【背景】
航空宇宙分野で用いられている高比強度, 高比剛性CFRP積層板は, マトリクス割れ, 層間はく離, 繊維破断などが連成した複雑な損傷形態を取るため, 必要以上に高い設計基準が設けられている. CFRPの長所を活かした的確な設計基準を構築するために, このような損傷を正確に再現することができる高精度で高効率な解析手法の構築が求められている.
【従来の研究】
Hallettらは, プライ層間と割れが生じる可能性があるマトリクスにあらかじめ結合力モデル(CZM)を考慮したインターフェース要素を挿入したモデルを用いた有限要素法(FEM)により, CFRP積層試験片の損傷進展解析を実施し, 実験結果と概ね整合した結果が得られることを示した. しかしながら, そのような方法においてはマトリクス割れの方向に沿ったメッシュ分割が必要となり, モデル作成に多大な労力が必要となる.
著者らは, 層間はく離を通常のFEMで用いられるインターフェース要素で, マトリクス割れをXFEMの内挿関数でモデル化し, マトリクス割れと層間はく離に関しては, Camanhoらにより開発されたバイリニア型のCZMを導入する準三次元XFEM解析手法を提案した.
【目的】
提案した準三次元XFEMを, CFRP積層板であるDCB, ENF, TCT試験解析によりコード検証を行い, NHT, OHT試験解析により妥当性検証を行う. 加えて, 離散化方程式の解法, 陽解法における計算条件, 用いるCZMの種類による解や収束性の影響についても検証する.
【方法】
‹離散化方程式の解法›
・静的陰解法
静的陰解法では, ニュートンラプソン法による繰り返し計算を用いて解を得るが, 結合力モデルの状態によっては, 収束解が得られない場合がある.
・動的陽解法
動的陽解法で用いられる中央差分法は条件付き安定であり, 安定時間増分はクーラン条件に制限される. 一般に安定時間増分値は非常に小さな値となり, 計算量は膨大になるため, 載荷速度を増大させる現象加速や質量密度を大きくするマススケーリングが用いられる.
・陰解法から陽解法への切り替え手法
ニュートンラプソン法に基づく陰解法において, 解が得られなくなる直前の収束点で, 中央差分法による動的陽解法に切り替える.
‹結合力モデル›
・通常のバイリニア型CZM
インターフェース要素や要素の不連続面における積分評価点において, き裂面に作用する相対変位と結合力との間に関係を与えることで, 応力に基づいたき裂の発生およびエネルギーに基づいたき裂の進展を考慮できる.
・Zig-zag CZM
陰解法による計算で収束解が得られない原因として, 結合力モデルの接線剛性が負剛性になることが考えられる. その問題を改善するため, 負剛性を持たないように軟化曲線を修正したものをZig-zag CZMという.
【結果】
解析対象毎の結果は次の通りである.
・DCB試験解析
通常のCZMおよびZig-zag CZMを用いた静的陰解法と動的陽解法による計算を実施した. 開口変位と荷重の関係を示すと, 動的陽解法では荷重低下部でわずかな振動が残っているが, 全ての計算手法において理論解とほぼ整合した妥当な結果が得られた.
・ENF試験解析
通常のCZMおよびZig-zag CZMを用いた静的陰解法による計算を実施し, 全ての方法において, 収束解が得られた. 荷重点変位(LPD)と荷重の関係を示すと, はり理論解と概ね整合した妥当な結果が得られた.
・TCT試験解析
通常のCZMおよびZig-zag CZMを用いた静的陰解法による計算を実施し, いずれの方法でも, 収束解を得ることができた. LPDと平均応力の関係を示すと, 用いるFEMモデル, 結合力モデルの違いによる解の差異はなく, 参照解と概ね整合した結果が得られた.
・NHT試験解析
通常のCZMとZig-zag CZMを用いた静的陰解法および動的陽解法, 通常のCZMを用いた切替手法の計算を実施した. 通常のCZMを用いた静的陰解法による計算のみ, 途中で収束解が得られなかったが, 他の計算においては収束解を得ることができた. したがって, Zig-zag CZMによる静的陰解法は静的陰解法の収束性の問題を改善し, 実験値と整合した妥当な結果を与えることが分かった.
・OHT試験解析
マトリクス割れを各層に2本ずつモデル化したSimple crack modelと各層に1mm間隔の複数本のマトリクス割れをモデル化したMultiple crack modelを対象に, Zig-zag CZMを用いた静的陰解法による計算を実施した. 計算によって得られたLPDと平均応力の関係を示すと, Simple crack modelの方がMultiple crack modelよりも若干高い強度が得られたが, 全ての解析ケースにおいて良い整合が得られた.
【課題】
今後は, 繊維破断のモデル化や熱残留応力を導入して解析精度の向上を目指す.
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