日本臨床免疫学会会誌
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シンポジウム
シンポジウム3-5 歯周炎と母子免疫異常
早川 智広畑 直子相澤 志保子
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2015 年 38 巻 4 号 p. 248

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抄録

  妊娠では,母子間に特異な寛容が成立する.しかし,胎盤局所のみならず全身あるいは遠隔臓器の炎症は寛容を破綻させ,妊娠合併症の要因となる.歯周病は種々の全身疾患に影響を与えるが,妊娠合併症のリスク因子としても重要である.疫学的に歯周病妊婦では早産・低体重児出産や妊娠高血圧症候群のリスクが高く,歯周病菌Porphyromonas gingivalis(P.g)菌体毒素が直接に,あるいは母体の免疫系を介して胎盤を傷害する可能性や,子宮収縮を起こす可能性が指摘されている.また妊娠高血圧症候群の発症にはtrophoblast浸潤障害による胎盤の血流不全と,細胞性免疫の活性化による母児寛容の破綻が想定されている.我々は不死化絨毛細胞HTR-8/Svneo(H8)の生存に影響しない濃度でP.g培養上清を加え培養した.その結果,濃度依存性に基質浸潤抑制と形態変化を光顕・電顕で認め,vimentine,E-Cadherinの免疫染色によりepithelial to mesenchymal transition(EMT)の抑制を認めた.Microarrayによる網羅的発現解析では,細胞接着因子や細胞骨格分子のみならず,IL-10発現が著しく抑制された.本研究からP.gの産生する可溶性成分によって,trophoblastのEMTが抑制されラセン動脈への浸潤が低下すること,胎盤に対する母体の免疫寛容を阻害することが示唆された.妊娠初期において既に歯周病菌が胎盤形成に影響をあたえることから,妊娠前から歯科的管理を行うことの重要性が示唆された.

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© 2015 日本臨床免疫学会
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