抄録
【目的】抗リン脂質抗体は不育症の原因の10%を占め唯一治療可能な原因であるが,抗リン脂質抗体は多様な抗体の集まりであるため多くの測定法があるが,陽性例に対する抗凝固療法が出産率を改善する産科的有用性は確立されていない.11種類の測定法の有用性を調べ,産科抗リン脂質抗体測定法標準化を目的とする.【方法】同意を得た560名の不育症患者を対象とした.従来法β2GPI依存性抗カルジオリピン(aCL)抗体,ループスアンチコアグラントLA-希釈ラッセル蛇毒(RVVT)法,LA-aPTT法とLA-リン脂質PL中和法,フォスファチジルセリンプロトロンビン(aPS/PT)IgG・M,古典的aCL IgG・M,aCL IgG・M・A,β2GPI IgG・M・A(Phadia)を測定し,その後の出産率と胎児染色体を調べ,相関,APS特異度,産科的有用性を調べた.【結果】β2GPI aCL,古典的CL IgG, β2GPI IgG, CL IgGまたLA-aPTT,LA- RVVT,PL中和法の間に強い相関を認めた.陽性治療・無治療の出産率はPL中和法(98percentile基準)では85.7% vs 59.3%(p=0.024),aPS/PT-IgG(99percentile基準)では,治療による出産率改善を認めた.CL IgG, IgMはいずれの基準を用いても有用性はなかった.【結論】PL中和法は98percentileでも有用であった.aPS/PT IgGも有用であり,抗リン脂質抗体症候群診断基準に加える必要がある.陽性率が低くても特異度の高い検査を複数組み合わせて行うことで過不足の少ない不育症医療ができると考えられた.