抄録
成熟過程で生じた自己反応性T細胞の多くは胸腺における負の選択(中枢性免疫寛容)により除去される.負の選択を免れた自己反応性T細胞は制御性T細胞(Treg)の働きによって抑制される(末梢性免疫寛容).転写因子FOXP3はTregの分化に必須のマスター遺伝子であり,その変異は多彩な自己免疫疾患を呈するimmunedysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, X-linked(IPEX)症候群を来す.IPEX症候群における難治性下痢は通常乳児期に発症し,病理学的には消化管粘膜固有層への強い細胞浸潤と絨毛萎縮を,また血清学的には消化管上皮細胞に対する自己抗体の存在を特徴とする.内分泌疾患としては新生児・乳児期に発症する1型糖尿病と甲状腺機能低下症が多くいずれも抗GAD抗体・抗甲状腺抗体が陽性となる.その他に湿疹・天疱瘡・禿瘡などの皮膚疾患,自己免疫性血球減少,糸球体腎炎・間質性腎炎,血管炎などの合併も知られる.診断にはFOXP3蛋白の細胞質内染色によるスクリーニングも用いられるが,最終診断には遺伝子解析を要する.治療にはステロイド薬とシクロスポリンないしタクロリムスの併用が有用であるが,造血幹細胞移植が唯一の根治的療法である.AIRE遺伝子変異によって中枢性免疫寛容の破綻を来すAPECEDとの標的自己抗原の違いは,中枢ないし末梢性免疫寛容への依存度が抗原によって異なる可能性を示唆する.