非圧縮の超弾性体をGLS (Galerkin/Least-Squares) 有限要素法によって解析した. 非圧縮性変形を有限要素法で取り扱う場合, 用いる要素や変数の補間に工夫が必要である. 微小変形理論に基づく線形ひずみによる弾性体や塑性体においては, penalty法により非圧縮条件を導入し, 変位に選択低減積分を用いる方法や, Lagrange未定乗数法によって変位と圧力を未知数とする混合法を用い, 変位より低次の補間関数を圧力用いる方法が用いられる.
変形が大きな場合の, 非圧縮超弾性体の有限要素法についても同様な手法が用いられるが, ひずみが変位の非線形関数となることが微小変形と異なる. これまで選択低減積分や, 混合型要素について詳細な要素特性の基礎的検討がなされ, 非圧縮の超弾性体の有限要素解析法はほぼ確立されている. これらの手法は, 変位と圧力に異なる補間関数を使うことが基本となっている.
ところで, 流体力学の分野でも非圧縮性流の解析手法は重要である. 数値流体力学の分野においての有限要素法では近年, GLSを導入した手法が多く用いられている. これは, 支配方程式そのものの最小自乗形式を, 弱形式の微分方程式に導入するものである. この手法の特徴は, 速度と圧力に関して同じ補間関数を用いることができることである. そのため, 1次要素による解析が可能になる. 1次要素の三角形要素や四面体要素では, 自動分割法が確立されている. 非圧縮固体解析においても1次要素を使用することができれば, 要素分割において便利である.
本研究では1次要素を, 非圧縮の固体解析への使用を可能とすることを目的として, 流体解析の分野で成功を収めているGLS法を, 固体解析の分野に応用する. 固体の変形が微小な場合, ひずみが変位に関して線形となるから, 式の形は流体問題と同じである.
本報告では変形が数十%程度の大きさをターゲットとし, ひずみが幾何学的に非線形な問題を取り上げ, 超弾性体のGLS解析を行った. まず, total-Lagrange法によって定式化を行い, 有限ひずみの解析にLagrange未定乗数法によって非圧縮性条件を導入した汎関数を考える. そして, 第1Piola-Kirchhoff応力で表した釣り合い方程式の最小自乗形式を安定化項として導入する. これの変分をGLS項として用いる. 非圧縮条件は, 低減不変量をひずみエネルギー関数に用いることによって体積変形を分離し, 有限変形問題に導入する. 尚, 本定式化で得られた非線形方程式はNewton-Raphson法により解を求めるが, その線形化の際に必要な微係数は, 数値微分によって求めた.
計算に使用する要素は1次要素であり, 二次元計算では三節点三角形要素, 三次元計算では四節点四面体要素を用いた. さらに, アイソパラメトリック要素では, 二次元計算では四節点四角形要素, 三次元計算では八節点六面体要素を用い, それらの要素で変位と圧力に同じ形状関数を用いた. アイソパラメトリック要素の場合は, 変位, 圧力に関してfull integrationによって計算する.
以上でGLS項を導入した有限要素法による解析例を示して考察する. 計算の2次元問題として, 長方形のブロックの圧縮解析を行った. 粗い要素分割では, 初期高さの50%程度の圧縮が可能であった. また全計算を通じて, 各要素の合計の体積変化はゼロであり非圧縮性は満たされていた. しかし, ある部分の体積は増え, ある部分は減少するという状態が現われ, 特に工具の角部の要素の体積変化が大きく, その部分が異常に変形していた.
細かい要素分割を使用すると, 局所変形が一部に集中した場合には1つの要素が極端に大きく変形するため, 初期高さの40数%程度の圧縮が限界であった. 四角形要素による解析では, 変形が小さな領域では三角形要素の結果と大きな差はなかった. しかし四角形要素は凹型に変形すると解析不能になる. 従って大きな変形のシミュレーションにおいては, 四角形要素より三角形要素の方が適していると言える.
安定化パラメータの影響を調べたが, 安定化パラメータを大きくすると圧力分布がなめらかになることが示された. 局所的体積変化が少ない領域においては, 安定化パラメータの変化は, 要素変形形状や圧縮力, 相当応力分布に対して, ほとんど影響がなかった. 従って, GLS解析を固体に応用する場合, 局所的体積変化が少ない範囲で使用すべきであると言える.
三次元解析においては細長い棒をねじる問題を取り扱った. 360度のねじり問題も, 微小変形を繰りかえすことにより, total-Lagrange法により解析できた. さらにねじった後, 圧縮変形させる計算も行ったが, ねじられたまま長手方向に均一的に変形した. 一方, この細長い棒の計算モデルに初期不整を与えた場合は曲げ座屈し, ねじりモーメントが解放されてゆく様子がシミュレーションできた.
以上のように, GLS法による1次要素により, 今回示した超弾性体のような非線形ひずみ問題に対しても, 40%程度の圧縮変形問題や, 360度の回転, 座屈を含む大きな変形が解析可能であることが明らかになった. またGLS法による解析結果は、これまで示されている混合補間などによる参照解とよい対応が認められ, 本手法の有効性が確認された.
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