日本臨床免疫学会会誌
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シンポジウム
シンポジウム2-3  Syk標的治療
定 清直
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2012 年 35 巻 4 号 p. 279

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抄録

  チロシンキナーゼのみならず,全てのプロテインキナーゼのキナーゼドメインはアミノ酸相同性を有している.このことはあるキナーゼ阻害薬から,構造を少しずつ変化することにより他のキナーゼ阻害薬が開発できることを示しており,例としてプロテインキナーゼCの阻害薬でv-Ablにも阻害効果を持つ化合物からBcr-Ablに阻害効果を持つ化合物が開発され,さらにより特異性を高めたイマチニブ(STI-571)が開発されたことが挙げられる.このことは,in vitroで基質特異性が高い阻害薬を開発しても,in vivoでの投与例では他のキナーゼにも影響を及ぼす可能性を示唆する.近年,Sykのシグナル伝達経路についての理解が進み,細胞内に存在するSyk標的分子(アダプター蛋白質LAT)のリン酸化を指標とした新しいSyk阻害薬(R406,R788/フォスタマチニブ)が開発され,低分子化合物による関節リウマチや特発性血小板減少性紫斑病の治療の新たな展開として注目されている.ほかにも真菌やウイルス感染に対する免疫応答の調節や,乳がん,メラノーマ,急性骨髄性白血病の治療標的因子としてSykが着目されている.さらにごく最近の研究では,Sykが網膜芽細胞腫の癌遺伝子であり,網膜芽細胞腫の新規治療ターゲットであることが報告された.これは遺伝子の変化ではなく,エピジェネティックな変化により,正常組織では発現していないSyk蛋白質が,癌組織にて高発現することによるものである.

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© 2012 日本臨床免疫学会
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