日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
4節点四面体要素を用いたF-bar援用の平滑化有限要素法による微圧縮性材料の大変形動的陽解法
飯田 稜也大西 有希天谷 賢治
著者情報
ジャーナル フリー

2017 年 2017 巻 p. 20170001

詳細
抄録

ゴム材料をはじめとする微圧縮性材料は, 自動車のタイヤやポンプのダイヤフラムなどの様々な工業製品に広く用いられている. その挙動は大変形を伴う場合が多く材料特性そのものも複雑なものが多いため, 有限要素法でシミュレーションする際には様々な問題がつきまとうことが知られている. 特に圧力振動とロッキングと呼ばれる現象は, 微圧縮性材料の解析を困難なものとする最大の要因である.
微圧縮性材料の大変形解析のために様々なアプローチが提案されてきたが, いずれも精度や安定性において何らかの問題を抱えている. 汎用コードに組み込まれている微圧縮性材料の解析のための代表的手法としては, 選択的次数低減積分要素とu/pハイブリッド要素が挙げられる. 選択的次数低減積分要素は, 四角形要素および六面体要素の数値積分に際して体積変化に関する項の積分点数を減らすことによって微圧縮性の問題を解決している. u/pハイブリッド要素は, 従来の変位型変分原理の場合は厳密に成り立っていた応力-ひずみ関係式をLagrangeの未定定数を用いて弱形式の形で満足させるよう定式化したものであり, 混合型変分原理に基づいて計算される要素である.
一方で複雑構造をもつ微圧縮性材料の動解析は多岐に渡る工学の分野において重要であり, 容易にメッシュ生成可能な四面体要素を用いた微圧縮性材料の動的陽解法の需要は高い. 加えて, 大変形問題や接触においては中間節点をもつ高次要素は精度の低下に繋がるため, 4節点四面体 (T4) の要素を用いた解析が好ましい. しかし, 標準的な4節点四面体要素は定ひずみ要素であり, 元より積分評価点を1つしかもたないため選択的次数低減積分を適用することができない. また, u/pハイブリッド要素はLagrange未定乗数法による付帯条件を課す必要性から一般に陽解法に用いることができない. 近年の研究でGilらは混合型stabilized-Petrov-Galerkinに基づく4節点四面体要素を用いた動的陽解法を提案した. しかしGilらの手法は高精度な反面, 大幅な未知数の増加によって, その高速化は今なお課題である. このため, 4節点四面体要素を用いた微圧縮性材料の動的陽解法における一般的手法は未だ確立されておらず, 高精度な解析は実現されていない.
近年, 4節点四面体要素の高精度な有限要素解析の手法として平滑化有限要素法 (Smoothed Finite Element Method: S-FEM) が注目を集めている. 従来の有限要素法では各要素ごとに積分を実行し節点内力ベクトルや剛性マトリクスを組み立てていくのに対し, 平滑化有限要素法では要素の辺, 面, 節点などの周辺に設けたひずみ平滑化領域ごとに積分を実行する. 辺 (エッジ) ごとに積分を実行する場合, Edge-based S-FEM (ES-FEM) と呼ばれ, 曲げ変形が支配的な問題において高精度な解が得られることが知られている. しかし, 微圧縮性材料の解析においては従来の4節点四面体要素と同じように体積ロッキングや圧力振動といった問題が引き起こされてしまう. 節点ごとに積分を実行する場合, Node-based S-FEM (NS-FEM) と呼ばれ, ロッキングを抑制し圧力振動を緩和することができる要素として知られている. しかし, 擬似低エネルギーモードと呼ばれる変形モードが存在するため低精度の解しか得られないことが知られている.
近年, 大西らによってF-bar法を援用した4節点四面体要素の平滑化有限要素法であるF-barES-FEM-T4が提案された. F-barES-FEM-T4では, 乗算分解された変形勾配のうち等積変形成分はES-FEM-T4と同様に計算する. 一方, 体積変形部分は体積変化率をNS-FEM-T4に倣って繰り返し平滑化することで圧力振動と体積ロッキングを同時に抑制している. F-barES-FEM-T4は微圧縮性材料の静解析においてロッキングおよび圧力振動を抑制した良好な結果を示している. また, F-barES-FEM-T4は純粋な変位型に基づく定式化である. したがって陽解法への拡張が容易であり, 動的問題においても静解析同様の性能を発揮することが期待される.
本研究では静的陰解法での評価に限られていたF-barES-FEM-T4を動的陽解法へと拡張することを試みる. 動的陽解法の基本的な枠組みは標準的なFEMを踏襲し, 節点内力ベクトルの計算にのみF-barES-FEM-T4の手法を取り入れる. 本稿では微圧縮性材料を用いた動解析およびモード解析を実施し, その性能を評価する. また, モード解析の結果を通してF-barES-FEM-T4の動的問題における安定性について論ずる.

著者関連情報
© 2017 The Japan Society For Computational Engineering and Science
次の記事
feedback
Top