要する計算を行わなければならないケースが存在する.計算を計算機の障害から保護するために必要な計算機の障害対策は,Gridを実現する計算システムや分散計算環境を提供するシステムの機能として,これまでに計算途中のメモリ情報の保存と実行の再開,計算情報のマイグレーションを用いた利用計算機の変更,計算機の動的な構成とフォールトトレランスによって実現されてきた.一方で,あらかじめ障害対策が施された計算環境を用いず,個人の計算機(以下,Personal Computer: PC)を用いて長時間の計算を行うユーザは多く存在する.これは,管理者により提供されている計算環境がない,利用可能な計算環境が高い利用率で利用されている,ユーザのPCを利用する規約があるなど,個々のユーザが利用可能な計算環境自体やユーザの利用方法に制約があるためである.しかしながら,PCを用いる場合においても,ユーザは長時間の計算を失敗することなく1回の実行で確実に終わらせたい,またその時々で利用可能なPCを柔軟に組み合わせて,自身の管理下で安心して計算を実行したいというニーズを持つ.これらのニーズを満たすためには,次の2点を実現する必要がある.1つは,実行する計算を確実に終えるという観点から,同じ計算を並行して実行することで計算の多重化を行い,計算途中の計算を持続的に再開する仕組みの実現である.もう1つは,PC利用の観点から,ユーザのニーズに応じて多重化に用いるPCを自由に追加・解放が可能な環境の実現である.これらがPCのOperating System(OS)に関係なく利用でき,問題解決環境(Problem Solving Environments)の概念で示されるように,特別な知識を必要とせずに利用できれば,ユーザにとって実用的なシステムの実現につながる.そこで本研究では,PCを用いて長時間の計算を行うユーザを対象とし,ユーザの持つPC環境下で,ユーザの要求に応じて,計算中の計算を,計算状態を維持したまま異なるPCへ移動可能にする支援システムHolonを開発した.本システムは,計算の多重化と持続性を実現するRuntime,Runtimeに計算を投入するJob Submitter,計算のモニタリングやハンドリングを行う管理ツール,プログラムを容易にシステムへ導入するためのライブラリの4つの構成要素からなる.本システムにより実現されるミラーリング計算は,複数のPCを用いて計算を多重化し,チェックポイントに最も早く到達した計算の複製に基づき再度多重化を行うことで,PCに障害が生じた場合でも計算経過の損失を直近のチェックポイントからの計算量にとどめる計算手法である.ミラーリング計算では,各複製が独立に計算されるため,持続的な計算が可能になる.本システムは機種依存性を無くすためにJavaを用いて実装しており,ユーザの持つJavaで記述された計算プログラムを対象とする.適用事例として分子シミュレーションと協調行動シミュレーションを行い,長時間の計算でのシステムの効果と適用方法について評価した.その結果,どちらの計算プログラムにおいても,ミラーリング計算を用いた計算の移動によるシミュレーション結果の相違は無く,計算中にシステムへPCを追加した場合は直近の計算状態を用いた多重化が行われ,1台のPCを残して他のPCを全て解放した場合でも計算が停止することは無かった.また,ミラーリング計算を行うことで,システム全体のスループットはシステムを構成するPCの中で最もスループットが高いものと同等になり,特定のPCの負荷変動にはほとんど影響されないことが確認できた.意図的に計算中のPCに障害を発生させ,通常実行,チェックポイント・リスタートのみ,ミラーリング計算の3つの実行方法で計算終了までの所要時間を比較した結果,ミラーリング計算が最も短時間で計算を終えることが確認できた.さらに,広域でのミラーリング計算や,ノートPCを介した計算の移動も可能であった.適用に必要なソースコードの変更箇所は,分子シミュレーションにおいて364行中28行,協調行動シミュレーションにおいて1347行中242行であった.システムを用いることによるパフォーマンスオーバーヘッドは,それぞれ0.9%と1.4%であり,実用範囲内であることが確認できた.
  • 青木 悠祐, 前田 太陽, 村田 忠彦
    2009 年 2009 巻 p. 20090017
    発行日: 2009/09/28
    公開日: 2009/09/28
    ジャーナル フリー
    強化学習アルゴリズムは,演繹的知識を必要とせずエージェントの置かれた環境から報酬を受け取ることでエージェントの行動を決定できるひとつの手法である.これを用いることで,制御対象に目標を設定しておくだけで,目標までの過程を意識することなく目標を達成することが可能となる.このため,目標を到達するまでの過程を事前にルール化することが困難なロボットの行動獲得で用いられている.強化学習アルゴリズムには,開発を進める上でいくつかの問題があり,本論文では,アルゴリズムの確認を行うために,複数回の計算の実行,複数回のシミュレーションの結果の比較作業の2つの問題に着目した.1つ目の問題は,以下の要因によって発生する.強化学習アルゴリズムは,入力パラメータによって学習効率が異なる.アルゴリズムを変更した際,それに対しても入力パラメータを調整する.また,アルゴリズムを検証するために,異なる乱数系列を用いて統計的なシミュレーションを行う必要がある.これらによって,入力パラメータ,異なるアルゴリズム,乱数系列,それぞれの組み合わせで複数回の計算を実行しなければならない.2つ目の問題は,計算によって得られたシミュレーション結果から時間ステップごとの細かい推移を確認する必要があるために発生する.単に数値データの比較だけではアルゴリズムの検証を行うことは困難であり,多くのシミュレーション結果の比較によって,アルゴリズムの検証を行わなければならない.そこで,これらの解決方法として次の3つの支援を行った.それは,複数回の計算実行を効率的に行うための分散計算,データの検証作業の管理を行いやすくするための自動登録を持ったデータ管理,細かい推移の確認や比較を行うためのグラフの自動生成である.これら3つの機能を持ち,それらの専門知識を意識することなく本来の強化学習アルゴリズム開発に専念できるシステムがあればアルゴリズム開発の促進につながる.しかし,すでに開発されている問題解決環境(Problem Solving Environments: PSE)は,強化学習アルゴリズム開発で扱うデータと検証方法が異なるため,強化学習アルゴリズム開発特有の支援システムが必要となる.そこで,各分野でのPSEシステムを参考に,我々が過去に開発したPSEシステムを統合し,分散計算システム,データ管理システム,グラフ生成システムの3つのサブシステムを持ったPSEシステムを構築し,実際の強化学習アルゴリズムを用いたシミュレーションに適用した.その結果,各サブシステムを用いることで,計算実行時間は610.3秒から78.5秒,データ管理作業時間は266.7秒から1.9秒,シミュレーション結果の比較作業時間は1495.5秒から356.8秒に短縮され,比較作業時間において最も時間的な効率が得られた.短縮された時間の割合は,計算実行時間が約1/8,データ管理の作業時間が約1/140,シミュレーション結果の比較作業時間が約1/4となり,データ管理の作業時間の短縮の割合が最も高かった.このことから,データ管理の作業時間や比較作業の効率化が重要であることがわかった.一方,システム全体を用いた場合,平均経過時間は,2372.5秒から437.2秒となり,約1/5となった.仮に,計算時間のみを効率化した場合,平均経過時間は最大で約4/5,比較作業時間のみを効率化した場合,最大で約1/2にしかならない.このことから,サブシステムの組み合わせが重要であることがわかった.
  • 松尾 裕一, 岩下 武史, 谷口 幸二, 伊田 明弘
    2009 年 2009 巻 p. 20090018
    発行日: 2009/10/08
    公開日: 2009/10/08
    ジャーナル フリー
    近年、計算工学分野においては計算機の進歩とともに解くべき行列のサイズが大きくなり、大きな行列を高速に解くソルバが求められている。いろいろなソルバや市販コードが提案されているが、CPU単体による高速化には限界があるので並列計算が必須となっている。そうした背景から本研究においては、高速高安定で定評のある代数的マルチグリッドを内部ソルバとした残差切除法マトリクスソルバに対してMPIによる並列化を実装し、性能評価を行なうことにより十分な性能向上が得られることを示した。
  • 上田 匠, 内田 利弘
    2009 年 2009 巻 p. 20090019
    発行日: 2009/10/08
    公開日: 2009/10/08
    ジャーナル フリー
    電磁探査法の一種であるMagnetotelluric(MT,地磁気地電流)法は,自然に存在する磁場(地磁気)とその大地への入射に伴う電流(地電流)を測定し,その比から地下の比抵抗構造を求める探査手法であり,資源や地殻等の地下比抵抗構造の調査で広く利用されている。MT法では赤道付近で発生した雷放電が電離層での反射を繰り返し全地球を伝播する現象や,太陽活動に伴って磁気圏や電離層に発生する電磁場を信号源としている。観測は入射する磁場とそれに伴って大地に発生する電場をそれぞれ磁場センサーと電極で時間領域において測定する。データ解析は取得した時系列データを周波数変換し,電場と磁場の比から算出した見掛比抵抗を利用した地下比抵抗構造の解釈に加え,より定量的な解析として,観測データから地下比抵抗構造を推定する逆解析も実施されている。MT法の測定データから地下構造を推定することは典型的な逆問題であり,この逆問題の中では通常,既知の地下構造から測定データを予測計算する順解析を複数回行う。順解析は大地が一次元構造の場合は解析解が得られるが,2次元以上の地下構造を想定する場合は,支配方程式であるMaxwell方程式を離散化して数値的に解く。陸域におけるMT法のデータ取得から数値解析は,2次元解析まではほぼ実用化されたと言ってよい段階にあるが,3次元解析については,計算コストと精度の問題により,一部商用探査での適用例もあるが,依然として研究段階である。さらに近年,陸域のみならず,海域におけるMT法の利用への注目が高まり,極めて低比抵抗の海水を数値計算の中で取り扱う必要が出てきた。そこで,これまで利用してきた計算手法の見直しや,あらたな計算手法の研究が世界的に進められている。MT法の順計算では,主として差分法,有限要素法,積分方程式法が用いられているが,特に差分法,有限要素法における連立方程式の求解(前処理を含めた反復法)について,地球物理分野ではこれまで主にCG法とその改良形であるBiCG法やBiCGSTAB法,あるいはQMR法やGMRES法などが用いられてきたが,それ以外の反復法の適用可能性についてはあまり検討されてこなかった。また前処理についても,基本的なJacobi前処理,不完全Cholesky分解,ILU(0)などが検討されてきたが,反復法,前処理を同時に比較する報告は,電磁探査の数値計算においてはほとんどなされていない。本研究では,Maxwell方程式を差分法により電磁ポテンシャルを用いて離散定式化した後,連立方程式を反復法プログラムLis (Library of Iterative Solvers for linear systems)を援用して種々の反復法,前処理により求解し,その特徴を調べるとと共に,Lisのような優れた計算工学分野の成果を地球物理・物理探査分野へ適用する可能性を検討した。その結果,通常用いられることの多いBiCGSTAB法やQMR法に比べて高速なFGMRES法が有効であることがわかった。また複数の前処理による計算結果からは,収束回数と計算時間を考慮した総合的な計算コストの点ではILU(0)が現時点では最も効果的であることを示した。電磁探査法の3次元応答計算における線形連立方程式は条件数が大きく,定式化や実装によって有効な前処理や反復法も異なってくると考えられる。そのような中で,Lisのように可搬性が高く,簡便に種々の反復法・前処理を利用できるライブラリを適用することで,今後重要になると考えられる沿岸域における陸海同時解析や,大規模構造解析において,より効率良く3次元解析手法の開発と適用が行えると考えられる。
  • 新保 泰輝, 矢富 盟祥
    2009 年 2009 巻 p. 20090020
    発行日: 2009/10/29
    公開日: 2009/10/29
    ジャーナル フリー
    き裂進展問題において重要となるのは,き裂がどのような応力状態で,どの方向へ進展するかである.有限要素法で,き裂進展解析を行う場合の破壊基準として応力による破壊基準を採用するためには,き裂先端近傍の任意の位置で応力を精度良く求める必要がある.一般に有限要素法で求められる応力はガウスの積分点位置のみでの応力値である.その場合,き裂先端近傍の任意の位置の応力を得るためには節点変位を用いて形状関数の一階微分に相当する関数に座標を代入する事で計算する手法,または,ガウス点で取得した応力を用いて内挿補間をする手法などがあげられる.節点変位を用いて応力を算出する場合,変位法に基づく有限要素解析に用いる要素の形状関数は一般にLagrange型の形状関数であり,有限要素解析は多数の要素を配置する事による区分的な補間手法である.したがって,Lagrange型の形状関数を用いた有限要素解析では要素境界において変位の連続性は満たされるが,その微分は不連続であり要素境界において応力やひずみが不連続となる.その場合,要素辺上でき裂進展の破壊基準となる応力が最大となってしまう事があるため有限要素メッシュにより,き裂進展経路が有限要素メッシュに依存する事となる.また,ガウス積分点の応力を用いた内挿補間は補間精度の問題だけでなく,き裂面の上下での応力の不連続が表せない.そこで,一般的に用いられるLagrange型の形状関数を用いた有限要素解析を対象として,ガウス積分点位置で得られる応力を用いて応力を滑らかでかつき裂面上での応力の不連続を高精度に表現可能な新たな補間手法が必要となる.以上の事が本研究を行なった主な動機である.標本データ(例えば,ガウスの積分点で得られる応力など)を滑らかに補間する手法として,B-Splineによる補間手法がある.B-Splineによる補間手法(以下,単にB-Spline補間と表記する.)では,B-Spline補間に用いる節点を多重に配置する事により,Spline関数の連続性を任意に操作ができるため,標本データが不連続となる場合にも有用である.しかし,2次元への拡張を考えた場合,補間対象領域内で標本データが不連続となる曲線(以下,不連続線と表記する)が単純な場合ではなく,任意形状で存在する場合,あるいは,不連続線の1端ないし両端が補間領域内に存在する場合のSpline関数を求める事は容易ではない.2次元のB-Spline基底関数はx,y方向それぞれに対し,一次元のB-Spline基底関数のテンソル積で表されるため,節点は2次元平面上で格子上に配置される.ここで,不連続線を一次元と同様にして考えると不連続線がx軸に対して水平(あるいは垂直)な直線の場合には多重節点により容易に不連続線を表現する事ができる.しかし,不連続線が曲線の場合にはx,y方向節点それぞれに対し,y,x方向に節点配置,多重度が変化させなければならない.すなわち,節点間隔,多重度がx,yの関数となるため節点と格子が一致しない点が存在する.他方,2次元平面上の不連続線を表現する方法として,補間対象領域を分割し,分割領域境界で節点を多重にする事で不連続線を表現する手法が考えられるが,不連続線以外の分割領域では接合条件を与える必要があるなど煩雑である.また,補間領域や不連続線が任意形状の場合には細かな分割が必要となり,B-Spline基底関数を支持する標本データが十分でなくなる場合が生じる.したがって,2次元平面上に標本データがあり,任意の不連続線を高精度に表せるSpline補間が簡易にできる手法が望まれる.本論文ではX-FEM(拡張有限要素法)に用いられる拡張された変位近似式と同様に,Partition of Unity条件に基づきHeaviside関数と不連続パラメータを導入し,任意の不連続線を高精度に表現可能なSpline関数を新たに提案する.提案したSpline関数に対し,最小2乗法を適用する事で不連続パラメータを求める事ができる.本手法をHeaviside B-Spline補間と称する.Heaviside B-Spline補間の有効性を示すために,いくつかの不連続線を有する関数形として、1次元の場合は,階段関数,関数が連続でありその微分が不連続,関数が不連続でかつその微分が不連続な関数を与え,また,2次元の場合は,不連続線が2次元平面上で単一曲線の場合で不連続線が領域内で折れ曲がっている関数をそれぞれ標本データとして与え,補間を行った.その結果,2次元で不連続線が曲線の場合であってもGibbs現象による関数の振動は発生せず,全ての場合で2乗誤差が0となる事を示し,本補間手法の有効性を確認した.
  • 小川 慧, 青木 尊之
    2009 年 2009 巻 p. 20090021
    発行日: 2009/11/09
    公開日: 2009/11/09
    ジャーナル フリー
    In order to accelerate incompressible flow analysis, 2-dimensional Navior-Stokes equation is solved on GPU (Graphics Processing Unit). The code has been developed in CUDA and all the dependent variables are allocated on the global memory without communications between CPU and GPU memories. The SMAC algorithm is applied and the spatial derivatives are represented by the finite difference on Cartesian grid. The Red&Black Multigrid (MG) method improves the convergence of the SOR method for the pressure Poisson equation. The 3-stage Runge-Kutta method is applied to integrate in time for the advection term with 3rd-order upwind scheme. For the neighbor-grid accesses, we use the small-size shared memory as a software-managed cache. The overall performance of the incompressible flow calculation achieves 17 GFLOPS and about 14-times speed-up to compare with the 1-core CPU calculation. We carry out the computing for the flows around a circle and the Strouhal numbers of the GPU results are in good agreement with those obtained experimentally. It is found that the GPU computing has great contribution for incompressible flow analysis from the engineering view point.
  • 木野 千晶, 鈴木 喜雄, 宮村(中村) 浩子, 武宮 博, 中島 憲宏
    2009 年 2009 巻 p. 20090022
    発行日: 2009/11/17
    公開日: 2009/11/17
    ジャーナル フリー
    流体・構造・化学反応など様々な物理的・工学的現象を考慮した大規模数値シミュレーションの必要性・重要性は年々増している.大規模・複雑な数値シミュレーションからは膨大なデータが出力されるのに対し,そのデータ解析に投入できる計算機資源や研究者の認識能力には限界がある.そのためデータ全体を様々な観点から多角的に精査することは困難であり,研究者は着目すべき領域や現象を絞って可視化・解析するなど解析対象を取捨選択する必要がある.このような解析対象の取捨選択は,見落としや誤認など多くのヒューマンエラーを発生させる要因となり,大規模・複雑な数値シミュレーションを実施するに当たって大きな課題となっている.著者らはこのような大規模・複雑データ解析を支援するために,“認識能力を備えたデータ解析システムCognitive methodology based Data Analysis System (CDAS)”を開発している.CDASは「ある気泡周辺領域における全体平均速度より高い速度領域が発生している」や「応力が集中し,その最大応力が材料の降伏応力を超える領域が存在する」などの物理的・工学的意味を発見・抽出するデータ解析プロセスをデータベースに蓄えておき,それらを実行することでユーザーに物理的・工学的意味を伴ったデータ解析結果 (物理的・工学的情報) を提示するシステムを目標としている.CDASを開発することで,ユーザーは自身が指定した観点からの物理的・工学的情報に留まらず,異なる観点から解析された多種多様な物理的・工学的情報を知ることが可能となる.このような多角的な解析は,見落としや誤認などのヒューマンエラーを防ぐ上で重要であると考えられる.CDASを実現するには,様々な解析体系において実施された数値シミュレーションの結果データに含まれる物理的・工学的意味を,汎用的に処理する能力 (認識能力) を備える必要がある.ここで「認識能力」とは,意味情報を整理・検索・共有・生成し,生成された意味情報を再利用できる能力を指す.数値シミュレーションの結果データは解析体系・条件,物理量データに関する単なる数値の集合に過ぎない.このような数値集合から物理的・工学的意味を発見・抽出するには,数値情報に対しシステムに認識可能な形式で意味情報を付加する方法論を確立する必要がある.本論文ではシステムによる物理的・工学的意味情報の整理,検索,共有に留まらず,生成,再利用までを可能とするための科学概念語彙(Scientific Concept Vocabulary : SCV)情報モデルを提案している.本モデルでは,科学的知識を科学的知見・科学的情報・科学概念という階層構造によって捉えている.科学的知見とは自然現象に見られる様々な特徴を把握・理解するための情報である.この科学的知見を積み重ねることで科学的知識が構成されていく.科学的情報とは「ある観測対象が,ある観測空間における時空間分布情報」と定義され,科学的知見はこの科学的情報を分析することで得られる.この科学的情報は科学概念によって構成されたものであると捉え,この科学概念をシステムが数値的に扱えるようにするため,その意味を定義する具体的な実体データを付して記述することができるように科学概念語彙を提案した.科学概念語彙では概念の持つ物理的・工学的意味情報が数値データやアルゴリズムによって,その概念が持つ意味に即した実体データによって定義されている.よって,この実体データを用いてシステムによって新たな物理的・工学的意味果 (実体データ) を生成することが可能となる.この新たに生成された物理的・工学的意味果 (実体データ) もまた科学概念語彙情報モデルの枠組みの中で記述されることで,その生成された意味を再利用し,さらに新たな物理的・工学的意味果 (実体データ) を生成することも可能とする.本論文では科学概念語彙を用いて上昇気泡流解析および原子炉内熱流動解析に適用し,「接近した気泡」や「燃料棒周辺における液膜破断」などの物理的・工学的意味を持った情報の抽出に成功した.これにより本モデルを用いることによって,数値シミュレーション結果より物理的・工学的情報を発見・抽出するシステムの実現は十分に可能であると言える.
  • 上原 拓也
    2009 年 2009 巻 p. 20090023
    発行日: 2009/11/24
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    一方向凝固過程における微視組織形成および応力分布の変化について,二元系合金に対するフェーズフィールドモデルを用いたシミュレーションを行った.結晶核は初期配置として与え,液相領域への成長過程を対象とした計算を行った.その結果,結晶が成長するにつれてセル状の微視組織が形成され,成長先端となる固液界面は波状の形態となることを示した.また,温度条件によっては,隣接するセルの結合が生じ,このときには液滴や液相の溝状の領域が固相内に発生することを示した.次に,このような複雑な微視組織内部の応力分布の解析を行った.ただし本研究では,簡単のため,凝固収縮に伴う弾性的な応力のみを考慮している.この結果,比較的大きな引張り応力が界面領域に発生し,特に液滴や溝部が生じるときには,その周辺に大きな応力集中が見られることを示した.また,相変態の応力依存性を考慮した解析では,それを考慮しない解析とは大きく異なる組織形態が得られることを示した.さらに,機械的特性の組成依存性を考慮することによって,応力分布が大きく影響されることを示した.
  • 岡本 由仁, 山田 崇恭, 泉井 一浩, 西脇 眞二, 竹澤 晃弘
    2009 年 2009 巻 p. 20090024
    発行日: 2010/01/08
    公開日: 2010/01/08
    ジャーナル フリー
    熱エネルギーと電気エネルギーの相互変換を可能とする素子として熱電素子がある.この熱電素子の異なる適当な二箇所に電位差を与えると,素子内を熱が移動し,その結果,温度差を発生するペルチェ効果が生じる.このような効果を利用した熱電素子は,稼働部を持たないため,エネルギーの変換時に機械的な振動,騒音を発生せず,高い信頼性を持つ.これらの利点を活かし,冷蔵庫や精密機器などの高品質な温度制御モジュールとして,熱電素子は広く利用されている.また,熱電素子は小型化が可能であるため,MEMSへの応用も試みられている.さらに,熱電素子により生じる温度差を利用して,構造物の熱変形を特定の方向に生じさせることが可能となれば,熱アクチュエータを実現できる.しかし,従来までの熱変形を利用したアクチュエータは,幾つかのMEMSへの応用が報告されているものの,加熱のみによる熱変形を利用したものであり,熱電素子を用いて冷却による熱収縮を利用し,その機能の向上を図った方法論の報告はなく,その形態・形状設計は未踏の課題となっている.これらの課題を解決し,数学的・力学的理論により合理的に設計する方法として,構造最適化の適用が考えられる.特に,トポロジー最適化は,構造の形状だけでなく,形態の変更をも可能とし,大幅な機能の向上が期待できる.トポロジー最適化の基本的な考え方は構造形状決定問題の材料分布問題への置き換えである.これにより,従来のトポロジー最適化は,グレースケールと呼ばれる構造の境界が不明瞭な構造を解として許容している.このため,工学的には意味をなさない構造が最適解として得られる場合がある.このような問題を解決するための手法がいくつか提案されているものの,抜本的な解決には至っていない.他方,近年,新しい構造最適化の方法として,レベルセット法に基づく構造最適化が提案されている.この方法では,レベルセット関数の等位面により物体境界を表現し,その関数を時間発展させることで,形状変更を表現する.上述のトポロジー最適化においては,グレースケールを含む構造を解として許容していることに対して,レベルセット法においては明確な境界が存在する.しかしながら,従来までに提案されている方法は,基本的に構造の境界変動による形状最適化の考え方に基づいており,物体領域に穴が創出されるような形態変更は許容されていない.さらには,初期構造など,パラメータ設定によっては,適切な最適化が行えない問題を持つ.そこで本論文では,レベルセット法による形状表現を用いた,フェーズフィールド法の考え方に基づくトポロジー最適化を提案する.この手法では,仮想的な界面エネルギーを目的関数に加えることで.最適化問題の正則化を行っている.さらに,時間発展方程式に基づいて,レベルセット関数を更新することで最適解の候補を得る.これにより,物体領域に穴が創出されるような形態変更を許容,グレースケールを含まない明瞭な境界を持った最適構造を得る.この手法を,熱電素子を利用した熱アクチュエータの設計問題に応用した.まず,熱電効果の温度場,電位場の連成問題を解析するための平衡方程式を導いた.続いて,熱電素子を利用した熱アクチュエータの設計要件を明確化した.熱アクチュエータに必要な機能は,目的とする方向に変位する柔軟性とワークピース等からの反力に抗する剛性である.そこで,相互平均コンプライアンスの考え方に基づき,ばね要素を境界に設置することで双方を満たす目的関数を設定した.さらに,その目的関数に基づき最適化問題の定式化を行い,変位場,温度場,電位場,レベルセット関数の解析に有限要素法を用いた最適化アルゴリズムを構築した.最後に,簡単な2次元の数値例により,本論文で提案する手法の有効性を検証し,その結果,本手法により,境界が明確で,物理的に妥当なアクチュエータの構造が得られることを確認できた.
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