抄録
特定の抗原特異性を有するリンパ球を取り出して増やす事(クローニング)が自在にできれば,免疫反応の関与するさまざまな病気の治療に応用できるであろう.実際にB細胞については随分以前からB細胞をハイブリドーマという形でクローニングし,その抗体を好きなだけ得る技術が可能となっていた.T細胞でも不死化によるクローニング法は随分以前に樹立されているが,T細胞の場合は生体で「細胞」として働くから,不死化したような細胞は臨床応用に適さなかった.そこで我々は,iPS細胞技術を用いてT細胞をクローニングしようと考えた.まず抗原特異的なT細胞からiPS細胞を作製する(T-iPS細胞).T-iPS細胞には元のT細胞が有していた再構成されたT細胞レセプター遺伝子の構造が受け継がれているので,そのiPS細胞からT細胞を分化誘導すると,元のT細胞と同じ特異性のT細胞だけが生成する.この方法でクローニングすると,T-iPS細胞の段階で好きなだけ増やすことができる一方で,分化誘導して正常なT細胞を得ることができる.すなわち,患者に投与できるT細胞を好きなだけ得ることができる.我々はこの方法をがんの免疫細胞療法に応用できないかと考え,最近,ヒトのメラノーマに特有のMART-1抗原に反応できるキラーT細胞からiPS細胞を作製すること,さらにそのiPS細胞からMART-1抗原特異的なT細胞を再生することに成功した(Vizcardo et al, Cell Stem Cell, 12: 31, 2013).現時点では自家移植の系を想定して研究を進めているが,一方で他家移植の系も想定している.