日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
板厚変化を考慮したシェル要素の開発
山本 剛大山田 貴博松井 和己
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2015 年 2015 巻 p. 20150004

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抄録

金型を用いた板曲げ加工はものづくりにおいて広く用いられている. 近年, 製造プロセスの金型設計に要する時間や費用を大幅に削減したいという要望が非常に強くなり, 設計段階における数値解析技術に対する要求精度が高くなっている. 板成形に適用される数値解析技術として, 有限要素法を用いた板成形シミュレーションが挙げられる. 板成形シミュレーションに用いられるシェル要素などの構造要素には, 曲げ部分での板厚変化や金型からの反力の予測に問題がある. 構造要素は解析対象として薄板を想定しており, 板厚方向に平面応力状態を仮定している. そのため, 板厚が異なる箇所において同程度のひずみが生じる場合, 板厚が厚いほど変形量が大きくなるので, 厚板に対する解析は重要である. 厚板の挙動をより正確に把握するには連続体要素の使用が推奨されているが, メッシュ分割などのプリプロセスや計算時間を含む, 数値解析全体の計算コストが高くなることから, 厚板の数値解析に適用できる構造要素の開発に対する需要が高まっている.
板厚方向の挙動を把握するための様々なシェル要素が提案されているが, 板成形シミュレーションにおいて構造要素の計算コストが抑えられるという利点を損なうことなく, 構造要素のみで完結する数値解析手法の提案は見当たらない. そこで本研究では, 構造解析に広く用いられる, 双一次補間とひずみ仮定法にもとづく4節点シェル要素であるMITC4シェル要素に板厚方向の変形を表す変動量を導入することで, 板成形で生じる表面力を外力として扱うことができ, その外力により面外方向に分布する応力状態を表現できるシェル要素を開発する. 本研究で提案するシェル要素では, 板厚変化を表現する自由度を要素ごとに独立として定義しているため, 剛性行列を組み立てる際に縮約操作が行える. そのため, 解くべき連立方程式の未知数の数は, MITC4シェル要素などの一般的なシェル要素と同等である.
本研究では, 要素内で板厚を一定と仮定し, 板厚を評価するサンプリング点を定義する. サンプリング点において定義した板厚方向ベクトルに沿って, 面外節点を導入する. ここで, 面外節点は板厚方向の変位成分のみを持つ節点として, 面内節点とは独立に定義する. 導入した面外節点の変動量を従来のシェル要素の定式化に組み込むことで, 板厚変化を考慮した変位場を表現できる. ひずみ場は変位場の微分をとることで直接算出できるため, 面外垂直ひずみが面外節点の変動量を用いて表現される. したがって, 提案するシェル要素では, 通常のシェル要素に課される平面応力の仮定を用いることなく, 面外節点の変動量から面外垂直ひずみを算出する. 一方, 面外せん断ひずみに関しては, 通常のシェル要素と同様に要素内で一定となる.
提案するシェル要素は表面に面外節点が配置されるため, 面外節点の仮想変動量を用いて面外方向の仮想仕事式が定義できる. 表面での板厚方向の変動量が要素内で一定として扱えるため, 面外節点の仮想変動量と仕事共役な外力は表面にかかる荷重の平均値となる. 面外方向の仮想仕事式から, 提案するシェル要素では表面に作用する外力を表面上で評価できる. 一方, 面外方向に外力が作用しない場合, 提案するシェル要素では平面応力状態を表面に対する境界条件として与えることになる. したがって, 通常のシェル要素では面外方向に平面応力を仮定し, 縮退した構成則が用いられるが, 提案するシェル要素では面外方向に仮定を設けないため, 構成則は連続体要素と同様の3次元構成則が適用できる.
本論文では, 板厚変化を表現するための面外節点を導入し, 板厚方向の変形を考慮するシェル要素を開発した. 本シェル要素では面外方向のつりあい方程式を評価するために, 要素内で面内節点とは独立に面外節点を導入した. 板厚が厚くなるほど, 表面力を中央面で評価する従来のシェル要素に対する適用限界が顕著となる一方, 本シェル要素では連続体要素と同等の数値計算結果が得られることを示した. また, 有限変形に対する検証を通して, 本シェル要素が従来のシェル要素の定式化と共通する部分で, ソリッド要素との結果にずれが生じることを確認した. シェル要素に特有な変形の幾何学的表現に対する制約を把握した上で, 本シェル要素の適用範囲を設定する必要がある.

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© 2015 The Japan Society For Computational Engineering and Science
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