日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
き裂進展のための体積ロッキングを回避した有限被覆法の開発
杉山 裕文松井 和己山田 貴博
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2016 年 2016 巻 p. 20160021

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抄録

本研究では, 体積ロッキングを回避した有限被覆法によるき裂進展解析手法を提案する. 構造物内に存在するまたは新たに発生するき裂を評価するために数値シミュレーションが用いられている. 数値シミュレーションによりき裂の発生や進展を評価するためにはき裂先端近傍における破壊力学パラメータの算出が重要である. き裂進展解析に用いられる代表的な解析手法として拡張有限要素法(X-FEM)がある. X-FEMは, 一般化有限要素法に分類される手法のひとつであり有限要素法(FEM)に対して解の特性を反映するエンリッチ関数を内挿し要素内の変位場を拡張させることによりメッシュとは独立に不連続な変位場を表現できる. これによりき裂先端近傍の特異応力場を精度良く評価できるので, J積分や応力拡大係数を用いたき裂進展解析が行われている.
一方で, X-FEMと同じ一般化有限要素法に分類される解析手法に有限要素法(FCM)がある. FCMでは, 被覆と呼ばれる節点を代表点とする近似単位を定義する. ここで, 被覆を定義するために新たに近似関数を追加する必要はなく, 従来のFEMで用いられる要素をそのまま適用できる. また, X-FEMと同様にメッシュとは独立に不連続な変位場を扱えるので不連続面進展解析への適用が行われている.
き裂進展解析で対象とする構造物は様々であり破壊形態も異なる. 破壊形態は主に脆性破壊, 延性破壊や疲労破壊に分類できる. 脆性破壊や疲労破壊は塑性変形を伴わない破壊形態であるのに対して, 延性破壊は大きな塑性変形を伴い破壊にいたる. 脆性破壊や疲労破壊の数値シミュレーションでは, 弾性解析を用いた研究が数多く報告されている. 一方, 延性破壊シミュレーションは大変形解析と弾塑性解析が必要となることより, X-FEMやFCMを用いた報告例は少ない. また, 塑性が卓越した領域の解析では非圧縮性により体積ロッキングが発生することが知られている. 体積ロッキングを回避しなければ適切な変形を評価できず応力評価にも影響する. X-FEMでは適当なエンリッチ関数を選択する必要があるが, 線形問題に比べ非線形問題では内挿する関数の選択が難しい. 対して, FCMではFEMで用いられる要素をそのまま使用できるので, 適切な要素を選択することで体積ロッキングを回避できる.
そこで, 本研究では延性破壊不連続面進展解析へFCM適用することを目指し, 体積ロッキングを回避したFCMを開発する. これまでのFCMでは4辺形要素や3角形要素が用いられてきたが, 3次元解析への拡張を考慮し要素形状は3角形要素とする. 体積ロッキングの回避方法としてFCMに高次の近似関数を用いた研究が報告されているが完全には回避できていない. また, 3角形2次要素では不連続面が発生した後に要素形状の決定が不安定になる.
本論文ではP1-iso-P2/P0要素に注目する. P1-iso-P2/P0要素は圧力および体積ひずみが要素内で一定と仮定した要素であり, FEMで体積ロッキングへの有効性が確認されている. FCMはFEMで用いられている要素を特別な作業を必要とせず使用できるので, 非圧縮性による体積ロッキングを回避するためにP1-iso-P2/P0要素を用いたFCMを開発する. 不連続変形の発生条件は先行研究で石井らが用いた「ある点における物理被覆の最大主応力が引張強度に達したときに, 最大主応力方向と垂直に不連続面が発生する」とする. また, 発生位置についても石井らと同様の不連続変形を含む辺を主応力の比によって辺を内分する方法を用いる.
数値解析例を通して, まず, 非圧縮条件下で体積ロッキングが回避できたことを異なるポアソン比の誤差収束速度を比較することで確認した. また, 応力分布をCST要素と比較することで微圧縮条件下で応力の表現能力が向上したことを示した. 次に, き裂進展解析を行いき裂進展経路における応力振動の影響が取り除かれたことを受けより自然なき裂進展が表現できた. 以上より, 本手法が非圧縮性に起因する体積ロッキングに有効であることを示した.

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© 2016 The Japan Society For Computational Engineering and Science
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