日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
2017 巻
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  • 飯田 稜也, 大西 有希, 天谷 賢治
    2017 年 2017 巻 p. 20170001
    発行日: 2017/01/17
    公開日: 2017/01/17
    ジャーナル フリー
    ゴム材料をはじめとする微圧縮性材料は, 自動車のタイヤやポンプのダイヤフラムなどの様々な工業製品に広く用いられている. その挙動は大変形を伴う場合が多く材料特性そのものも複雑なものが多いため, 有限要素法でシミュレーションする際には様々な問題がつきまとうことが知られている. 特に圧力振動とロッキングと呼ばれる現象は, 微圧縮性材料の解析を困難なものとする最大の要因である.
    微圧縮性材料の大変形解析のために様々なアプローチが提案されてきたが, いずれも精度や安定性において何らかの問題を抱えている. 汎用コードに組み込まれている微圧縮性材料の解析のための代表的手法としては, 選択的次数低減積分要素とu/pハイブリッド要素が挙げられる. 選択的次数低減積分要素は, 四角形要素および六面体要素の数値積分に際して体積変化に関する項の積分点数を減らすことによって微圧縮性の問題を解決している. u/pハイブリッド要素は, 従来の変位型変分原理の場合は厳密に成り立っていた応力-ひずみ関係式をLagrangeの未定定数を用いて弱形式の形で満足させるよう定式化したものであり, 混合型変分原理に基づいて計算される要素である.
    一方で複雑構造をもつ微圧縮性材料の動解析は多岐に渡る工学の分野において重要であり, 容易にメッシュ生成可能な四面体要素を用いた微圧縮性材料の動的陽解法の需要は高い. 加えて, 大変形問題や接触においては中間節点をもつ高次要素は精度の低下に繋がるため, 4節点四面体 (T4) の要素を用いた解析が好ましい. しかし, 標準的な4節点四面体要素は定ひずみ要素であり, 元より積分評価点を1つしかもたないため選択的次数低減積分を適用することができない. また, u/pハイブリッド要素はLagrange未定乗数法による付帯条件を課す必要性から一般に陽解法に用いることができない. 近年の研究でGilらは混合型stabilized-Petrov-Galerkinに基づく4節点四面体要素を用いた動的陽解法を提案した. しかしGilらの手法は高精度な反面, 大幅な未知数の増加によって, その高速化は今なお課題である. このため, 4節点四面体要素を用いた微圧縮性材料の動的陽解法における一般的手法は未だ確立されておらず, 高精度な解析は実現されていない.
    近年, 4節点四面体要素の高精度な有限要素解析の手法として平滑化有限要素法 (Smoothed Finite Element Method: S-FEM) が注目を集めている. 従来の有限要素法では各要素ごとに積分を実行し節点内力ベクトルや剛性マトリクスを組み立てていくのに対し, 平滑化有限要素法では要素の辺, 面, 節点などの周辺に設けたひずみ平滑化領域ごとに積分を実行する. 辺 (エッジ) ごとに積分を実行する場合, Edge-based S-FEM (ES-FEM) と呼ばれ, 曲げ変形が支配的な問題において高精度な解が得られることが知られている. しかし, 微圧縮性材料の解析においては従来の4節点四面体要素と同じように体積ロッキングや圧力振動といった問題が引き起こされてしまう. 節点ごとに積分を実行する場合, Node-based S-FEM (NS-FEM) と呼ばれ, ロッキングを抑制し圧力振動を緩和することができる要素として知られている. しかし, 擬似低エネルギーモードと呼ばれる変形モードが存在するため低精度の解しか得られないことが知られている.
    近年, 大西らによってF-bar法を援用した4節点四面体要素の平滑化有限要素法であるF-barES-FEM-T4が提案された. F-barES-FEM-T4では, 乗算分解された変形勾配のうち等積変形成分はES-FEM-T4と同様に計算する. 一方, 体積変形部分は体積変化率をNS-FEM-T4に倣って繰り返し平滑化することで圧力振動と体積ロッキングを同時に抑制している. F-barES-FEM-T4は微圧縮性材料の静解析においてロッキングおよび圧力振動を抑制した良好な結果を示している. また, F-barES-FEM-T4は純粋な変位型に基づく定式化である. したがって陽解法への拡張が容易であり, 動的問題においても静解析同様の性能を発揮することが期待される.
    本研究では静的陰解法での評価に限られていたF-barES-FEM-T4を動的陽解法へと拡張することを試みる. 動的陽解法の基本的な枠組みは標準的なFEMを踏襲し, 節点内力ベクトルの計算にのみF-barES-FEM-T4の手法を取り入れる. 本稿では微圧縮性材料を用いた動解析およびモード解析を実施し, その性能を評価する. また, モード解析の結果を通してF-barES-FEM-T4の動的問題における安定性について論ずる.
  • Lijun LIU, Masao OGINO, Katsumi HAGITA
    2017 年 2017 巻 p. 20170002
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー
    For large-scale numerical simulations on supercomputers, data transfer and storage present significant efficiency and productivity issues. Therefore, the jointed hierarchical precision compression number-data format (JHPCN-DF) technique was proposed for efficient visualization and analysis of plasma particle-in-cell simulation data. It is also available for lossless and lossy compression with user-defined errors. We implement a lossy compression method of JHPCN-DF in finite element code and evaluate the compression effectiveness and compression data accuracy in linear static and dynamic structural analyses. Our technique achieves the required accuracy, even for dynamic problems, and provides a significant increase in compression performance for variable datasets.
  • 細田 尚志, 前田 太陽, 井上 聡, 石崎 博基, 権藤 俊彦
    2017 年 2017 巻 p. 20170003
    発行日: 2017/02/21
    公開日: 2017/02/21
    ジャーナル フリー
    In order to educate teenager internet literacy on social network service, we have developed a Problem Solving Environment to evaluate the literacy-level of their messages on twitter for their teachers and them. We propose a method the system provides effective recognition for their risks. And we adapt the Naive Bayes classifier to evaluation for tweets on Twitter based on pattern-based classifier. In this result, the classification accuracy for word patterns increases from 39.6-57.6% to 68.0-79.9% using Naive Bayes classifier on a set of 3000 training data sets, and users obtain internet literacy skills base on this system.
  • 佐藤 維美, 村松 眞由, 寺田 賢二郎, 渡辺 智, 八代 圭司, 川田 達也, 横川 晴美
    2017 年 2017 巻 p. 20170004
    発行日: 2017/03/17
    公開日: 2017/03/17
    ジャーナル フリー
    固体酸化物形燃料電池 (Solid Oxide Fuel Cell : SOFC) は発電効率が高い燃料電池である. しかし, 発電は空気と燃料の水素を供給し800~1000℃の高温で行われるため, 運転中のSOFC構成部材は, 高温による熱膨張と, 酸素ポテンシャルに起因する還元膨張によって機械的劣化を起こす. セルメーカ各社ではそれぞれ独自の形状のSOFCセルを開発しているが, その耐久性を担保するために, 電池内の現象を把握し, 機械的劣化を考慮した設計の必要性が高まっている.
    Teradaらは, SOFCの非定常電気化学モデルを提案するとともに, 数値シミュレーションによる電気化学解析を行うことで酸素ポテンシャル分布を予測した. この際, セル構成材料内部の酸素ポテンシャルの経時変化から算出した還元ひずみと, 温度の経時変化よる熱ひずみを構造解析に用いており, SOFCの機械的劣化予測のためのプログラムを開発してきた. しかしながら, このプログラムは汎用性に乏しく, セルメーカ各社が独自形状のSOFCセルに適応させることが困難であった. また, 材料特性として実装されている材料以外の材料には対応できないという問題点も有している. さらに, 得られた数値解析結果と実験データとの定量的な比較には至っていない.
    そこで本研究では, 汎用FEMソフトの利用を前提として, Teradaらが開発を進めてきた非定常電気化学シミュレーションに基づいて, SOFCの機械的劣化解析プログラムを汎用化およびロバスト化し, SOFCを提供している多くのメーカーが比較的容易に利用可能になる解析システムを構築した. さらにボタン型セルの動作環境を想定した実験と, 本研究で構築したシステムを使用した解析の結果を比較することによって, 本システムの検証を行った.
  • 志村 彩夏, 大西 有希, 天谷 賢治
    2017 年 2017 巻 p. 20170005
    発行日: 2017/04/24
    公開日: 2017/04/24
    ジャーナル フリー
    本論文は電着塗装シミュレーションにおける塗膜析出前の濁りと塗膜析出開始時の電流密度による履歴依存性に着目した塗膜抵抗モデルおよび塗膜成長モデルを新たに提案するものである.
    塗膜析出前の濁りは通電開始後に被塗装物付近で中和された塗料粒子が被塗装物に付着する少し前のものであり, 電着後の水洗時に洗い流されてしまい塗膜としては残らない. しかし, この濁りには電気抵抗が存在し, イオンの拡散を阻害する効果があると推察される. また, 同じ膜厚かつ同じ電流密度でも, 電着条件によって膜厚の成長速度に差が生じることが実験より判明しており, 膜厚と電流密度以外に適当な状態量が見当たらないことから析出効率が何らかの履歴依存性の影響を受けていることが推察される.
    そこで本研究では, 新たに塗膜析出前の濁りの影響を加えた仮想膜厚を導入することで濁りの抵抗を考慮した新たな塗膜抵抗モデルを定めた. また, 一枚板電着における定電圧および定電流電着の各条件において膜厚成長速度に関する実験データの精査から, 塗膜析出開始時のカソード電流密度が小さい程その後の析出効率が大きくなることに着目し, 析出開始時のカソード電流密度によりモデルパラメータが変化する新たな塗膜成長モデルを定めた.
    提案モデルを用いて一枚板電着実験を数値解析で再現し, 実験結果と比較することで提案手法の精度検証を行った. 行った実験は, 電圧制御 (CV) 電着と電流制御 (CC) 電着に加えて, それぞれスターラーにより一定の撹拌速度で撹拌した場合 (撹拌あり) と撹拌しない場合 (撹拌なし) の全4通りである. 電圧制御 (CV) 電着解析の結果, 新モデルにより電流時刻歴および膜厚時刻歴の予測精度が従来モデルよりも向上することを示した. また, 電流制御 (CC) 電着解析についても, 撹拌なし弱電流を除き高精度に予測できることを示した. 以上により, 新モデルの有効性を示した.
  • 油橋 信宏, 越塚 誠一
    2017 年 2017 巻 p. 20170006
    発行日: 2017/04/28
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    製造業者は、様々なタイプの顧客による使用に対してロバストな製品を提供しなければならない。本研究では、品質工学を使用して誤差の影響を考慮したクランクケース形状の最適化を実施した。クランクケース内の油の挙動は、MPS法によって計算して直交表L18を用いて最適化を行った。設計パラメータは、クランクケースの形状とし、誤差はオイルの粘度およびクランクシャフトの回転速度を取り上げた。さらに、クランクケースを試作してクランクケースの油温を測定し、計算結果の妥当性を確認した。
  • 山東 篤
    2017 年 2017 巻 p. 20170007
    発行日: 2017/05/11
    公開日: 2017/05/11
    ジャーナル フリー
    重合メッシュ法において, 局所形状等のモデリングのために重ね合わせた2種類のメッシュの相互作用を表す項(以後, これを連成項と記述する)を計算する際に特殊な数値積分が必要となる. 連成項の数値積分において, その被積分関数がグローバル要素境界で不連続となることが高精度な数値積分を困難にしている原因である.
    著者は, 被積分関数の不連続境界に対して幾何学的な処理を行い, この問題を根本から解決する方法を提案した. それはデローニー分割を用いて不連続関数を含む積分範囲を連続な関数のみを含む三角形または四面体の部分領域に分割し, それぞれの部分領域でガウス積分し, その総和を取ることで高精度な積分値を得る方法である.
    ズーミングと局所形状のモデリングという2つの特徴を持つ重合メッシュ法は, き裂進展解析でよく用いられている. それ以外にも, ボクセル有限要素法において, ギザギザ状となる応力評価点の表面を滑らかに補正する用途も考えられる. ボクセル有限要素法においてギザギザな表面に不適切な応力分布が生じる問題に対して, 多重エンリッチメントを用いて複雑な材料界面を評価した先行研究などがある. 重合メッシュ法を用いてこの問題を克服する場合, ボクセルをグローバルメッシュとし, 3D-CADで作図した形状を四面体二次要素でモデル化し, それをローカルメッシュとして重ね合わせる方法が考えられる. この方法は, ソルバーさえ構築できれば, その他のモデリングおよび可視化に汎用CAEソフトウェアをそのまま使用できる利点がある. その際には, ボクセル要素(六面体一次要素)と, 解析モデルによっては曲面を有する高次要素の重合メッシュ解析となるが, 前述の幾何学的処理に基づく高精度数値積分法は直線・平面を持つ要素を対象としたものであるため, 積分範囲に曲面を含む高精度数値積分法の開発が必要となる.
    本論文は, 前報で提案した直線・平面を持つ要素を用いた三次元問題のための高精度数値積分手法を, 曲線・曲面を含む高次要素を用いた三次元重合メッシュ法に適用できるよう拡張することを目的とする.
    曲面を有する積分領域に汎用性のある幾何学的処理を行うことは容易でない. よって, 積分領域の曲面境界は要素の中間節点と頂点の追加によって平面に分割することで近似する. この領域分割によって, 曲面を持つ高次要素に対して前報の提案手法をそのまま適用できる.
    3種類の計算例を用いて手法の性能および汎用性を示した. 第一の計算例では二次元解析を用いて計算時間と積分精度を既存の手法と比較した. 計算モデルは穴あき板の引っ張り問題とし, 穴の部分を6節点三角形要素のローカルメッシュでモデリングした. 第二の計算例では微視構造を持つ三次元解析において本提案手法が窪みを埋めることなく, かつ被積分関数の不連続境界に沿って適切に積分範囲を分割できるかを検証した. 計算モデルは2つの気泡を有する円柱棒の引張問題であり, 気泡周辺を3D-CADで描画したのち10節点四面体要素でモデリングしたメッシュをローカルメッシュとして用いた. 曲面を持つローカル要素に注目し, 三次元問題でも本提案手法を用いて適切な領域分割ができることを確認した. 第三の計算例では, ボクセル要素に曲面を有する局所形状を付与する用途を示した. グローバルメッシュは四角柱をボクセル分割したものとした. ローカルメッシュは半円柱状に四角柱をくり抜く形状であり, 10節点四面体要素でメッシュ生成した.
    これらの計算結果から, 本提案手法は幾何学的処理に計算時間を要する点が課題であるが三次元問題でも想定どおりの領域分割を達成できることが明らかとなった.
  • 島崎 紗緒里, 長嶋 利夫
    2017 年 2017 巻 p. 20170008
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー
    【背景】
    航空宇宙分野で用いられている高比強度, 高比剛性CFRP積層板は, マトリクス割れ, 層間はく離, 繊維破断などが連成した複雑な損傷形態を取るため, 必要以上に高い設計基準が設けられている. CFRPの長所を活かした的確な設計基準を構築するために, このような損傷を正確に再現することができる高精度で高効率な解析手法の構築が求められている.
    【従来の研究】
    Hallettらは, プライ層間と割れが生じる可能性があるマトリクスにあらかじめ結合力モデル(CZM)を考慮したインターフェース要素を挿入したモデルを用いた有限要素法(FEM)により, CFRP積層試験片の損傷進展解析を実施し, 実験結果と概ね整合した結果が得られることを示した. しかしながら, そのような方法においてはマトリクス割れの方向に沿ったメッシュ分割が必要となり, モデル作成に多大な労力が必要となる.
    著者らは, 層間はく離を通常のFEMで用いられるインターフェース要素で, マトリクス割れをXFEMの内挿関数でモデル化し, マトリクス割れと層間はく離に関しては, Camanhoらにより開発されたバイリニア型のCZMを導入する準三次元XFEM解析手法を提案した.
    【目的】
    提案した準三次元XFEMを, CFRP積層板であるDCB, ENF, TCT試験解析によりコード検証を行い, NHT, OHT試験解析により妥当性検証を行う. 加えて, 離散化方程式の解法, 陽解法における計算条件, 用いるCZMの種類による解や収束性の影響についても検証する.
    【方法】
    ‹離散化方程式の解法›
    ・静的陰解法
    静的陰解法では, ニュートンラプソン法による繰り返し計算を用いて解を得るが, 結合力モデルの状態によっては, 収束解が得られない場合がある.
    ・動的陽解法
    動的陽解法で用いられる中央差分法は条件付き安定であり, 安定時間増分はクーラン条件に制限される. 一般に安定時間増分値は非常に小さな値となり, 計算量は膨大になるため, 載荷速度を増大させる現象加速や質量密度を大きくするマススケーリングが用いられる.
    ・陰解法から陽解法への切り替え手法
    ニュートンラプソン法に基づく陰解法において, 解が得られなくなる直前の収束点で, 中央差分法による動的陽解法に切り替える.
    ‹結合力モデル›
    ・通常のバイリニア型CZM
    インターフェース要素や要素の不連続面における積分評価点において, き裂面に作用する相対変位と結合力との間に関係を与えることで, 応力に基づいたき裂の発生およびエネルギーに基づいたき裂の進展を考慮できる.
    ・Zig-zag CZM
    陰解法による計算で収束解が得られない原因として, 結合力モデルの接線剛性が負剛性になることが考えられる. その問題を改善するため, 負剛性を持たないように軟化曲線を修正したものをZig-zag CZMという.
    【結果】
    解析対象毎の結果は次の通りである.
    ・DCB試験解析
    通常のCZMおよびZig-zag CZMを用いた静的陰解法と動的陽解法による計算を実施した. 開口変位と荷重の関係を示すと, 動的陽解法では荷重低下部でわずかな振動が残っているが, 全ての計算手法において理論解とほぼ整合した妥当な結果が得られた.
    ・ENF試験解析
    通常のCZMおよびZig-zag CZMを用いた静的陰解法による計算を実施し, 全ての方法において, 収束解が得られた. 荷重点変位(LPD)と荷重の関係を示すと, はり理論解と概ね整合した妥当な結果が得られた.
    ・TCT試験解析
    通常のCZMおよびZig-zag CZMを用いた静的陰解法による計算を実施し, いずれの方法でも, 収束解を得ることができた. LPDと平均応力の関係を示すと, 用いるFEMモデル, 結合力モデルの違いによる解の差異はなく, 参照解と概ね整合した結果が得られた.
    ・NHT試験解析
    通常のCZMとZig-zag CZMを用いた静的陰解法および動的陽解法, 通常のCZMを用いた切替手法の計算を実施した. 通常のCZMを用いた静的陰解法による計算のみ, 途中で収束解が得られなかったが, 他の計算においては収束解を得ることができた. したがって, Zig-zag CZMによる静的陰解法は静的陰解法の収束性の問題を改善し, 実験値と整合した妥当な結果を与えることが分かった.
    ・OHT試験解析
    マトリクス割れを各層に2本ずつモデル化したSimple crack modelと各層に1mm間隔の複数本のマトリクス割れをモデル化したMultiple crack modelを対象に, Zig-zag CZMを用いた静的陰解法による計算を実施した. 計算によって得られたLPDと平均応力の関係を示すと, Simple crack modelの方がMultiple crack modelよりも若干高い強度が得られたが, 全ての解析ケースにおいて良い整合が得られた.
    【課題】
    今後は, 繊維破断のモデル化や熱残留応力を導入して解析精度の向上を目指す.
  • 下野 智史, 児玉 斎, 鈴木 克幸
    2017 年 2017 巻 p. 20170009
    発行日: 2017/07/24
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    本研究では, ゴルフショットにおける再現性の指標として身体負荷量を提案し, 飛距離と再現性を同時に満たすためのゴルフシャフトの最適設計を試みた. 飛距離の指標となるヘッドスピードの算出には有限要素法, 再現性の指標となる身体負荷量の算出にはマルチボディダイナミクスによる逆動力学解析を用いた. 身体負荷量は, 閾値を考慮した上半身が発揮する関節トルクの総量と定義した. 最適化計算時には, 計算負荷を考慮して応答曲面法を用いた. パレート解より, ヘッドスピードを重視した場合, 身体負荷量を重視した場合それぞれの最適ゴルフシャフト及びそのときの動作が得られた. ヘッドスピードを重視した場合の最適シャフトを作成し実証実験を行った. コントロールシャフトと比較して, 飛距離が平均8yds, 再現性の評価項目とした左右方向における弾道のバラつきが平均16yds改善された.
  • 陶 宇, 柴田 和也, 越塚 誠一
    2017 年 2017 巻 p. 20170010
    発行日: 2017/08/10
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル フリー
    The purpose of this study is to develop a snow model emphasizing the splashing phenomenon and the impact force acting on the train surface to ensure safe driving. Snow is assumed to be a Bingham fluid due to its peculiar shear thinning. A Bingham numerical model is proposed by using the Moving Particle Semi-Implicit (MPS) method and tested for collision between a train and snow. As well, verification of this special non-Newtonian fluid is carried out and good agreement is obtained by comparing the MPS numerical result with a reference solution. Furthermore, a collision simulation between train and snow is implemented in which a natural splashing phenomenon occurs by introducing the present Bingham snow model. Finally, the time history of pressure in the foremost area of the train head is analyzed, which can provide a reference for safe train driving.
  • 山口 裕矢, 高瀬 慎介, 森口 周二, 寺田 賢二郎, 小田 憲一, 上石 勲
    2017 年 2017 巻 p. 20170011
    発行日: 2017/08/29
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー
    本研究は雪崩の数値解析法を提案する. 日本国内における雪崩予測には, 着目する地点から雪崩の発生地点を見上げた仰角の値を基に雪崩到達距離を予測する「見通し角法」が主に用いられてきたが, 簡易的な手法であるため, 複雑な地形の条件を考慮することができない. これに対して, 近年では数値解析手法がいくつも提案されており, それらの手法は, 静水圧近似を用いた2次元解析や3次元有限差分法に基づくものであるが, 前者は3次元性に富んだ地形には静水圧近似が成り立たないことや, 乗り越えなどの鉛直方向への3次元的な挙動が予測できないこと, 後者には直行格子を用いるために地形の再現に限界があることなどで課題があると考えられる. 急峻な斜面や複雑な形状の斜面でも雪崩が発生しており, 今後様々な条件の雪崩災害に対応するためには, 上述した手法の問題を解決するために手法の確立が必要である. そこで本研究では, 非構造格子を用いたSUPG/PSPG法に基づく3次元安定化有限要素法を採用する. 非構造格子を用いることにより複雑な地形の再現度が高くなることが期待され, その上で乗り越えなどの3次元的な挙動を表現可能となる. 基礎方程式であるNavier-Stokes方程式および連続式に対し, 雪崩の流動特性を表現するためにビンガム流体モデルを適用する. ビンガム流体モデルは, せん断応力が小さい領域では非常に大きな粘性を持つために流動が起こらないが, せん断応力がせん断強度を超えると急激に粘性が低下し, 流動が発生するというように, 時間・空間的に流動特性が変化する. せん断強度にはクーロンの破壊規準を適用することで, 流動特性を表現する主なパラメータは, 降伏後のせん断強度, 粘着力, 内部摩擦角の3つとなる. 支配方程式の離散化については, 空間方向には流速・圧力について1次の四面体要素を, 時間方向にはCrank-Nicolson法を適用する. また, 移流速度は2次精度のAdams-bashforth法より算定する. 雪崩の自由表面の表現には界面補足法の一つであるVOF法を用いる. 固定メッシュ上でスカラー関数であるVOF関数により空気と雪崩の気液2相流を表現し, 界面の移動はVOF法に基づく移流方程式より計算する. 移流方程式はSUPG法に基づく安定化有限要素法により, 支配方程式と同様に離散化して計算する. VOF関数は気相領域では0, 液相領域では1, 自由表面では0.5の値をとり, これより気相領域はニュートン流体, 液相領域はビンガム流体として計算を行う. 手法の雪崩への適用性の検証のために, 既往の研究で実施された模型実験の再現解析を行い, 数値計算結果より得られる流動距離および堆積形状, 衝撃力について, 実験結果と比較を行った. まず流動距離と堆積形状について, 既往の研究を参考にビンガム流体モデルのパラメータを操作し, 検証した結果, 整合性のあるパラメータが確認された. その結果を用いて衝撃力について検証したところ, その最大値と時系列変化として妥当な結果が得られたことから, 検証項目について手法の再現性が確認された. 続いて2011年に月山沢で発生した雪崩を対象として手法を適用し, 最終的な雪崩の堆積状態について実際の状況と比較を行った.
    解析結果は実際の雪崩の流動挙動を精度良く再現しており, 複雑な地形, 防護壁の存在, 植生の影響などの複雑な条件下においても流動挙動を表現できることを確認した.
  • 胡 月, 趙 希禄, 山口 誉夫, 笹島 学, 笹沼 起史, 原 晃
    2017 年 2017 巻 p. 20170012
    発行日: 2017/09/25
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
    スピーカの設計としては, できるだけ忠実に元の音場を再現するのは目標としている. 音を忠実に再現するためには, スピーカの物理特性と再生した音場との関係を解明することが重要である. スピーカに要求される物理特性の一つは, 周波数領域での平坦な音圧周波数応答特性をもつことである. そのため, スピーカの振動解析に関する多くの研究が行われているが, 空気の粘性が考慮されていないため、音圧周波数応答特性の推定精度が低下してしまう可能性がある. 笹島らはイヤホンの音響特性を解析する際に, 空気の粘性減衰を考慮することで精度向上に成功している. イヤホンよりサイズが大きいスピーカの場合でも, スピーカのボイスコイルと磁気回路の間の空間は非常に狭いことから, 空気の粘性減衰が大きく, 推定誤差の要因になる可能性が非常に高く, したがって, 一般的な音響解析では無視される空気の粘性による減衰効果がスピーカの解析精度に対する考慮する必要がある. 本報はコーンスピーカを対象に, 空気の粘性減衰の影響を考慮するため, 独自で振動と音響の連成解析ソフト開発した. 節点変位を共通な未知数として, 対象とする場合の要素に重ねあわせることにより, コーンスピーカの振動と音響の連成解析を行う. 本報では, まず, 振動特性及び音圧周波数応答特性について測定値と空気の粘性を考慮した解析値及び空気の粘性減衰を考慮しない解析値との比較を行う. コーンの振動変位の実測値と解析値がほぼ同じ特徴をもつ結果が得られた. また, スピーカの音圧周波数応答特性の変化と特徴についても従来の文献の見解と一致し, 空気の粘性を考慮した解析法は高い解析精度が得られた. 次に, 本解析法の精度を確認した上で, コーンスピーカの設計上重要と考えられるボイスコイル周りの空気の挙動を検討する. 空気の粘性を考慮した本解析法を用い, 変位を未知数として解くことにより, 空気の動きを確認することが可能となった. ボイスコイルと磁気回路の間にある狭い空間の粘性抵抗などを調整することによって, 意図的にスピーカの細かい特性が設計できる可能性を示している. 最後に, 今まで十分に解明されていないコーンとエッジがスピーカの振動特性に及ぼす影響について詳細な検討を行う。金属材料と紙系材料で作られたコーンの振動特性を解析し, 材料違いによるコーンの振動特性の影響が明らかになった. また, 柔らかい材料と硬い材料で作られたエッジの振動特性についても解析し, コーンの形状を変えずに, エッジの特性だけを変更させながら, 意図的にスピーカの最初のピーク位置など細かい特性をコントロールする可能性を示している. 今後の課題として, 実際のコーンスピーカだけではなく, 複雑な形状のスピーカの解析も検討したいと考えている. さらに, スピーカ部品の形状や材料の物性値を変えて, 音圧周波数応答特性の平坦化を実現するための最適化設計に検討して行く予定である.
  • 関根 章裕, 越塚 誠一, 柴田 和也, 吉村 一樹, 石井 英二
    2017 年 2017 巻 p. 20170013
    発行日: 2017/10/16
    公開日: 2017/10/16
    ジャーナル フリー
    ガソリンエンジンの燃料インジェクタにおける噴霧特性はエンジンの効率に加えて環境面においても重要な要素となっている. 中でも, シリンダ内に直接燃料を噴射する直噴型では, ノズル内で生じるキャビテーションの様相が噴射された燃料の微粒化特性に大きな影響を及ぼすことが知られている. このため, ディーゼルエンジンを含めた直噴インジェクタのノズル内キャビテーションに関する研究は, 実験および数値解析を用いてこれまでに数多く行われている. 特に, 計算機の能力が向上した近年は数値解析を用いた研究が非常に盛んである. ところが, その多くが界面捕獲法などの格子や要素に基づいた手法であり, これらを用いない粒子法の例は非常に少ないという印象がある. しかし, 複雑な気液二相流であるノズル内のキャビテーション流れに対して, 界面がぼやけてしまうことがなく, 流体の界面の大変形や分裂・合体の扱いを得意とする粒子法の利点は大いに活かされると考える.
    本研究では粒子法の利点を活かすべく, 粒子法の一種であるMPS (Moving Particle Semi-implicit) 法を用いてノズル内キャビテーション解析のための新たなキャビテーションモデルの開発を行い, 検証を行った. ノズル流量は上流部と下流部の圧力差が大きくなるにつれて増加するが, ノズル内にキャビテーション領域が増えると, その増加傾向は停滞する. これは, 個々の気泡が集団として大きな気相空間を生じることで流路を塞ぐからだと考えられ, ノズル内に発生する気相領域の大きさおよび発生箇所は流れ場に大きな影響を及ぼしていると考えられる. このことに着目し, 提案モデルでは気泡の成長速度を直接的に計算することはせずにノズル内に生じる気相領域の大枠を捉えるようにモデル化をしている.
    MPS法におけるキャビテーションモデルには, 液体中の気泡の質量を各流体粒子に変数として持たせ, キャビテーション発生に伴う気泡の成長と崩壊を流体粒子の粒子径を変化させる従来モデルがある. 不均一粒子径を扱うこのモデルでは, 近傍粒子間で粒子径が大きく異なることによって計算の不安定性が増す, 内包する気泡の成長に伴う流体粒子の粒子径の変化率を任意の定数パラメータを用いて決定するためキャビテーション気泡の発生分布が大きく変わり得る, という問題を有していた. 当初, このモデルの前述した問題を排除した改良モデルを考案したが, 従来モデルに倣い気泡の成長速度を考慮する方法に簡略化されたRayleigh-Plesset方程式を用いたところ数値的に不安定になり易いという知見を得た.
    そこで考案したのが提案モデルであり, 気相には一様近似を用いて粒子を配置せず, 液相にのみ粒子を配置する手法となっている. 提案モデルでは, 液体内部で負圧が発生する場合, 粒子数密度が低下することによって液体内部に自由表面が発生するというMPS法の性質を活かし, 発生する界面に境界条件を付与することによってキャビテーション領域の模擬が行われる. したがって, 気泡の成長速度を直接的に計算することはしないので, 従来モデルやその改良モデルにおける問題点が生じない.
    提案モデルを用いたシュミットノズル内流れの解析では, 質量流量は実験結果とよく一致し, 差圧値が増大するにつれて流量が閉塞状態へと遷移する様子が確認された. また, ノズル内のキャビテーション領域の発生は, ノズル前後差圧が大きくなるにつれて, まずノズル入口角部で確認されるようになり, 次にノズル出口角部からも確認され, 最終的にはノズル下流全域で確認された. この傾向は, 実験結果に一致し, ノズル前後の差圧値に対するキャビテーション領域の分布も近い結果を示した.
  • 瀬戸山 雄, 田中 智行, 柳原 大輔, 村上 睦尚
    2017 年 2017 巻 p. 20170014
    発行日: 2017/10/17
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
    き裂を含むパネルの最終強度解析を実施した. 1軸圧縮下の矩形板中に存在する貫通き裂を解析対象とした. シェルモデルのみの場合, き裂近傍をソリッド要素でモデル化したシェルーソリッドモデルを用いて最終強度解析を実施した. ソリッド要素の隙間はゼロとしてき裂閉口を考慮するために接触条件を考慮した. き裂を含む板のモデル化, 座屈および後座屈解析を行い, き裂がパネルに及ぼす影響について調査を行なった結果について示す.
  • 新保 泰輝, 荒木 光一
    2017 年 2017 巻 p. 20170015
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/10/25
    ジャーナル フリー
    近年, 計測機器の高度化に伴い広域や1m以下の高解像度な数値標高モデル (DEM) が増えてきている. また, UAVの公共測量マニュアル (案) が制定されるなど, 点群データの活用が広まってきている. 今後ますますこれらのデータは高解像度化すると考えられる. データが高解像度化すると, 地形の表現精度が高くなるため, DEMの幅広い応用が見込まれる. ただし, DEMは広域や1m以下の高解像度になるとデータ量が数十GBになるため, いわゆるビッグデータになる. データ量を減らすためには, Spline関数のように節点のみでデータを保持することが望ましい. 節点のみでデータを保持した補間曲面を作成し, その補間曲面に対して地形解析を実施することでデータ量を削減した効率的な解析が実施できると考えられる. したがって, ビッグデータに対応した地形解析を実施するためには, 精度の良い補間曲面の作成手法やそれに適合した地形解析手法が必要である.
    本論文では, その基礎としてDEMに対する新たなHeaviside関数を提案し, Heaviside B-Spline関数 (HB-Spline関数) による補間を提案している.
    その結果, DEM点の存在する領域が任意形状, 標高不連続境界が多数存在する場合であっても, DEMデータの三次元補間曲面が簡易に得られることを示した.
  • 河合 浩志, 荻野 正雄, 塩谷 隆二, 山田 知典, 吉村 忍
    2017 年 2017 巻 p. 20170016
    発行日: 2017/11/15
    公開日: 2017/11/15
    ジャーナル フリー
    領域分割法 (DDM) は有限要素法のための効率的な並列解法である。マルチコアCPUアーキテクチャにおいてDDMにおける部分領域ローカルソルバーの性能を最適化するために、著者らは反復ソルバーベースアプローチを提案する。これはDDMに基づく「オンキャッシュの」反復ソルバーを実現するものである。SSOR前処理およびEisenstat技法を用いた、OpenMP並列化されたCGソルバーによって実装された部分領域ローカルソルバーは、マルチコアPCクラスタにおいて、既存の直接法ソルバーにもとづく実装よりもメモリ使用において効率的であるだけでなく、計算時間においてもほぼ同等あるいは優位となることが分かった。
  • 田中 真人, 笹川 崇, 表 竜二, 藤井 文夫
    2017 年 2017 巻 p. 20170017
    発行日: 2017/12/15
    公開日: 2017/12/15
    ジャーナル フリー
    材料の破壊に先行して小さな擾乱で構造の崩壊を招く座屈不安定性は, 設計上最も注意を払わなければならない現象のひとつである. よく知られているように, 座屈の基本的なタイプは「極限点」と「分岐点」の2種類に分類される. 極限点を起点とする座屈は, 荷重変位曲線の主経路の変形モードと座屈モードが一致し, わずかな荷重増分に対して変形が急成長する現象である. 特に極限点が荷重極大点となるとき, 荷重変位曲線は不安定経路に達し, 次の安定なつり合い状態まで飛び移るか, そのまま屈服して崩壊してしまう. 一方, 分岐点を起点とする分岐座屈は, 荷重変位曲線の主経路が分岐経路へと枝分かれする現象であり, その座屈後の状態からさらに「非対称分岐」, 「安定対称分岐」, 「不安定対称分岐」に分類される. 極限点は, その点に達する前に著しい剛性低下が現れるため, 比較的予測が容易である. 一方, 分岐点は主経路から突如分岐経路へ切り替わるため, 一般的に予測が困難である. 特に不安定な方向に枝分かれする非対称分岐座屈や不安定対称分岐座屈は, 設計上最も回避すべき現象のひとつであるといえる. 従来は, 系に起こる座屈の安定性・不安定性の判断は, 適当な初期不整を解析形状に与えてトライアンドエラー式に後座屈解析を実施するか, 特異点において座屈モードの情報を元に分岐経路への切り替えを行う高度なスイッチング技術を使わない限り調べることができなかった. しかしながら, このような初期不整の影響を逐次調べていく方法論や特異点でのスイッチング技術は多くの経験則と膨大な労力を要する. 著者らは, 後座屈解析を要しない新たな分岐座屈解析手法として, 超双対数(HDN)の使用を前提とした2-mode漸近展開法を提案する. 本手法では恣意的な初期不整を与えることが不要であり, また後座屈解析を必要としないことから, 非常に効率的に座屈のタイプを特定することが可能になる. 本手法は, Koiterの学位論文に代表される漸近分岐理論をベースにしている. Koiterは分岐点近傍で摂動展開した分岐方程式の中の支配的な高次項を特定することによって分岐座屈のタイプを識別した. この方法では, 非対称分岐・対称分岐の識別, および座屈後の安定性・不安定性の識別を行うために, 接線剛性マトリクスの独立変数に関する高階微分値が必要になる. また, Koiterの手法では, 支配的な高次項を特定するためにLiapunov-Schmidt-Koiter簡約と呼ばれる自由度の消去を行う必要がある. 一般のFEM解析においては剛性マトリクスの高階微分値を解析的に求めることは式の複雑性からみて非現実的であり, また差分法による誤差の大きい数値微分法を使って算出することは計算精度の面からみて非実用的である. また, Liapunov-Schmidt-Koiter簡約は自由度数が多いと実施不可能である. このため, Koiter理論は数学の抽象モデルとして扱われるに過ぎなかった. したがって従来までは, 剛性方程式の低次情報のみを用いて分岐構造を解明する手法が盛んに研究されてきた. このような観点から, 特異点における剛性行列の高次導関数情報から座屈のタイプを特定し, その後の系の後座屈挙動を事前に予測できる意義は大きい. HDNによる高精度数値微分法を利用すれば, 数値誤差なしで高階微分値を得ることが可能になる. さらに, 本論文では主経路と分岐経路の2つの変形モードを用いることによって, Liapunov-Schmidt-Koiter簡約を実施することなく, 系の分岐方程式を自由度の多寡に拘わらず常に2元連立3次方程式へ帰着できる2-mode漸近展開法を提案する. これにより, 後座屈解析を要することなく, 特異点における2元連立3次分岐方程式の実数解の個数を数え挙げるだけで, 分岐座屈のタイプを高い信頼性で特定することが可能になる. また, 分岐方程式の実数解の分布は, グラフ描画ソフトを利用することで, 視覚的に瞬時に提示することが可能である. これらの技術により, Koiterによる漸近理論を工学的に応用することが可能になったといえる. 本論文では, 特に, HDNを用いた2-mode漸近展開法を非線形有限要素法プログラムへ効率的に実装する方法を詳細に示し, また, 実用解析規模の数値計算例を通じて本手法の妥当性と有用性を確認する.
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