日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
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トポロジー最適化に基づく金属パッチアンテナの最適設計法
塚本 翔太泉井 一浩乙守 正樹大門 真野村 壮史西脇 眞二
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2012 年 2012 巻 p. 20120015

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抄録

パッチアンテナは, 誘電体ブロックと, そのブロックを挟み込むように貼り付けられたグランドプレーンと金属パッチの2枚の金属で構成されるマイクロストリップアンテナで, 軽量, 狭い受信周波数帯域, 広い指向性から, 携帯電話や全地球測位システムなど様々な電磁波デバイスのアンテナとして活用されている.
パッチアンテナの性能は, 構成部品たる誘電体ブロックと金属パッチの形状に大きく左右され, 高性能なアンテナを設計するためには, それらの形状設計の充実が極めて重要である. しかし, 現状の開発では, 設計者の試行錯誤による設計が行われており, 必ずしも高性能な設計案が得られていない.
このような問題を解決する方法として, 構造最適化の適用が考えられる. 構造最適化は, 物理的数値モデルと数学的最適化手法に基づき, 最適な構造を得る方法である. 特に, トポロジー最適化は, 構造の形状と形態の変更を可能とする最も自由度の高い方法で, この方法の適用により, 抜本的な設計案の改善を図ることも可能になる.
トポロジー最適化は, 1988年にBendsoeとKikuchiが最初に基本的な工学的アプローチを提案して以来, 性能の抜本的な改善が期待できる手法として広く研究されている. この方法は, 主に剛性最大化問題や, 固有振動数最大化問題などの構造設計問題に適用されてきたが, 近年では, 導波管, 周波数選択構造やメタマテリアルの設計など様々な電磁波デバイスの構造設計に適用されつつある. しかしながら, 設計対象としている材料は主に誘電体材料で, 直接金属を設計対象とした事例は皆無である.
パッチアンテナの構造設計問題に対しても, 誘電体ブロックを設計対象とした事例が報告されているが, この事例でも, アンテナ性能に最も寄与する金属パッチを設計対象としておらず, 必ずしも高性能な構造設計案が得られていない.
高周波を対象としたアンテナの構造設計問題において, 金属を解析対象として取り扱うためには, 表皮効果を適切に表現する方法を必要とする. 表皮効果とは, 比較的高い周波数の電磁波が導体材料の表面からごく僅かな距離だけ浸透する効果で, この効果を直接解析モデルに反映することは極めて難しく, 何らかの近似法を導入しなければならない.
この問題を解決する方法として, 金属パッチの構造設計を, 誘電体ブロックとは別に, 遺伝的アルゴリズムを用いて行う方法が提案されている. この方法では, 実測値を参照した条件を与えることで, 実測値と電磁波解析の誤差を修正し, それにより最適構造を得ている. しかしこの方法では, 最適設計を実行するにあたって常に実測値を必要とするうえ, 最適性に関する数学的な裏付けがなく, さらに最適化計算に膨大な時間を要する欠点をもつ.
そこで, 本研究では, パッチアンテナの構造設計を対象として, 表皮効果の影響を表現可能な新たな数学的近似法を導入し, その方法をもとにパッチアンテナの基本的性能を決定する金属板の構造設計を可能とするトポロジー最適設計法を構築した.
まず, パッチアンテナの設計時の性能評価法を明確化し, その性能評価法に基づく目的関数を定式化した. さらに, ロビン境界条件により, 表皮効果を考慮可能な新しい近似解析手法を提案した. そして, 表面インピーダンスの値を体積密度の関数として表現することで, 導体の材料分布を密度法により表現可能なトポロジー最適化の定式化を行った.
最後に, 提案した最適設計法を複数の数値例に適用し, 所望の特性を持ったパッチアンテナの最適構造が得られることを示した.特に, 本手法により, 指定周波数での広帯域アンテナや, 複数周波数で通信可能なアンテナの設計が可能であることを示し, 本手法の高い有用性を提示することができた.

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© 2012 The Japan Society For Computational Engineering and Science
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